008 毒
朝起きて。ゴブリン倒して、また眠る。
そんな日々をかれこれ二週間ほど続けて、とうとう魔法を買う時が来た。
長かった。主にゴブリンを探す時間が。もちろん、お金がたまるまでのかかった日数もだけど。
最後の方は森の手前側の方にゴブリンがいなくなってきて、逆にゴブリンのいる方へいる方へ歩いて行ったら巣を見つけたので、そこで出待ちして狩っていた。中に入る勇気はなかった。上位のゴブリンとかいたら怖いし。
耳を切り取るのも相変わらず気持ち悪かった。
でも、耐えた。作業ゲーは慣れていたし、経験値稼ぎも嫌いじゃなかったから。強くなった実感はなかったけど。だからこの世界の人は強くなる方法に気付けていないんだろうな。気付けてるわたしも実感がないんだもん。岩を動かせなかったら、強くなってると言われても全然信じられなかったと思う。自分の強さが数値化も可視化もされていないからね。ステータスウィンドウが見られるものなら見てみたいよ。どれくらい成長しているんだろう。というかゲームで一番許せないのはアイテムだ。ポーション99個もどうやって持ってたんだ、あの主人公たちは。それでどうやって戦ってるの? ずるいよ。こっちはゴブリンの耳でリュックがいっぱいだよ。助けてほしい。
そういえば、影にモノを入れる魔法があったような。維持するのにどれだけ大変なのか知らないけど、魔力が増えたら四次元的なポケットみたいに使えないかな。強くなってお金も増えたら試してみよう。
脳内で夢を広げていたら商会についた。
ここは主に継承の書を専門に取り扱っている。
技や魔法はここで買える、継承の書から技のイメージを読み取って、書き込んだ者の使用するイメージを追体験するような形で身に付ける。
お値段はピンキリだ。需要も供給も両方多ければ、そこまで高くない。《ヒーリング》とかね。
魔法を使うなら誰もが覚えたい魔法だと思うだろうけど、それに合わせて供給もいっぱいなのだそうだ。
わたしはお屋敷で強化魔法を3つと回復魔法、攻撃魔法の初級の魔法を1つずつ覚えさせてもらった。なのでお店に足を運んだのは今日が初めて。
今日買う魔法はもう決めてある。
毒魔法の、《ポイズンヘイズ》。
毒魔法はわたし的には必須レベルで欲しい魔法だ。RTAでは使えないけれど、低レベルクリアなんかでは格上を倒す手段としては破格。というか、現実では毒なんてそう時間もかからず死ぬのでは? 生物は基本的には毒に弱いんだから。竜だって例外じゃないはず。ぜひ欲しい。
だけど、思っていたより安かった。どうやらパーティを巻き込む恐れがあるから需要がそんなにないそうだ。わたしには関係ないけどね。一人だし。
覚えるのは街を出てからにする。
ひったくられでもしたら泣いちゃう。
思っていたより安くても、高いことには違いない。
街を出て、少し歩いたところで継承の書を取り出す。
継承の書の魔方陣に手を当てると使用者の感覚が伝わってくる。
毒の魔法、《ポイズンヘイズ》。
毒の靄を発生させ、吸引した者を毒で蝕む魔法。
早く試したいけど、森に着いてからにしよう。
魔物たちがそこそこ騒がしく暮らす森で毒魔法を垂れ流す迷惑な人間がいる。わたしです。
手を下げ気味に前へかざして使ってみると、うすーく毒の靄が広がっていく。
自分が自分の魔法でダメージを負うことは、そうイメージしない限りそうそうないけど、他に人がいる場合とかは注意しなければ。というか使わない方が良いかな。
毒の強さとか有効範囲とか、知りたい。
でもこの辺ではゴブリンはもう見なくなってきたしなー。
そういえばあるじゃない。都合よく一か所にゴブリンが固まってる場所が、ね。
なんとなくゴブリンを探そうと歩いていたら着いたのは、ゴブリンの巣。最近いつもこの辺にいたからついここに来てしまった。
強化魔法をかけて。
リュックの照明的魔法具をつけて。
いざゆかん!
