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007 検証

 魔物の森についたわたしは、筋力補強、ダメージ軽減、反応速度上昇の三種の強化魔法をかける。

 まだ経験の浅いわたしは、いつ不意の攻撃をもらうかわからない。

 そんな状態で魔物に遭遇して、魔法をかける時間を稼げるかわからない。

 だから、あらかじめかけておく。

 普段から当たり前のように使っていれば、イメージもしやすくなって効果も上がるだろう。


 なるべく音を立てないように進んでいると、ゴブリンが歩いているのを見つけた。

 せっかく先に気付けたので、石を拾ってゴブリンの奥へと投げる。石は茂みに入り、かさかさと音を立てる。

 ゴブリンがそちらに気を取られた隙にわたしは木の陰から素早く出て、ゴブリンの首へと剣を刺し、そのまま背後から踏み倒し、首を斬るように剣を引き抜く。現実では急所を付けば一撃で死ぬのだ。

 ゲームでは運だった先制攻撃もクリティカルも、現実では自分の立ち回り次第で0~100%に振れる。……わたし、アクションゲームはあまりやってなかったんだよね。体を動かすゲームも。やってれば少しは生きながらえたのだろうか。


 ゴブリンが死ぬと同時に黒い靄が噴き出し、まとわりつくようにこちらへ流れてくる。

 フレズさんは邪気みたいなものと言っていたっけ。気持ち悪い。

 わたしは振り払うように後方へ跳び、次のゴブリンを探しに入る。


 今日も簡単に倒せた。強化魔法をかけてればどうってことはない。

 でも不意打ちばかりでは戦闘経験を積みづらいから、今度は正面から戦おう。


 そうして何匹か倒したところで、気になった。

 剣にもダメージ軽減の魔法をかけたほうがいいんじゃ……?

 この剣は、お嬢様に頂いた、大切な剣。

 別に高価であったり貴重であったりするようなものではなく、普通の剣だとは思うけれど、わたしにとっては大事な世界でただ一つの剣。これが折れたらきっと、立ち直るのは難しいと思う。


「早めに気付けてよかった。《ショックガード》。よし」


 剣は消耗品。

 普通、剣を守るために防御魔法をかけるなんて魔力の無駄だししないと思う。

 まぁそもそも、雑に扱ってもどうこうなるような剣を使う冒険者もあまりいないとは思うけど。

 わたしのこの剣は、メイドのわたしでも扱えるくらい細めで剣にしては軽さを意識したもの、だと思う。だから、普通の剣よりはおそらく折れやすい。そういう意味でも防御魔法はかけておきたい。それに、武器に筋力の補強の魔法はかけるだけ無駄だけれど、武器が硬いというのは、攻撃面でも役立つはず。魔力の全くの無駄ということはないはずだ。


「次のゴブリンはお前だッ!」


 見渡す先にちらっと見えたゴブリン目掛けて走り出す。

 その勢いのまま剣を前へ差し出す。


 ざくっ


 こちらに気付いたゴブリンが剣をかわそうとして、しゃがもうとしたその頭に剣が刺さり、ゴブリンは絶命した。


「すごい。頭を貫通するなんて」


 そして気付いた。

 黒い靄がほとんど出てこない。

 ……どういうこと?


 その後も何匹か倒してみても、黒い靄が出てくることはなかった。

 そういえば、フレズさんが魔法を付与した剣で倒したときも、出なかった。あの時と似ている。

 フレズさんは靄ごと焼き払ったんだと思っていた。

 でもわたしは防御魔法をかけただけ。……それが関係している?


 次は防御魔法を解いて、倒してみよう。



 結果は、黒い靄が出た。

 武器にかけた魔法に関係しているのは間違いない。

 ――いや、武器だけじゃない。今日最初に倒したゴブリン。あいつの靄は、わたしにまとわりつくようにこちらへ流れてきた。わたしは強化魔法を自分にかけていた。魔法……もしくは魔力そのものに反応して、吸い寄せられてるんだ。

 じゃあ、斬ったときに黒い靄が出ないのは、死んだ瞬間、武器に吸われているから……?

