009 換金
ギルドに入ったわたしは、ゴブリンの討伐証明をして、お金をもらうことにする。
ゴトリ
手荷物を床に置き、リュックと予備で持ってた手提げ袋を受け付けで渡す。
「ゴブリンです。お願いします」
「え? あ、はい。……その、後ろに置いた“木”はなんですか?」
「あ、これ、武器です。棍棒。できればこれも買い取ってほしいんですけど」
そう。何も持ち帰らないのもなんとなく寂しい気がしたから、一応ゴブリンキングの棍棒を持って帰ってきたのだ。強化魔法がかけてあれば、今のわたしにとってそう重くはない。
「棍棒……。ちょっと上の者に聞いてみないと買い取れるか……え゛」
リュックの中を見た受付の人は変な声を出した後、「少々お待ちください」と言って後方の部屋へ入っていく。
さすがに今回は量が今までと段違いだからなー。気持ち悪いよね……。
少しして、戻ってきた受付の人はわたしを奥の応接室のようなところに案内した。
中にいたのはおじさん? お兄さん? だった。
「すまない、時間を取らせて。私はギルドマスターの……なんだそれは」
「棍棒です。これも買い取ってほしいんですけど」
「……その話は後にしたい。このリュックは君が持ち込んだのかい?」
「そうですけど」
「中身はどこで手に入れた?」
「恐らく、巣と思われる場所です」
あれだけゴブリンがいたんだから、巣じゃないかな。
「他のパーティメンバーは?」
「いませんけど」
「ギルドに来たのが君だけということか? それとも一人で巣に行ったのか?」
「一人で巣に行きました」
「一人でこれ全部倒してきたということか?」
「はい」
「君、登録証の穴は?」
「開いてないです」
なんだかギルドマスターが難しい顔をしている。
……嫌な雰囲気だ。面倒なことになるのかな。
「買い取るのは簡単だ。穴を開けるのも。だが、見栄のために自分で穴を開けようとする者や、他から買い取ったものを納品しようとする者がいる。それでその後、身の丈に合わない難しい依頼を受けたところで本人の命に関わるのは、わかるな?」
「はい」
「このリュックの中には、上位のゴブリンや、それより大きな耳も入っている。恐らくゴブリンキングだろう。本当なら穴二つ開けなければならない。だが、信じられない戦果を前においそれと穴を開けていたら失わなくていい命を失ってしまうかもしれない。こちらとしては、いちいち狩りにギルド職員を同行させるわけにもいかないし、基本的には任務達成の報告を信じるしかないんだ。だから」
「あの! ……すみません、遮ってしまって。言ってること、わかります。でもそもそもわたし、穴を開けてもらいたいとは言っていません。ただ買い取ってほしいんです」
意味が分からない、というように呆けた顔でギルマスがこちらを見る。
たしかに冒険者は登録証の穴の数を気にしがちだ。
それは受けられる依頼が増えるのもあるし、見栄えや自分の能力を伝える上での目安にもなるから。
でもわたしの場合、そもそも高難易度の依頼を受けることを目的として冒険者になったわけではない。その日暮らしができれば。あわよくば少しずつでも貯金ができれば。そんなのは穴無しでもできなくもない。
もちろん、いずれは穴の数を増やして、実入りの良い依頼を受けられたらいいなとは思うけど、今のわたしの目的は四帝竜を倒したいということだ。それには穴の数なんて何の影響もない。
「仮に、わたしが他の冒険者からこれらを買ったとします。そうすると、おかしな点がいくつもありますよね? まず、穴無しの冒険者の依頼を受けてゴブリンの巣に入っていく冒険者なんてそうそういないと思います。しかも受け取ったわたしは、穴を開けてほしいわけじゃない。別に、ゴブリンの耳なんてなんの素材にもなりませんし、ギルドで高く売れるわけでもない。だとしたら、わたしが買う理由はなんでしょうか。ギルドに持ち込む理由もありません」
ひとつひとつ説明するわたしの言葉に、ゆっくり思案するギルマス。
やがて納得したような顔になり。
「……だな。君がギルドより高く買い取る理由もないし、ギルドの方が高く売れるならギルドに直接持ち込むしな。君がそれでいいというならそうしよう。情けない話だが、今回のことは判断が難しい。穴無しがソロでゴブリンの巣を殲滅したなんて、近い前例すらないからな……」
なんとか丸く収まってよかった……。
「それで棍棒なんですけど」
「あー、それだが。ゴブリンキングの、だよな?」
「そうだと思います」
あれがゴブリンキングかどうかなんて、正直わからない。
「ほとんどただの丸太みたいなものだし、買取拒否したいところだが……」
「ええええええ」
「いや、拒否したいところだが、こんなの持ち帰るパーティもいないし、これを振るってくるというのは無謀な冒険者の抑止に繋がるからギルドに置いておくのはありだな。とはいえそれくらいしか使い道がないから、そんなには出せんが……」
「いいですよ、安くても。わたしにとってもただの木ですし、買い取ってもらえないなら街の外にポイするだけですから。持っていくの面倒ですし」
ただ、ひとつ気になることができた。
「ひとつ、興味本位で聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「わたし、穴を開けてもらおうと思ったらどうすればいいんでしょうか。穴を一つ開けてもらうのって、その地域によくいる魔物の上位種の討伐ですよね? わたし、今ゴブリンの上位種を持ってきましたがそれではだめで、他の魔物の上位種なら信じられる、とはなりませんよね? 戦闘力を測るために使える魔法や技を口頭で伝えても、魔物の討伐報告が虚偽という前提ならそれも虚偽かもしれませんし。わたしだけ他の冒険者と手合わせしてとかもどうかと思いますし、そもそもそういう場所もありません」
「……」
「……」
「……」
黙ってしまうわたしたち。
もしかしてわたし、冒険者として昇格できないのだろうか?
まぁ別にいいんだけど。気になっただけだから。
次に口を開いたのは、受付の人だった。
「あの、この棍棒を軽く持ち歩ける人って、二つ穴の冒険者さんにもそんなにいないんじゃないかなって、思うのですが……」
「それはそうだな! 二つ穴の条件は大型の魔物の討伐だからそれはまた別でやってもらうとしても、一つは穴開けてもいいよな! 穴無しじゃまず持てないし、穴無しが持てるほど効果の高い強化魔法を使えるならそれはそれで優秀ということになる。一つ穴のパーティに混ざっても活躍できるのは間違いない」
なんだかんだで結構なお金を頂いてしまった。
ゴブリンキング討伐が大きいのはもちろんのこと、棍棒も思ったより高値で買い取ってもらえた。穴に関して曖昧な判断になったことの補填的な感じだろうか。
ギルマスも言ってた通り、見栄を張りたがる馬鹿な冒険者もいるだろうから、不審な報告を疑うのは当然のことだと思うし、仕事のうちだと思う。全然気にしなくていいんだけど。
それに、結果的に一つは穴を開けてもらえたし。これが目的ってわけではなかったけど、受けられる依頼が増えるのは素直に嬉しい。ゴブリンの上位種くらいの強さの魔物なら、正面から戦っても勝てると思う。たぶんね。そういう依頼を受けられるのはありがたい。
とりあえずお金が一気に増えたから、毒以外に欲しかった魔法や技を買い揃えられる! やったね!
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