005 超越
ギルドに帰ってきたわたしとフレズさん。
数が少ないので、ゴブリンの耳を受付で換金する。
「ではこれが今回の戦果報酬と、依頼達成のお金です」
「ゴブリンのお金だけでいいよ」
「だめです。こういうことはちゃんとしておきたいんです」
「あー……わかった。ありがとね」
「それとは別にですね、これは好奇心からのお願いなのですが、腕倒、してほしいんです」
「アイリスと? アタシが?」
「いえ、わたしでなくて――」
そう言って周囲を見渡すわたし。
この世界だと、腕相撲って、腕倒っていうんだよね。相撲がないからからまぁ名前が違って当然だよね。
うーん……
「今ギルドにいる中で、知り合いの冒険者さん、いますか?」
「えっ。えーっと……あそことあそことあそこのパーティは知り合いと言っていいかな」
わー。さすが二つ穴の冒険者。顔が広い。
わたしはその中で装備が比較的安価そうでかつ新しめに見えるパーティの男性に声をかける。
簡単に言えば初心者的雰囲気を感じさせる人だ。
「おにーさんおにーさん。ちょっとお話、いいですか?」
「ん? 何かな?」
「フレズさん、知ってますか?」
わたしの後方を見て、「もちろん知ってるよ。この間森で助けてもらったんだ」という話を聞く。
「おにーさんたちは、いくつ穴空いてます?」
「実はまだ穴無しなんだ」
「穴無しなんですか!? それにしては、いい体してますね、おにーさん」
「えっ!? いや、実家の仕事を小さい頃から手伝わされてたから……」
何やら「ナンパかー?」とかパーティメンバーにいじられているが面倒なのでスルーする。
この体格で冒険者的経験はあまりなし。被験者として申し分なし。
「フレズさんと腕倒してほしいんです。お願いできませんか?」
「えっ。俺なんかが?」
「良ければこちらのテーブルへ」
フレズさんが微妙そうな顔でこっちを見ている。
「ねえアイリス。さすがに勝負にならないと思うけど」
「お願いします。これがわからないとわたし、今日寝れなくなっちゃいます!」
「はぁ……わかったわよ。それで? ルールは?」
「お互い、魔法や技の使用は禁止です。手を組んでもらって、相手の手の甲をテーブルにつけた方が勝ち。お二人の手の上に置いたわたしの手が離れたら始めです。ではいきますよー。よーい。はいっ」
そうしてわたしが手を離すと。
まずは拮抗している。
驚いているのはフレズさんだ。
「あれ? キミ、本気出してる?」
「出してますよ……嘘みたいだ」
必死な彼を見ながらぐっと力を入れて相手の手の甲をテーブルへ倒したフレズさん。
「えーっ。アタシ、勝つんだ! すご!」
「いやほんとにすごいです。上級冒険者ともなると、腕の動かし方からして違うんでしょうか……力には自信あったんですけどね」
予想通り、フレズさんが勝った。
魔法や技を使った様子もなかった。
やはり、前の世界では到達できない強さの片鱗を、この人は体現している。
「お二人とも、ありがとうございました! これでわたし、今日ぐっすり眠れそうです!」
「……よかったですね。はぁ……」
「この子、変わってるのよ。ごめんねー、変なこと付き合わせちゃって」
「いえ、フレズさんに手を握ってもらえるなんて光栄でした。お役に立てたなら何よりです。では」
男の子だなー。
「あんまり男の子を簡単に褒めちゃだめよ? 男なんておだてられたらすぐ惚れちゃう生き物なんだから」
「はい。気を付けます」
滅茶苦茶どうでもいい。し、あまり関わる気もない。
「それで? これで何か分かったの?」
「はい。フレズさん。今までしてきた筋トレの内容を、わたしがすればあの方に腕倒、勝てると思いますか?」
「……難しいでしょうね。というかアタシも絶対勝てないと思ったし」
「ではやはり、魔物を倒すことで何らかの要素が肉体を強くしている、のではないでしょうか」
「なるほど。経験だけじゃなくて、ちゃんと自分の鍛錬に繋がっていたのかな。だったら、嬉しいな」
フレズさん、二つ穴でもまるで今日冒険者始めました、みたいな喜び方するんだもん。こういうところがかわいいし好きだな。
強くなると。力を持つと、周囲からの見られ方も変わったりして、自分が変わらずにいることって難しいと思う。こういうところ、見習っていきたい。
「じゃ。アタシ、取ってる宿に戻るわ。またねっ」
「はい。何から何まで、本当にありがとうございました」
宿に戻ったわたしは、考える。
魔法を付与した剣で魔物を倒す。
これがフレズさんの戦い方であり、これがほとんど全てと言っていい。
他にも剣技もあるし、他の属性を付与することもできるみたいだけど、基本は変わらない。
「あの魔法……買おうかな」
強い人全員が同じ魔法を使っているとは考えにくいけど、《ファイアウェポン》を使って強い人が確実に一人いる。ならそれに習うのが確実だ。
「お金がな~~~……。依頼もしたし下手したら宿も泊まれなく……。明日から、金策のため、バリバリ狩りをしなくちゃ。早く魔法を買わないと、金策はできても強くはなれないかもしれないし」
倒せた。
ゴブリンを初めて。
最初は怖かったけど、結構安定して戦えた。
攻撃力も、防御力も、速さも。全部圧倒的に勝っていた。
メイドのわたしなんかにも、教育と訓練をほどこしてくれた――
「お嬢様の、おかげ……です……」
いつの間にか眠りに落ちていた。
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