番外編短編・チーズコーヒー
ここは北欧風カフェ・午後三時のフィーカの厨房だ。もう夕方だったが、バイト店員である明日香はせっせと洗い物をしていた。
明日香は色々と訳がアリのアラサー女だ。転職を繰り返し、人生迷子中だったが、今はここでのバイトを楽しみながら、人生の答えを模索中。フィンランド人と日本人のハーフの店長・雨川麦は優しく、丁寧だ。いわゆるイケメンだったが、仕事はとてもしやすい上司だったが。
今日はお客様がたくさん来店した。おかげで明日香も店長もバタバタと忙しく、昼食も食べ損ねていた。洗い場の食器も溜まり、今日は一時間の残業中だ。滅多にない残業だった。元々ブラック企業にいた明日香にとっては、何と言う事もない残業だったが、お腹は減る。
「岡辺さん、洗い物はもうそのぐらいでいいから」
「店長、いいんですか?」
「あとは僕がやっておくから。残業代もつけとく」
その待遇の良さに明日香の目元は熱くなる。酷い職場にいた為か、ちょっとした事でも感動してしまうが。
「って店長。このコーヒーはなんですか?」
店長はコーヒーをハンドドリップしていたが、カップの中にはチーズが。
「これ? 今作っているのは北欧式のチーズコーヒーだよ」
「チーズコーヒー? なんですか?」
それは初耳だった。カフェのメニューにもない。
「元々はフィンランドの先住民が飲んでいたコーヒーだね。本当はヤギやトナカイの乳から作るチーズを入れるんだが、ここは日本だから、モッツァレラで代用するけど」
店長はそんな珍しいコーヒーを作り、明日香にも差し出す。
「チーズ入りのコーヒーって……」
驚いた。チーズの匂いはしないが、味の想像が全くつかない。
店長によると、元々カフェのメニューだったが、チーズ入りのコーヒーの字面から食わず嫌いされ、今はメニューから外したそう。その代わり木苺のジュースなどが人気というが。
「確かに驚くけど、美味しいんだよな。あぁ、至福」
しかし店長は目を細め、チーズ入りのコーヒーを楽しんでいた。
「確かに驚いたけど……」
明日香はそう呟きつつ、一口飲んでみた。
「あれ? 何かシルキー。いや、ミルキー? そんな不味くない。というかチーズの塩気がコーヒーの苦味とあう!」
意外な組み合わせだったが、飲んでいくうちに癖になり、飲み干してしまった。しかもチーズが腹にたまり、昼食を食べ損ねた時にもピッタリなコーヒーだった。
「これ、メニューに復活させましょう。お客様に疑問がられても、ちゃんと説明すれば受けますよ!」
ついつい明日香は熱弁してしまう。
「そうかな? 本番のとはちょっと違うけど?」
「こんな飲み方があったなんて驚きですよ。絶対日本人にも受けますって」
珍しく積極的に主張する明日香に店長はタジタジだ。一見とっつきにくい雰囲気の店長だったが、今は苦笑し、明日香の熱に押されている。
「まあ、検討します」
「ええ、店長。お願いします!」
気づくともう窓の外は暗くなっていた。小雨も降り始め、外の雰囲気はしっとりとしてきたが、ここは二人の笑い事が響き、暗い雰囲気などは全く消えてしまった。




