第4話 不吉な予兆
あたし、星宮南の精神的な症状は一時的に改善していた。それはきっと、夢前琴葉という彼女ができたから。別に彼女じゃなくても良い、恋人でも、友達でも、何でも良いからあたしは自分を支えてくれる人間を探し求めていた。琴葉が彼女でいてくれる間は、傍であたしを支えてくれる。もちろん見捨てられる不安がないわけではないけれど、琴葉は本当のあたしを知ってくれている分、他の人よりは安心感がある。今までは感情の起伏が激しく、家に帰ってから感情を爆発させてしまうことも多かったけれど、最近は落ち着いている。けれど、あたしには新たな問題が発生していた。琴葉と依存関係になってから成績は下がり、あたしの周りから友達は離れていった。けれど、これで良いんだ。やっと探し求めていた、自分を傍で支えてくれる存在に出会えたんだから。勉強とか、進路とかどうでも良い。あたしはもう生きることに疲れてしまっていた。それでも、いつか自分の支えになってくれる人を捜し求めて努力を積み重ねてきた。けれど、琴葉という彼女と出会ってその願いが叶ってしまった現在、自分の人生に満足してしまって、生きる理由が見つからなくなってしまったのだ。皮肉なことに、今まで優等生として振舞ってきた反動によって、余計そのような虚無感が強くなった。星宮南の精神状態は、既に限界に近付きつつあったのだ。
一方、夢前琴葉は心の底から幸福を感じていた。何の取り柄もなく、無価値だった自分が、初めて他者に認められたのだ。しかも、クラスの中の優等生に。だから、彼女の自己肯定感は上がっていた。にこやかな表情も増えたし、テストの成績も若干上がりつつあった。それだけ、初めて自分をちゃんと見てくれる存在に出会えたことが嬉しかったのである。今、彼女はデパートにいる。もうすぐ来る南の誕生日に備えて、プレゼントを選んでいたのだ。