番外編短編・北欧展
一時は人生迷子中だった明日香だったが、今は夢も見つかり、元気にカフェの仕事もしていた。
そんなある日の事。
「岡辺さん、とあるデパートで北欧展っていうイベントやってるんだけど、一緒に行かない?」
唐突に店長に誘われた。もうそろそろ閉店間際の不意打ちだった。
頭がフリーズする。これは一体どういう意味の誘いだろう。元々店長は北欧に一緒に行こう等、心臓に悪い言葉もナチュラルに発していたが。
「い、いや。カフェの新しい商品のアイデア見つけに行きたいというか」
「は、はあ」
「取材だ。時給も出すから」
つまり仕事。
そういう意味かと明日香はホッと胸を撫で下ろすが、当日、店長と二人きりで行動する事が慣れない。
そもそもデパートで行われた北欧展は大盛況で客も多い。シナモンロールやムンキなども売り切れだ。
何とかカルダモンロールを確保し、イートインスペースに座った時は、二人とも少し疲れている。
北欧展は木彫りの芸術作品、絵画なども展示されていたが、この混みようだとゆっくり見学できないかもしれない。
しかし、何とか確保したカルダモンロールを齧ると、明日香の表情が一変した。
見た目は少しシナモンロールにも似ているが、カルダモンの控えめで爽やかな匂いが良い。それに表面はさくさくしているのに、中はもっちりとし、口の中がとろけそう。
甘みもあるがカルダモンの爽やかな風味が絶妙。最初はちょっと薬っぽいハーブの匂いが苦手そうだったが、食べてみたら全く違う。
「店長! このカルダモンロールめちゃくちゃ美味しいです!」
思わず興奮して伝えたが,目の前にいる店長は微妙な表情だった。
「そう?」
そっけなく言われた。
「ああ、でも本番の北欧のとは少し違うんですか?」
「うん。そうだね」
その後、なぜかずっと店長は不機嫌だったが,カフェのメニューにもカルダモンロールが追加され、明日香も毎日にようにお土産でそれを貰った。
確かに店長の作ったカルダモンロールも最高だったが、毎日のようにお土産を与えている店長の意図は全くわからない。




