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北欧おやつ時間〜夢のケーキと午後三時のフィーカ〜  作者: 地野千塩


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人生の実とベリーケーキ(5)

 ゴールデンウイークも終わり、カフェの営業も再開だ。明日香もいつもより早起きをし、張り切ってカフェに向かう。


「にゃ〜」


 従業員入り口の前には猫のムンキがゴロゴロとしていた。初夏の日差しが入り、目を細め、実に気が抜けた表情だった。


「ムンちゃん、元気?」


 猫のムンキのホワホワとした柔らかな背中を撫でながら挨拶した。


「むにゃ〜」

「うーん、この子ちょっと私の事を忘れているっぽいけど、まあ、いいか」

「みゃ〜!」

「じゃあね、ムンちゃん!」


 こうして猫のムンキと別れ、バックヤードで帽子をかぶり、エプロンをつけ、手を洗うと厨房へ。


「岡辺さん! 苺やブルーベリーをいっぱい農家さんから仕入れた!」


 挨拶する前から店長がテンションが高めだ。厨房の作業台の上には、農家から仕入れた果実が山積み。


「えー、すごいいっぱい」

「規格外のも仕入れられたから。このままジュースやジャムにしてもいいけど!」


 いつになく豊作に大喜びしている店長。明日香はそんな店長に押さえながらも果実の下処理やカットをし、ケーキのデコレーションなども手伝い、開店準備まで忙しく動き回った。


 開店後も忙しい。今日はゴールデンウイーク明けの久々の営業という事で常連客が押しかけ、お昼にはケーキもパンもほとんど消えてしまった。


「え!? 売り切れ!?」


 常連の名村はスカスカになったチルドケースを見ながら失望を隠せない。


 芸術家の名村は、一般的な中年男性と違い、今日もオシャレなシャツやアクセサリーなどもしていたが、ガッカリしている姿は、子供のよう。


 何でも最近、評論家達にも酷評されより失望中だったと言うが。


「な、名村さん。大丈夫ですよ! まだムンキも少し残ってますし、明日の分も今、予約しましょう!」


 落ち込んでいる名村が見ていられなくなり、思わず励ましてしまった。


「そうですよ、名村さん。そんな評論家なんて無視でオッケーですよ。名村さんが良いと思う作品の方が一般の人から人評判いいんでしょう?」


 店長もいつのまにか名村の側にたやって来て励ましていた。


「そうか。そうだよな。また頑張って評論家を唸らせる作品を作ればいいんだし!」


 店長の励ましに名村は笑顔を取り戻し、スキップしながら帰って行った。明日の分の予約も済ませると「岡辺さん、気がきくわ!」と白い歯を店ながら明るい声を出す。


「名村さん、元気出てよかったね」


 店長も名村に負けないぐらいの笑顔。


 ふと、明日香の中でぴんと閃くものがある。こんな風に人を励まし、力になれる事ができたら楽しそう。


 そんな気持ちが浮かぶが、今は仕事中だ。ケーキやパンが無くなっても客足は止まらず、コーヒーやベリージュースだけでも笑顔のお客様が多い。


 そんな笑顔を思い出しながら、厨房で皿やコップを洗っていると楽しくなってきた。


 本来の仕事はこういうものかもしれない。今までの仕事は、ただ目の前のタスクに追われているだけだった。まるで荒地に種や肥料を植えているようなものだった。


 今は明日香自身も好きな事をしながら、無駄な時間を過ごしながら土壌を整えていた。


 今なら客の笑顔を思い出す余裕すらあり、皿洗いとう作業中でも、鼻歌が出てしまうぐらいだ。


「岡辺さん、いいね! うちは鼻歌交じりでもオッケー!」


 店長はそんな明日香に冗談言って笑ってる。余計に明日香は笑ってしまった事は言うまでもない。


「店長ありがとうございます。ここでの仕事は鼻歌出るぐらい楽しいですねー」


 綺麗になったコップや皿、カラトリーなを眺めながら言う。


「そうでしょ?」


 店長は少し胸を張り、いつになく自信満々だった。


 まだ人生迷子中だが、どうやら目的地は見つかりそう。手段は何でも良い。客が笑顔になれる事なら何でもやってみたかった。


 その後、カフェのバイトもあっという間に終わり、シェアハウスへ帰った。


 和美もシェアハウスに住む事になり、数日後に引越してくるらしい。その事を思い出すと、余計に楽しくなって来るが。


「明日香さん、何か荷物届いてたよ」


 帰るとすぐに真緒から個包を渡された。


「何これ?」


 宛名は母からだった。中身は缶詰、レトルト、書類とある。


「仕送りじゃない?」

「そうかな?」


 母は仕送りなど送ってくるようなタイプに見えないが、中身を開けると本当に缶詰やレトルト食品が詰まっていた。


 それに書類も。何かノートのようなものが封筒に入ってる。


「何これ? ノート?」


 真緒は興味がなさそうに二階に自室へ。明日香はリビングで一人、このノートを開く。


 母からのメモも挟まっていた。押入れにあった子供の頃のノートで、破棄するのも気が引け、こうして明日香本人に送ったという。メモの最後には「夢みてもいいんでは? by母より」と。


「何このノート?」


 どうやら小学五年生ぐらいのときに書いていたノートで、当時の明日香の夢がたくさん綴られていた。


 拙い字や絵ばかりだ。「大統領になって世界平和を実現する」という夢には、黒歴史すぎて見ているだけでも恥ずかしい。明日香の頬はすっかり赤くなっている。


「私の将来の一番の夢。スクールカウンセラーになっていじめられてる子や登校拒否の子の話を聞きたい、か……」


 しかし当時の自分を笑えない。具体的な夢が書かれた所は、今の明日香が忘れているものがある。


「そっか。昔の自分は、人の話を聞いたりするのが好きだったんだよね……」


 それがいつの間にか忘れてしまった。いつの間にか世間体、見栄、他人の目、お金で物事を決める癖がついてしまった。自分の心を置いてきぼりにしながら。


 今は当時の自分から「夢を忘れないで!」と訴えられているような……。


「でも、また夢みてもいいはず」


 明日香はそう呟くと、ノートを見つめていた。

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