006 夢
わたしは、フリューゲルト子爵家に仕えていた侍女の子として生まれた。
エレオノーラお嬢様とは同い年で。お嬢様の侍女候補として、励んでいた。
母は幼い頃に失くし、父は……とうとう聞くことはできなかった。だから知らない。
お嬢様は誰にでもお優しい方で、それはわたしたちメイドに対しても変わらなかった。特にわたしには……その、こんなことを思ってはいけないのですが、まるで姉妹みたいに接してくれて。どこへ行くにも連れて行ってもらっていました。
わたしは読み書き算術に、剣、魔法も少しも教えて頂けて。
それはきっと、お嬢様のためで、お嬢様はとても愛されていたのだと思う。侍女にも護衛能力を求めるほどに。
わたしも日々この方に、そして子爵様に感謝していた。
一生をこの方に捧げるのだと、思っていた。
そんな、十と少し経った頃……
子爵様が亡くなり。その弟様が家を継がれました。
お嬢様とお母様は、辺境の地へ送られ、そこで暮らすことに。
使用人たちも追い出され、お嬢様のところでは雇う余裕はなくなり散り散りに。
それでもわたしのことは最後まで一緒に、せめて次の仕事先くらいはと気にかけて下さりましたが、お嬢様は自分の無力を嘆いておりました。
とんでもないことです。
お嬢様に悪いところなどただの一つもございません。
ですがきっと、わたしがどれだけ言葉を並べたところで、わたしの想いなど、その万のうちの一つも届かないのでしょう。
わたしは、小さなわたしでは抱えきれないくらい、沢山の愛を頂きました。
思い出せば、涙と共に溢れてしまう。
わたしは……ううん、わたしも、お嬢様が大好きだった。そう、わたしも。
頂いたご恩を、とうとう返すことはこれっぽっちもできなかった。
いつか返せる、わたしになりたい。
目を覚ますと、涙の跡が少し冷たい。
一度や二度じゃない。よく見る夢。
起きると決まって、辛くて苦しいけれど。
それでも何度も見たい夢。温かくて、大切な思い出。
忘れたいわけじゃない。忘れたくなんかない。
でも、たまには楽しい夢が見たい。
せっかく前世の記憶を思い出したのだから、夢の中でくらいゲームがしたい。
何千……もしかしたら、何万回と見た、あの後ろに転ぶようなともえ投げのドット絵の動き。今でも鮮明に思い出せる。なんなら描けるんじゃないかな。今度描いてみようかな。近い記憶から夢を見ることが多いみたいだし。ドット絵を見れば。あのゲーム画面を思い浮かべていれば。
そうしたいのは山々だけれど、今はお金がないのだ。早く支度をして、魔物の討伐をしなければ。
現実に生きるわたしは、そそくさと宿を後にしてギルドへ向かう。えらい。
ギルドにつき、一応掲示板を見て依頼に目を通す。
でも、わたしに合う依頼は常設のゴブリンくらいだ。それか薬草摘み。
薬草を摘んでも戦闘経験は積めないので却下。
他の魔物は、戦利品を持ち帰る余裕がわたしにはあまりないので、消去法でゴブリンになる。
ゴブリンはなんの素材にもならないので、討伐した証拠さえあれば報酬がもらえるからだ。
ゴブリンの一部を持ち帰るのも、気持ち悪いし嫌なんだけどね。嵩張らないから……。
パーティを組むことも考えてはみたけど、あまり気は進まなかった。
戦利品の持ち帰れる量は増えるけど、報酬は分配になるし。
強くなる方法の考え方とか新しく思いついたら試したいし、同じ魔物相手に検証したりもしたい。
金策、討伐に関しても迷惑をかけちゃうし、何より目標は竜。誰だって願い下げだろう。というか別に巻き込みたくもない。変に情で一緒に行くとか言われても困る。責任取れない。
わたし、他人に合わせるのは向いてない。でも、合わせてもらうのはもっと向いてない。
ずーーーーっと前から変わらないんだから。
移動中くらいは、好きに妄想させてほしい。主にゲームの。だってしたいんだもん。
毎日ゲーム漬けだったんだよ? 取り上げられてみなさいよ。つら……。
あのゲームのRTAもしてみたかったなぁ。低レベルクリアもしてみたかったなぁ。
あのキャラの季節限定グラとか出てるのかなぁ。浴衣とか水着とか……。
あの漫画の最後はどうなったの? もう終わったの?
考え出したらきりがない。
忘れていた間は何も思わなかったのに、思い出したら途端に辛くなってきた。
もういっそ、トランプとかでもいいからなんかこうゲーム的なものがほしい……。
そんなことを思いながら歩いていると、ふと大きな岩が目に入る。
前世のことを思い出したときに座った岩だ。
一人になって冒険者になって。前世を思い出して死んだのを自覚して。
あの心細かったわたしを受け止めてくれた岩。なんだか急に愛しく思えてくる。
そういえば、と思い出す。
フレズさん、腕倒のとき相手の冒険者さんの手、握り潰さなかった。
人類を越えた力に届いたはずなのに。ちゃんと自分の力として、無意識にコントロールできてたんだ。
無意識では気付きづらい。何か指標がなければ。
おもむろにわたしは、愛し岩を両手で掴むと、
「むーーーーーーーーん!」
だめだった。
びくともしない。
「《ストレングス》! これならどうだーーーーーんぬぁーーーーーーーっ!!」
だよね。
魔法かけてもだめだよね。
そもそもどれくらい地中に埋まってるのかわからないし。
でも、いい。
動かないからこそ、自分が強くなっているかの指標に出来る。
ここを通るたびに……いや、行きの時だけ。動かせるかどうか、試すことにしよう。
いいもん。これからなんだから。
「ふーっ……またね。帰りは疲れてるだろうから座らせてもらうね」
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