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002 スタート地点

 街に着いたわたしはひとまず冒険者ギルドへ行き、薬草を買い取ってもらった。

 そして部屋を取っている宿に向かうとベッドに身を投げ出し、これからのことを考える。


 お金は必要……だが、冒険者は辞めたい。

 だってそうでしょう。ゲームのファンタジー世界が好きだからって、どうしてそれで自分の命をかけて戦うことが出来るのか。無理だ。それに、剣や魔法を楽しみたいなら、別に冒険者でなくてもいい。魔法はただ使うだけでも楽しいし、生活をちょっと豊かにするような使い方もできるかもしれない。剣だって素振りでも楽しい。剣道だって試合はあるけど人や魔物を倒すためにやるものではなかった。それと似たような感じで楽しめるのではないか? やったことないからわからないけど。

 つまるところ、冒険者である必要性は少なくとも、わたしにはない。

 なぜ少し前の自分が冒険者を選んだのかと言えば、実入りのいい仕事がなかったからなのだ。それまでしていた子爵家メイドの仕事も、次にお仕えするお貴族様などなかなか見つからない。肉体労働は、魔法を使えばできるとは思うけど、仕事の間ずっと維持するなんて無理だ。あとは細々とした仕事があるだけで、だったら冒険者ギルドの一番簡単なことからでも始めた方が稼げると思ったのだ。

 でも、前世の記憶を思い出した今、魔物に襲われる可能性がある森になど入る気にはなれなかった。ゴブリン程度なら恐らく、魔法を使って心構えがちゃんとしてあれば倒せると思う。でもあんなに怖かったんだもの。あえてその道を選ぶことはないんじゃないか。実入りの少ない仕事でもいいじゃない。

 明日、ちゃんと仕事探そう。今日はもう疲れたから――



 あれからそのまま寝てしまったのだろう。

 がさがさの髪。汗臭い気もする。


 宿の人に水桶と布をもらって体を拭く。


「お風呂、入りたいなぁ……」


 前世の記憶を思い出したことで、これからあーだったら、こーだったらとか考えてしまう事柄が増えていくんだろうなぁ。

 まだ良かったのは、料理だ。

 食材を煮詰めて塩でも入ってれば食べられないでもない。

 この世界で舌がだいぶ慣らされたので、そこに不満を覚えなくて済むのはありがたかった。


 そんなことを思いながら体を拭き終え、朝食を頂いた後、仕事を探しに紹介所に向かうことにする。

 宿を出ると、高くても二階までの建物が並ぶ住宅地のような街並みが広がる。

 日本よりは断然ヨーロッパに近いと思うけれど、引きこもってゲームしかしてこなかったし当然海外なんて行ったこともなければあまりネットで調べたりとかもしなかったから建物はよくわからないんだよね。でもわたしがやってたRPGなんかの街並みは、現実で見たらこんな感じだったのかもしれない。ゲームの背景とかも風景としては見覚えあったりしても、建物の様式とかは全然注目して見たりしなかったからなー。

 でも、きれいな街、だよね。

 ここは魔物のいる森に一番近い街だから、王都ほどではないけれど、結構大きい街だ。

 人も建物も多いし、騎士も多い。

 この国は珍しく、魔物討伐に力を入れていて、前線であるこの街に騎士を多く派遣している。


 この大陸は、現在四つの国があり、それぞれその外側に魔物の生息地がある。

 その奥地には竜がいて、四頭の竜が人間の国を使って国盗りゲームをしているらしい。何ともはた迷惑な思考回路をしている。そうは悪態をついても、こっちは狙われる側なわけで。恐ろしいにもほどがあるが、実はそんなに領土をごっそり持ってかれた国もそう聞かない。竜本体が出てくれば街の一つや二つ、簡単に落ちそうなものだが、そこはゲームということだろう。自分たちは動かず従える魔物たちに任せているらしい。

 人間たちは人間たちで、魔物との戦いを頑張っている。なのであまり国土の増減がない。


 この国は王の方針で、防衛だけでなく魔物の数を減らして領土を広げていこうという積極的防衛手段を取っている。

 もちろん他の国に対しての守りは手薄になるけど、他国は他国で魔物との戦いに忙しいのだ。人同士での戦争なんてやってる暇はない。


 とまぁ、それまで当たり前だったこの世界の街を、もう一つの視点から考えながら歩いていると、仕事紹介所に着く。

 中に入ると、カウンターがいくつかと、従業員が数人目に入る。

 案内されたのでその1つに座る。


「こんにちは。どういったお仕事をお探しですか?」


 うわ~、こういうの前世でもやったことないよ……緊張する。

 と一瞬思ったが、今世ではしたことあるのだった。前世の記憶に引っ張られ過ぎた。2つの記憶が入ってきて頭がごちゃごちゃするけど、どちらもわたしの記憶なんだから。落ち着け~、落ち着け~……。


「肉体労働は無理なので、簡単な仕事を……」


 そうしていくつか教えてもらった中から目に留まったのは、造花づくりの仕事だった。

 少な目の固定給と出来高制で、正直食べていけるかも怪しいけれど。聞いた話では前世でいう内職みたいで、引きこもりのわたしにはぴったりだと思った。

 早速紹介された場所へ向かってみる。

 外観は、お店というよりは普通に民家っぽい感じだけど、店頭販売とかしてないのかな?


