希望の光とクリスタルコーヒーブレッド(1)
ゴールデンウィークが終わった。街路樹の緑も濃くなり、春も終わりかけ。明日香の花粉症もすっかり直った頃、シェアハウスに和美が引っ越してきた。
本来シェアハウスは四人住める。今までは明日香と真緒の二人だけだったので、ようやくシェアハウスらしい雰囲気に変わっていた。
元々和美はミニマリストらしく、シェアハウスには家具もあるので、引越しはスーツケース一つであっけないものだったが、歓迎パーティーも開く事に。
カフェのバイトがある明日香、大学がある真緒が集まれる夕方、和美を主役に歓迎パーティーが始まった。
店長から貰ったクリスタルコーヒーブレッドや苺のケーキもテーブルへ。苺のケーキも派手だが、クリスタルコーヒーブレッドも負けていない。一見デニッシュもような菓子パンに見えるが、シュガーグレイスは美しく、その名前の通りキラキラとしたパンだ。シナモンやカルダモンのスパイスの匂いもし、日本の菓子パンとも違う。店長の和美が越してくる事を話したら、わざわざ作ってくれたものだ。
「わー、この苺のケーキもキラキラしたパンも映える! めちゃくちゃ美味しそう!」
これには和美も喜び、シェアハウスのリビングには華やか声が響く。
「私はバイト先のスーパーで買ったピザ。あとコーラとかも買ってきた!」
真緒はそう言い、ドリンク類も並べる。店長からの北欧のケーキやパンもあるが、子供のパーティーのような雰囲気だ。酒は一応まだ未成年の真緒に遠慮し控える事にした。そもそもシェアハウスのリビングでは飲酒禁止だった。
酒も入っていないものだが、女子が三人そろえば賑やかだ。真緒はサークルの恋愛模様、和美は投資で儲けた話など話題は尽きない。テーブルも上の美味しいものもハイスピードで消えていく。
歓迎パーティーも悪くない。明日香も笑顔でクリスタルコーヒーブレッドを楽しむ。
確か店長はこんな事を言っていた。北欧は日が短い。冬も長い。だから生活を明るくする工夫が多い。このクリスタルコーヒーブッッドも、砂糖でキラキラさせるのはそんな工夫の一つではないかという。照明、インテリア、食器などのデザインにこだわるのもそう。サウナもそう。クリスマスなどのイベントごとも大事にしているとか。
「北欧は暗くて寒い所っていうイメージだけど、逆かもね。だからこそ希望がある。希望の光がいっぱいの土地だ」
そう笑顔で話していた店長の顔をどうしても思い出してしまったが。
「あれー? 明日香さん、何ニヤニヤ笑っているの?」
真緒に突っ込まれた。
「そうだよ、明日香ちゃん。妙に楽しそう。何か良い事でもあった?」
和美にも言われた。
「そ、それは和美さんが越してきて嬉しいっていうか」
「えー、嘘!」
当の本人は全く信じず、コーラをちびちび飲んでいた。
「あれじゃん? やっぱり変な会社辞めてよかったんだよ。転職活動も休憩中なんでしょ? ストレスから解放されたんだよ」
真緒はコメンテーターのように解説。あながち間違ってない。明日香は深く頷いた。しかしその後、爆弾を投じた。
「それに店長に恋してるもんね?」
「ちょ、違うし!」
明日香は真っ赤になって咳き込んだ。
「な、何でそんな話になるんですかー!」
口で必死に否定すればするほど、頭の中で店長の顔が浮かんで困る。
「そうなんだ。ま、店長はイケメンだからね!」
和美はもっとニヤニヤ笑い、戸惑っている明日香をスルー。
「ね、店長は優しいもんね」
真緒にけしかけられ、さらに明日香は真っ赤になり、下を向く事しかできない。
「そうだ、今度の土曜日から教会でゴスペル教室もやるらしいよ。何と先生があの店長!」
もっと真緒にけしけられた。
「明日香さん、行ってみたら?」
「いや、でも」
「いいじゃん」
和美にもけしかけられた。一体なぜ二人して押されるのが不明なのだが。
「ま、まあ、気晴らしで行ってみるかな?」
こうまで言われたら断れない。結局、翌日、カフェで店長に会った時、ゴスペル教室に入会する事を伝えていた。
「やった! ゴスペル教室は毎年人数が減っていて存続の危機だったんだよ」
店長は無邪気に笑っていた。
「名村さんも来るから。岡辺さんも来てくれて嬉しい」
この店長の笑顔に明日香は逆らえそうにない。心にぽっと灯りがさすような笑顔だった。きっと寒くて暗い夜に見たら、ホッとして泣いてしまいそう。