 仮に、それが人知を超えた力を手にする方法だとしたら――


 強い人が付与魔法に手を出すんじゃない。

 付与魔法を使う人が強くなるんだ。


 フレズさん、言ってた。

 剣技をある程度磨いて、余裕が出たら手を出すような魔法だって。

 たしかに、剣技の基本は大事だし、最初から付与魔法が使えたって剣が扱えなければ魔物を倒すのは難しい。

 でも、付与魔法を使い始めてからより強くなっていくなら、元々強い人がさらに強くなり、突出していくことになる。結果、常人との差が開き、強い人は手が届かないほどの強さにまでなるんだ。


 ……でもこれは仮定。想像でしかない。

 検証は、ゴブリンたちに付き合ってもらうこととする。



 気持ちは逸るけど、エンカウント率は高くない。

 ゲームのように、ニマスを行ったり来たりするだけで出てきてくれるわけではない。

 魔物にも命があり、生活があり、おそらく恐怖とかもあるだろう。

 それでも、夕方まで狩り続けた。さすがに暗くなる前には森を抜けないと、いくら強化魔法があったって危ないからね。


 そうして森から出ての帰り道。

 愛し岩がある。

 帰りに座らせてもらおうと思ってたけど、試したい。


「《ストレングス》」


 筋力補強の魔法をかけて、岩を押してみる。

 持ち上げるのは全然無理そうだったし、今朝の感じだと押したってびくともしないと思ったから。でも――


「えっ! えっ! すごいすごい! 3ミリくらい、動いたんじゃない!? 岩と地面に少し隙間ができてるもん! やったー!」


 わたしのような小娘ではどうあがいても動かせるはずがない、岩。

 それを少しとはいえ動かせるなんて、どう考えてもおかしい。おかしい力を持ってる。

 これは――

 間違いない、のかもしれない。あの黒い靄。フレズさんが邪気と言っていたもの。あれが、人の枠を超えた強さに必要なものなんだ。

 魔法に反応していたから、たぶんだけど、あれは魔力かそれに近い何かなんじゃないのかな? 気力とか生命力とか……。拳技の技とかにも、気をまとって攻撃力と防御力を上げる技とかあるし、それでも吸収できて強くなれたりする、のかもしれない。わたしは覚える気がないからそこまで検証しないけど。

 邪気を吸収、なんて気分的にいやだな……

 経験値……は、なんか違和感がある。魔物を倒してステータスを上げる。ゲーム的にはそうだけど。魔物の特徴の把握。間合いの取り方。魔物の攻撃の予測。避け方。攻撃の当て方。経験は積んで身に付けるものであって、魔物から吸収するものじゃない。

 やっぱり魔力って呼ぶのがわかりやすいかな。魔物っていうんだし、いいよね。


 あんなに強いフレズさんでも、強くなる方法も、自分が異常に強いことも知らなかったんだ。

 この世界では、強い人は異常に強いというのが異常ではなく常識になっているから、腕力が異様にあっても気付かないんだ。普通に訓練して、戦ってれば、人の枠を超える力を手にするのが普通だと。

 ――強くなる方法。

 周知させれば、街の防衛は楽になるだろうと思う。

 でもそれで人の命が減るのを防げるかと言えば、どうだろう。

 死ぬときに魔力を放出するのが、魔物だけじゃなかったら。

 ……わからないけど、もしかしたら人から魔力を吸えてしまったら。魔物よりも大変なことになってしまうんじゃないの??

 人は恐ろしい一面がある。

 強くなることに躊躇しない人も、いるかもしれない。

 強い人からより多くの魔力が吸えるなら。

 強い人だって、寝なくちゃいけないんだ。寝込みを襲えば。


 もちろん仮定の話だし、検証しないとわからないけれど、こんなこと絶対に検証したくないし、させちゃいけない。周知させるべきではないことだろう。


 いやな想像を振り払って、好きなゲームのBGMを口ずさみながら街へと歩を進めた。

お読みいただきありがとうございます。

評価・ブクマ・感想等頂けましたら幸いです。

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