表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

006 夢

 わたしは、フリューゲルト子爵家に仕えていた侍女の子として生まれた。

 エレオノーラお嬢様とは同い年で。お嬢様の侍女候補として、励んでいた。

 母は幼い頃に失くし、父は……とうとう聞くことはできなかった。だから知らない。


 お嬢様は誰にでもお優しい方で、それはわたしたちメイドに対しても変わらなかった。特にわたしには……その、こんなことを思ってはいけないのですが、まるで姉妹みたいに接してくれて。どこへ行くにも連れて行ってもらっていました。


 わたしは読み書き算術に、剣、魔法も少しも教えて頂けて。

 それはきっと、お嬢様のためで、お嬢様はとても愛されていたのだと思う。侍女にも護衛能力を求めるほどに。

 わたしも日々この方に、そして子爵様に感謝していた。

 一生をこの方に捧げるのだと、思っていた。


 そんな、十と少し経った頃……

 子爵様が亡くなり。その弟様が家を継がれました。

 お嬢様とお母様は、辺境の地へ送られ、そこで暮らすことに。

 使用人たちも追い出され、お嬢様のところでは雇う余裕はなくなり散り散りに。

 それでもわたしのことは最後まで一緒に、せめて次の仕事先くらいはと気にかけて下さりましたが、お嬢様は自分の無力を嘆いておりました。


 とんでもないことです。

 お嬢様に悪いところなどただの一つもございません。

 ですがきっと、わたしがどれだけ言葉を並べたところで、わたしの想いなど、その万のうちの一つも届かないのでしょう。

 わたしは、小さなわたしでは抱えきれないくらい、沢山の愛を頂きました。

 思い出せば、涙と共に溢れてしまう。

 わたしは……ううん、わたしも、お嬢様が大好きだった。そう、わたしも。

 頂いたご恩を、とうとう返すことはこれっぽっちもできなかった。

 いつか返せる、わたしになりたい。



 目を覚ますと、涙の跡が少し冷たい。

 一度や二度じゃない。よく見る夢。

 起きると決まって、辛くて苦しいけれど。

 それでも何度も見たい夢。温かくて、大切な思い出。


 忘れたいわけじゃない。忘れたくなんかない。

 でも、たまには楽しい夢が見たい。

 せっかく前世の記憶を思い出したのだから、夢の中でくらいゲームがしたい。

 何千……もしかしたら、何万回と見た、あの後ろに転ぶようなともえ投げのドット絵の動き。今でも鮮明に思い出せる。なんなら描けるんじゃないかな。今度描いてみようかな。近い記憶から夢を見ることが多いみたいだし。ドット絵を見れば。あのゲーム画面を思い浮かべていれば。


 そうしたいのは山々だけれど、今はお金がないのだ。早く支度をして、魔物の討伐をしなければ。

 現実に生きるわたしは、そそくさと宿を後にしてギルドへ向かう。えらい。



 ギルドにつき、一応掲示板を見て依頼に目を通す。

 でも、わたしに合う依頼は常設のゴブリンくらいだ。それか薬草摘み。

 薬草を摘んでも戦闘経験は積めないので却下。

 他の魔物は、戦利品を持ち帰る余裕がわたしにはあまりないので、消去法でゴブリンになる。

 ゴブリンはなんの素材にもならないので、討伐した証拠さえあれば報酬がもらえるからだ。

 ゴブリンの一部を持ち帰るのも、気持ち悪いし嫌なんだけどね。嵩張らないから……。


 パーティを組むことも考えてはみたけど、あまり気は進まなかった。

 戦利品の持ち帰れる量は増えるけど、報酬は分配になるし。

 強くなる方法の考え方とか新しく思いついたら試したいし、同じ魔物相手に検証したりもしたい。

 金策、討伐に関しても迷惑をかけちゃうし、何より目標は竜。誰だって願い下げだろう。というか別に巻き込みたくもない。変に情で一緒に行くとか言われても困る。責任取れない。

 わたし、他人に合わせるのは向いてない。でも、合わせてもらうのはもっと向いてない。

 ずーーーーっと前から変わらないんだから。



 移動中くらいは、好きに妄想させてほしい。主にゲームの。だってしたいんだもん。

 毎日ゲーム漬けだったんだよ? 取り上げられてみなさいよ。つら……。

 あのゲームのRTAもしてみたかったなぁ。低レベルクリアもしてみたかったなぁ。

 あのキャラの季節限定グラとか出てるのかなぁ。浴衣とか水着とか……。

 あの漫画の最後はどうなったの? もう終わったの?

 考え出したらきりがない。

 忘れていた間は何も思わなかったのに、思い出したら途端に辛くなってきた。

 もういっそ、トランプとかでもいいからなんかこうゲーム的なものがほしい……。


 そんなことを思いながら歩いていると、ふと大きな岩が目に入る。

 前世のことを思い出したときに座った岩だ。

 一人になって冒険者になって。前世を思い出して死んだのを自覚して。

 あの心細かったわたしを受け止めてくれた岩。なんだか急に愛しく思えてくる。


 そういえば、と思い出す。

 フレズさん、腕倒のとき相手の冒険者さんの手、握り潰さなかった。

 人類を越えた力に届いたはずなのに。ちゃんと自分の力として、無意識にコントロールできてたんだ。

 無意識では気付きづらい。何か指標がなければ。


 おもむろにわたしは、愛し岩を両手で掴むと、


「むーーーーーーーーん!」


 だめだった。

 びくともしない。


「《ストレングス》! これならどうだーーーーーんぬぁーーーーーーーっ!!」


 だよね。

 魔法かけてもだめだよね。

 そもそもどれくらい地中に埋まってるのかわからないし。

 でも、いい。

 動かないからこそ、自分が強くなっているかの指標に出来る。

 ここを通るたびに……いや、行きの時だけ。動かせるかどうか、試すことにしよう。

 いいもん。これからなんだから。


「ふーっ……またね。帰りは疲れてるだろうから座らせてもらうね」

お読みいただきありがとうございます。

評価・ブクマ・感想等頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