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004 見学

 ギルドを出て、早速魔物の住む森へ向けて歩きだす。


「ギルドを通さない指名依頼だから実績にならなくてすみません」

「いいのよ。後進の育成も先輩の務めってね」


 フレズさん、いい人だな。フレズさんのメリットなんてないのに。

 それに、綺麗な人……。

 一緒に歩いてると、少し恥ずかしくなる。

 フレズさんが特別すらっと背が高い、とかではないのだけれど、いかんせんわたしがちみっこい。

 前世の時も結構背は低い方だったのだが、今はさらに低い。でも胸は前よりちょっと大きい気がする。十年以上見てないから気のせいかもしれないけど。



 他愛もないことを話しながら着いたのは、魔物の森。

 ここからはよくフレズさんを観察して、気になったことは質問していかなければ。


「それで、アタシはどうしたらいいのかな?」

「普通に魔物を倒していただければ大丈夫です。苦手な魔物がいれば避けてもらって構いませんし、別に相手は弱くても問題ありません。ただ、わたしはできるだけフレズさんの動きを見ることに集中したいので、わたしのことは戦力に数えないように動いてほしいです。もちろん、数が多かったり挟まれたりした場合は、わたしに振ってもらって構いません」

「了解。まぁこの森の中にいるうちは問題ないよ。渓谷に抜けてもまぁ……小さいゴーレムくらいなら一人でも問題ない。でも、あなたを守りながらってのは無傷の保証はできないから、森の中だけにしとこうか」

「はい。それでお願いします」


 それから少し歩いたところで、茂みから飛び出したゴブリンが襲い掛かってきた。

 フレズさんは剣で受け止め、蹴りで吹き飛ばし距離をとると、魔法を使う。


「《ファイアウェポン》!」


 フレズさんの剣を炎が覆う。


「はあっ」 ズバッ


 その一太刀で、ゴブリンは両断された。


「すごい。こんなに簡単に倒せてしまうんですね」

「まぁゴブリンくらいはね」


 満更でもなさそうなところがかわいい。


「質問いいですか?」

「なぁに?」

「剣を炎で覆うと、どういった効果が得られるのでしょうか」


 これは前の世界にいた頃から疑問だった。

 ファンタジーではよく見るお約束みたいな能力だけど、別になくても倒せていたように思う。というか剣で斬ってるのがダメージの大部分だと思うし、炎は見た目重視のおまけでは? とまでは言わないでおくけど。


「もちろん見た目がかっこいいとかそんなんじゃないわよ?」


 違うんだ。


「刃が届くまでの一瞬焼くことで、刃の通りを良くしているのよ。調理するときに生で切るのと、食べるときに焼いてあるのを切るのとでは違うでしょ?」


 理屈はわかるけど。

 火なんて一瞬触ったって別に焦げたりしないし、そこまで熱くもない。

 手の速さで感じないものを、剣の速さで効果が出るとは思えない……。でも、使ってる人たちが効果があると思ってずっと使われてきた魔法なのだから、あるのだろう。もっと温度が高いとかね。


「その顔。全然納得してないな?」

「そんなことないですよ! いろいろ考えてただけで」

「いいのいいの。納得できなくちゃこの魔法に身を預けられないでしょう。アイリスが使うかはわからないけど、この先、この魔法を使う人に背中を預けられる?」

「……」

「やっぱりね」

「違いますよぉ! 今の沈黙は想像していただけです!」

「いいってば、無理に納得しようとしなくて。武器や魔法なんかは私たちの生命線。正しく理解しなくちゃ危ないんだから。てことでひとつ、いいもの見せたげる」


 そう言って木の近くへ行くフレズさん。


「この木、この剣で斬り付けたらどうなる?」

「き、斬れる……?」

「普通に折れるわよ。少なくともアタシの腕じゃどう頑張ったって、折れるか、弾かれる。折れずに刀身が半分も埋まれば上出来、くらいよ」


 もしかしたら、剣技を使えば、できるかもしれない。

 でも普通にやればまず無理、だよね。


「でもこの魔法があれば!」


 ザシュッ―― ズドン


「この通り」


 見事に斬り分かたれる、木の上下。


「この魔法があれば、硬いゴーレムなんかも少しは刃が通るようになるわ」

「すごい……」

「ちゃんと納得できたかしら?」


 赤べこみたいに思いっきり頷いちゃう。


「この魔法はちゃんと強いから、近接武器を使う強い冒険者には結構人気だったりするのよ。まぁ魔法の不得手もあるし、剣技を磨くのが先だから、余裕が出てきたら手を出す、って感じなんだけど」


