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北欧おやつ時間〜夢のケーキと午後三時のフィーカ〜  作者: 地野千塩


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人の器とカルヤラン・ピーラッカ(3)

 明日香は実家の自室を掃除していた。シェアハウスに住む事が決まった事もあるが、まずは不必要なものを捨てている。


 一番不必要なものは、投資関係の書籍や資料だ。結局全部ゴミになってしまった。不安を動機に始めた事は、どうも上手くいかないらしい。明日香は高校生の時、周囲がどんどん垢抜けていくのを不安になり、メイクやヘアセットなども頑張ったが、どうも良い結果にはならなかった。きっと楽しみや喜びが動機で何かをしている人には勝てないのだろう。


「うーん、読んでない本を捨てるのは、ちょっと勿体ないか?」


 だんだんと部屋は綺麗になって来たが、本は和美にもあげることにした。投資関係で親しくなった友達だが、明日香が捨てようとした本のタイトルを連絡すると、是非欲しいというので、カフェに来た時にでも渡す約束もした。


 後は汚れた服や下着も処分したら気分もスッキリ。シェアハウスに持っていくものもコンパクトにまとめ、引越し作業も時間をかけずに終わった。


 個室の部屋の窓からは、カフェも見える。元々教会だったカフェは十字架のオブジェも残り、春の日差しに照らされていた。


 ようやく引越しも終わったが、いろいろとて手続きもある。役所にも行く必要もあったが、まずはひと段落終わった。


「あ、そうだ。真緒さんに挨拶もしなきゃ」


 といっても、まだ真緒の顔は全く見ていない。玄関に靴もなかった。一応個室の方にノックしたが、人がいる気配もない。


 そこに違和感を持つつつも、真緒は大学生だ。若い。いろいろな付き合いもあるだろう。シェアハウスといってもプライバシーの侵害はできない。


 そう思っていたが、引越ししてから三日目。シェアハウスの暮らしは全く不便がなく、カフェへの通勤も楽。たまに田中や店長からもご飯を作って貰い、まさに天国のような暮らしが始まったが、真緒とは一秒も顔を合わせていなかった。


 もしかしたら旅行にでも行っているのだろうとも思ったが、冷蔵庫の中身を見ていると、一応この家には帰って来ているらしい。


「真緒さん、まさか私のこと、避けているとか?


 冷蔵庫を見ながら不安にもなる。真緒のシールが貼られた栄養ゼリーや豆乳を見ながら、嫌な予感もしてきた。


 明日香は何もしていないつもりだが、知らず知らずのうちに嫌われているとか……。


「という事で店長。真緒さんと全く顔を合わせていません。どういう事でしょうか」


 カフェの開店準備の為、カルヤラン・ピーラッカを形成中だった明日香。確かに形成は少し難しい。ミルク粥を多く盛り付けると失敗しやすい。かといって少ない盛り付けだと見栄えが著しく悪い。味のバランスも悪くなるだろう。


 こうして手を動かしながらも、真緒の事が気になり、ゆで卵を作っている店長に相談してしまう。


「一度もシェアハウスで会っていないんです。もしかしたら、私との暮らしが嫌なのかな」

「それは証拠が無いんでは? まずは本人に聞いたら?」


 店長のアドバイスはもっともなものだった。


「そうですね。あ、こぼしたー」


 ミルク粥を生地の上に多く乗せすぎてしまい、形成は失敗。


「まあ、パンにも人にも器があるから。器以上ものを載せても、少な過ぎても難しいね」


 店長は苦笑しつつ、カルヤラン・ピーラッカの見本を作ってくれた。明日香が作ったものより明らかに綺麗で早い。


「器って?」


 イマイチ店長の言いたい事がわからない。哲学的か。


「じゃあ、大ヒントだよ」

「え、ヒント?」


 店長はまたカルヤラン・ピーラッカを作りながら言う。


「田中さんによると、真緒さんは将来の夢の為に夜勤や日勤のバイトも入れて忙しいらしい」

「え?」

「なんか海外でワーキングホリデーっていうのをしたいみたい。そのためにはお金も必要なんだってさ」

「という事は?」

「別に岡辺さんを避けてる訳では無いと思う」


 店長は出来上がったカリヤラン・ピーラッカを見せる。そこには綺麗な器形のパン。ひだも均一でお粥の量も均一。


「なんだ、そういう事だったら……」


 明日香はホッとしかけたが、同時に心配にもなった。そんなバイトを詰め込んで大丈夫なのだろうか。真緒の第一印象は元気そうな女性だったが、頑張りすぎるのは……。


「やっぱり器以上の事をするのは、危ないかも?」


 何かがピンときて明日香は呟いていた。今はなんとなく店長が言いたい事もわかる。


 その後、カルヤラン・ピーラッカが焼き上がり、メニューにも出したが、賛否両論だった。常連客でもあり、芸術家の名村は気に入っていたが、女性客はお粥入りだと聞くと、躊躇している。見た目は可愛いので写真だけ撮る客女性もいた。


 そうは言っても店長の絶妙な勘で売れ残りはなく、今日も無事にバイトが終わった。

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