今日は初めて巣に入っていく。
少し進むと、早速ゴブリンを発見する。
《ポイズンヘイズ》をうすーくうすーく伸ばして、奥へ奥へ。
20分くらい待っただろうか。いい加減飽きてきた。
魔法は解かないけど、発動は止め、奥へと歩いていく。
苦しみ悶えるゴブリンたちが転がっていた。
うわぁ…… わかっていたけど、えぐい。
ゲームだと状態異常の一つとして普通に使ったり使われたりしてたけど、よく考えなくてもだめじゃない? こんなの人間が吸ったら死んじゃうよ。というか魔物も。
でも慈悲はない。
だって、前世の記憶が戻ったとき、わたしはこいつらに殺されそうになっていたんだから。
魔物たちはわたしたちを殺そうとするし、わたしも魔物を殺す。常に立場は同じなのだ。
言い聞かせながら、悶えるゴブリンにとどめを刺していく。
中には少し大きいのもいたが、同じく悶え苦しんでいたのでとどめを刺してやる。
そうして進んでいると、一際大きい個体がいる。
おそらくゴブリンキングだ。巣の奥には居ることがあるって、図書館の本に書いてあった。
体が大きいせいで毒のめぐりが悪いのか、少しふら付きながらもこちらに気付くと丸太のような棍棒を引きずりながら近づいてくる。
そうだよ。みんなわたしがやった。お前はどうする。
持ち上げられた棍棒が振り下ろされる。
それをわたしは後方に跳んで避ける。が、地面の石片が飛んできて地味に痛い。
右側から回り込むように壁を蹴り、巨大ゴブリンの横側から刺突を繰り出す。
ところが、ゴブリンが腕を上げただけで弾かれる。
……何?
腕時計でも付けてるのかと思ったら、丸い盾だった。
「こいつ……!」
お前たちはいつもそうだ。人間から奪った武器で、また人間を襲う。
殺す。
再び棍棒を振り下ろすゴブリンキング。
わたしはそれを剣で逸らし、棍棒はズンと音を立てて地面にめり込む。
すかさず棍棒を持つ腕を駆け上がり、首を横から刺す。そのまま骨を支点に水平方向へ剣をぐりっと動かす。それでそいつは絶命した。
今回ばかりは吸収する魔力が多かったのか、自分に取り込まれていくのが微かにわかった。
これでこの洞窟のゴブリンは全て倒した。
多分これが一番……あはは。思い出したら笑っちゃう。やり込み界隈のミーム、大好きなんだよね。早さ競ってるときの流れとか、一日中笑ってお腹痛かったな。
ま、まずいよ。ゴブリン虐殺して笑ってるの、端から見たらサイコパスだよ。見てる人いないけど。……いないよね? なんとなく見回しちゃう。
それにしても……
やはり毒。毒は大体の戦闘を解決する。ゲームでもそうだった。
毒耐性とかいう非現実的な特性を付けなくちゃ、ゲームが成り立たないのだ。
戦利品はどうしよう。
耳は持って帰るとして。
うーん、ちょっと探してみるか。
見つけたものは装備ばかりだった。まぁそうだよね。
ここら辺は行商人が通るでもなし、冒険者が高価なアクセサリーを付けるでもなし。
いや、もっと上位の魔物を相手にする冒険者は魔法が付与された装備とか着込むんだろうけど、ここら辺には弱い魔物しかいないしね。
冒険者の中古な上にゴブリンたちが雑に使った装備なんか持って帰っても売れないし嵩張るし、持って帰らなくていいか。ゴブリンの巣、おいしくなかったな。
そんなことないか。魔力いっぱい吸えた。それだけでも良し、だ。
帰り道、いつもの岩がわたしを待っていた。
疲れているけど試したい!
「《ストレングス》!」
押すのはもう卒業。
今日は片側を両手で掴んで、浮かせられるか。
「むぅぅぅーーーーん!!!」
どすん!
「浮いた! ちょっと浮いたよ! すごい! すごいわたし!」
やったやったー!
上機嫌で街へと歩き出すわたし。
頭の中ではさながら、勝利したときのようなファンファーレが流れていた。
お読みいただきありがとうございます。
評価・ブクマ・感想等頂けましたら幸いです。




