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「愛理ちゃん、ぼくと結婚してくれる?」
「玲央はわたしのことすきなの?」
「うん、愛理ちゃんのこと大好きなんだ。ずっとずっと、大好きだからね」
「じゃあ、私をお嫁さんにして!」
「約束だよ、愛理ちゃん」
「約束ね、玲央」
アラームのけたたましい音で目が覚めたのは、二十五歳独身、彼氏いない歴=年齢の高橋愛理だった。
愛理は懐かしい夢を見てなんだか胸が切なくなる。玲央は今頃どうしてるんだろうと考えながら、仕事へ行く支度をした。
玲央は家の近くに住んでいた幼なじみで、小学四年生の時に父親の転勤で飛行機で行かなければ会えない場所まで引っ越していったのだ。
愛理の初恋は玲央で、それ以来ときめくような時はあったものの、恋愛らしいものはしていなかった。
というのも、玲央がイケメンすぎたのだ。小鳥遊玲央、高橋愛理と出席番号順が前後になったので、そこから始まった縁だった。
玲央は小学生ながらも顔が整ったかっこいい男の子で、愛理だけには優しかった。友達やほかの女子は名字呼びなのに、愛理だけ『愛理ちゃん』と名前で呼ばれていたのだ。
かっこいい玲央に特別扱いされて、嫉妬でつまらない嫌がらせをされたこともあったが、玲央が引っ越してからはほかの男の子に目移りして、いつの間にか忘れられていた玲央を想うと悲しくなった。
小学生の恋というものは、淡くてシャボン玉のように簡単に割れてしまうものなんだな、と幼いながらに理解した。
しかし、愛理は自分を特別扱いしてくれた玲央のことが忘れられず、いつまで経っても恋愛できないまま社会人になってしまったのだ。
就職するにあたり、上京した愛理は東京で一人暮らしを始めた。
早いもので一人暮らしをしてから三年が経ち、新卒で就職した会社では後輩ができたり先輩として指導したりと、それなりに充実していた。社畜気味ではあったが、恋愛のれの字もない愛理からすれば、もはや仕事が恋人だった。
今日も一日仕事を頑張った愛理はいつも通り残業をして、家に着いたのは夜の二十一時を回っていた。ササっとシャワーを浴びて、暇つぶしにテレビをつけながらスマホを見る。
もうすぐドラマが始まるようで、今日から一話が放送されるとのことだった。どうやら最近急に売れ出した新人の俳優が主演するらしく、スマホではその彼の名前がトレンドに上がっていた。
「へえ、小鳥遊玲央ねえ……。え? 名前一緒? まさかあ。同姓同名だよね?」
半信半疑で食い入るようにテレビを見ると、画面に映ったのは玲央その人であった。
小学生の時から目鼻顔立ちが整っていたし、大人になった玲央が成長したらこうなるだろうという顔をしていたので、おそらく玲央本人で間違いないだろう。
「本当に玲央じゃん!」
愛理はドラマを観ながら母に電話をかけた。
「お母さん、今テレビ見てる? 幼なじみの玲央がドラマに出てるの!」
『ええ?本当? ……うそ、本当に玲央くんじゃない! すっかりイケメンになっちゃって! あんた、玲央くんのこと好きだったもんねぇ、テレビとはいえ、元気にしているのが分かってよかったね』
「……そうだね、よかったよ」
愛理はそこで電話を切った。今日の夢を思い出して、愛理は玲央が遠い存在になったような気がして寂しくなったからだ。
結局最後まで観た愛理はSNSを開いて、久しくログインしていなかったリアルアカウントに再ログインした。
そして、玲央の公式アカウントはないかと探すと一番上に出てきたので、迷わず画面をタップした。
すると、最新の投稿で今日のドラマについて語り、ほかの役者と一緒に写真をアップしていたのだ。
愛理はずらりと並んだメッセージ欄に一言だけメッセージを添えて、アプリを閉じた。
「なんか、玲央のこと思い出しちゃったなあ……。私だって分かるようにリアアカ使ったけど、どうせ覚えてないよね」
初恋を拗らせた独身女は恋人すらできないのも頷けるなと自嘲して、今日は早く寝ることにした。
愛理が早めの就寝をして数分後、ダイレクトメッセージが愛理の元へと届いた。
翌日、昨日早く寝たおかげで頭がスッキリとした愛理は伸びをしてからスマホの通知を見て驚いた。
なんと、小鳥遊玲央本人からダイレクトメッセージが届いていたのだ。震えそうになる指でメッセージを開いて内容を確認する。
<久しぶり、君は高橋愛理ちゃんで合ってる? もし、君が愛理ちゃんなら、俺との約束覚えてるよね? それ、言ってくれる?>
メッセージにはそう書いてあった。




