第3話 失恋と新たな恋
「ごめん。俺は君のような重い女とは付き合えない。」
叩きつける雨の中、元カレの拓斗は南にそう告げた。南は、全身で悲しさを感じながらも、己の運命を受け入れた。いくら素敵な彼氏でも、健康な人であれば、メンタルに疾患がある者と付き合うことはなかなか難しいかもしれない。なぜなら、自分と関わることによって、その人まで精神を病んでしまうかもしれないから。今まで自傷の跡を隠していたが、いつかはバレることは目に見えていた。だから、彼に振られてしまうことも必然だと覚悟を決めていたけれど、実際に振られてみると予想以上にダメージが来た。その時、雨の中濡れて歩く南に、優しく傘をさす者があった。夢前琴葉である。
「あなた、どうして?」
「別に大した意味はないよ。」
そう、琴葉こと私が南に傘をさしてあげたのは、特に深い意味があったわけではない。ただ、寂しげに1人濡れて歩く彼女を見ていられなかっただけ。黙って暫く歩くと、私は冗談めかして言った。
「何かこうして歩いてると、私たち恋人みたいだね。いっそのこと、付き合っちゃおっか。」
南は、意外にもこの言葉に長い間考え込んだ。そして、静かに呟いた。
「そっか。そうだね。まずは2週間くらいお試しで付き合うか。」
私は、冗談のつもりで言った言葉に、彼女が真剣な返答をしたことに驚きつつも、彼女の提案を受け入れた。可愛いし、クラスでも人気があって、心に闇を抱えている美少女と付き合えると思うと、悪い気はしなかったから。南は外面はとても明るいのに、内面には底知れない闇を抱えている。それが、私にはとても美しく感じられたのである。ひょんなことから、私たちは交際を始めたのである。星宮南は、まさに私の理想の彼女だった。可愛さと弱さ、そして恋愛において依存体質であるという危険さも持ち合わせていた。けれど、それは私も同じだった。1人じゃ何もできない私は、彼女が傍にいないと生きていけない。この世にはお互いしか頼れる人がいないんだ。私たちの歪んだ愛は、たった2週間足らずで強烈な共依存の関係に発展した。学校でも一緒に過ごす時間が長くなり、SNSでも頻繁に連絡を取るようになった。結果、私も南も、お互いに見捨てられるのではないかと強烈な不安が高まり、学習時間が減ったことでテストの成績も下がっていった。けれど、それで良いんだ。今の状態が、私たちにとっての最高の幸せなんだから。