 フレズさんは飲み水で焦げた木の断面を消化している。

 当たり前かもしれないけど、こういうのは大事だよね。

 前の世界でも、山火事は何度か見たことがある。一度広がるとなかなか消えないものらしい。

 いくら魔物の生息地といっても、森は貴重な資源だ。

 それに、魔物だって一応素材のやり取りをして倒すだけじゃなくて有効活用している部分もある。無暗やたらに殲滅していいということはないだろう。



 ゴブリンを五匹ほど倒したところで、「次はアイリスが倒してみる?」という提案をしてくれたので、挑戦してみることに。

 上級冒険者が見てくれてるときに経験を積めるのはありがたいから。


「いたわよ」

「《ストレングス》《ショックガード》《クイックレスポンス》」

「ほんとに慎重よね。いいことだわ」


 筋力を補強する魔法、衝撃を逃がしてダメージを抑える魔法、反応速度を上昇させる魔法。念には念を。

 こちらの気配を感じたのか、向かってくるゴブリン。

 剣で受けて、押し返す。

 バランスが崩れたゴブリンに、フレズさんのように袈裟切りで斬りかかる。


(浅い! こんなの、全然両断なんてできない!)


 体勢を戻そうとするゴブリンに間髪入れずに、その首へ刺突を繰り出す。


(た、倒せた?)


「離れて!」


 脇から手を入れられ、抱えられるように後方へ引っ張られる。


「な、なんですか」

「見てて」


 死んだゴブリンから黒い(もや)のようなものがぶわっと噴き出し、立ち上っている。


「なんですか、あれ」

「邪気……のようなものかな。取り込むのは良くないと言われているの」


 解放されて、そのままへたり込んでしまう。


「はぁっ……はぁっ……」


 ずっと呼吸を止めてたみたいに、酸素が欲しくなる。

 魔物を倒すって、こんな感じなんだ。

 武器を振るってくる恐怖。肉を斬る嫌な感触。でもやるって決めた。その第一歩なんだ。


「さ、さっきの黒い靄……フレズさんのときには、なかったですよね? どうしてですか?」

「《ファイアウェポン》を使ってるからだとは思うんだけど……アレごと斬っているのかもしれない」

「そうなんですね……」

「さ、どうする? またアタシの戦い方を見る? 自分で経験を積む? 今日はもう帰ってもいいけど」

「自分でもう少し、戦ってみたいです」

「そ。じゃあリュック、アタシが持つよ」

「ありがとうございます。でもそれ込みで練習したいんです。なのでわたしに持たせてください」

「本当に勤勉だよね」


 この命は一度きり。ゲームじゃないんだから。石橋は叩きまくるよ。



 わたしも五匹ほど倒してから、帰路につく。


「あの、今日見せてくれたのが、フレズさんの基本的な戦い方、なんですよね?」

「そうよ? もちろん、魔法を使わないこともあるし、普段は仲間もいるから別にアタシが最初から最後までダメージを与えるってわけでもないけど」

「強くなるためにしてることとかってありますか?」

「体を鍛えるってのはまぁ普通にやってるけど……」

「強い魔族を倒した方が強くなりますか?」

「うーんどうだろ……あまり考えたことないけど、倒す魔物の違いで自分が強くなる実感とかって感じたことないかも」


 だったら。今日見た中に強くなる方法があるはず。

 普通の筋トレでこの世界特有の身体能力が身に付くとは思えない。

 今思えば、木に斬りかかって剣を折るって、それが普通って言ってたフレズさん、おかしくない……?

 普通、少し傷つけて弾き返されるものじゃないのかな……。剣を折るのに必要な筋力があるようには、申し訳ないけど見えない。


 フレズさんは間違いなく異常な強さだ。

 魔法や技を使わなくたって、筋骨隆々な農作業をする男の人よりも、力比べで強かったりするんじゃないのかな。

 うーん、これ知っておきたい。ギルドに丁度いい人いないかな……。

お読みいただきありがとうございます。

評価・ブクマ・感想等頂けましたら幸いです。

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