「すみませーん、紹介されて来たんですけど、お店の方居ますかー?」

「お。新しい人だねぇ。入って入って」


 中から出てきたのは、五十前後のおばさんだった。

 聞いたところによると、今はおばさんが一人で受注生産しているらしい。新しい人が来てもなかなか続かないのだとか。


「仕事が身に付けば結構お金になるんだけれど、なかなかそこまで残ってくれる人がいなくてねぇ」

「わたし、頑張ります! 地味な作業は得意なので!」


 低レベルクリアに挑戦するときは地味なスキルポイントの稼ぎとかを延々やったりしたこともあった。そういう作業もわたしは割と楽しめた方だ。


「頼もしいわねぇ。私はローゼ。よろしくお願いするわね」

「私はアイリスです! よろしくお願いします!」


 そういえば、何の因果か偶然か。

 今世のわたしの名前はアイリス。略すとなんと、前世で使っていたプレイヤーネームの“あい”と同じ読みだ。だったら――


「気軽に“アイ”って呼んでもらえると、嬉しいです!」


 そうしてわたしは、造花づくりを始めたのだった。



 採用されて少し経った頃。


 原材料は聞いてみてもよくわからなかったけど、ぐにぐにする硬くて細い何かに、緑色の布のようなものを巻き付ける。


 よりより。 よりより。


「今日はもう終わりにしましょうか」


 よりより。 よりより。


 ふと顔を上げる。

 肩を揺すられていたことに気付く。


「すごい集中力だねぇ。茎だけでこんなに。それに上手に巻いてある」


 見るとわたしの隣には造花の茎が山のよう。


「ごめんなさい、作り過ぎちゃいました?」

「いんや、大丈夫だよ。日持ちするのが造花の良いところなんだから。ちゃんと使うから大丈夫」

「よかった~。それにしても、失礼だったら申し訳ないのですが、造花って需要、そんなにあるんですか?」


 だって、この世界だと娯楽にお金を使うというのは、まだ難しいと思うから。貴族様のお屋敷だと逆に、生花を使うと思うし。


「あるよ~? そうじゃないと依頼、来ないからねぇ。商会の飾りとか、もしかしたらお貴族様のお屋敷でも、よく見たら造花、ってこともあるかもしれないねぇ」

「そうなんですね」


 どうしようわたし。

 当面はこれでいいと思ったけど、ずっとこれやっていくのかな。それでもいい気はするけど……。

 でも、お金は結構もらえてる。

 お店に来て、よりよりして、宿に帰って。それを繰り返す。

 うん、いいかもしれない。

 平和が一番。この街にも慣れてきたし。

 腰を据えるためにも、家、借りちゃおうかな。


 そんなことを考えながら今日もよりよりする。

 いつも通りの日常を過ごしていたとき、外が騒がしいことに気付く。


「緊急時の鐘だよ! 避難しなくちゃ」


 表に出ると、外壁の方からゴーレムが数体やってきている。

 勢いよく振り上げた腕に削られた家の破片が、こちらに飛んでくる。


 どすん


 幸い、まだ距離があったから直撃することはなかったけれど、地面の揺れが激しくてバランスを崩す。


「あたたた……」

「ローゼおばさん!」

「どうやら腰と足、やっちゃったみたいだ」


 倒れた拍子に痛めたみたい。

 わたしは急いで背負おうとする。


「アイちゃん、いいから逃げて」

「大丈夫です、任せてください。《ストレングス》!」


 わたしは筋力を補強する魔法を自分にかけた。


「あなた、魔法が使えたの?」

「これでも元冒険者です。舌、噛みますから気を付けてくださいね」


 そうして街の奥へと走り出す。



 その後、ゴーレムは騎士たちと街にいた冒険者たちが手分けして倒したらしい。



 騒動が収まって、ベッドに横たわるローゼおばさんと横に座るわたし。


「いろいろありがとうね。だけど、あたしゃこの体じゃ当分仕事はできそうにない。当然あなたも雇ってあげられない」

「いいんです、お世話させてください。わたし、慣れてますから」


 元々が子爵家のお嬢様付きのメイド。

 人のお世話にはある種の誇りがある。


「だめだよ。あなた、お金がなくてうちに来たんだろう。自分のことを考えなきゃ。大丈夫。自分のことくらいできるわ」


 そう言われては返す言葉もない。

 立ち上がって、静かに頭を下げる。


「また来ます。ありがとうございました」

「元気でね。あなた、優秀だもの。なんでもできるわ」


 もう一度頭を下げ、お店を後にした。

 数歩歩いてから、なぜか走りだす。走りながら考える。

 ローゼおばさんが怪我したのも。わたしがまた無職になったのも。全部全部。魔物が、魔物を使って人間を襲う竜が、悪い。


「ふざけるな!」


 足を止めて叫んでいた。


 絶対に、許さない。

 ゲームのキャラクターたちも、竜と戦ってた。

 なんで自分より大きな竜と戦うなんて、できたんだろう。

 ずっと思ってた。

 彼らは、力が、覚悟が、あった。

 ならば戦うだろう。

 何せ村が、街が、国が。大事な人が襲われる。

 倒す力と、立ち向かう心があるならば、戦うだろう。つまるところ――


「迷惑なんだよ!」


 わたしはどうだ。

 覚悟は。今なら立ち向かえる気がする。

 命をかけて、竜を殴る心構えが。

 どうせ一度死んだ身。ここで死んだって同じこと。

 この世界にゲームはないんだ。もうゲームで遊べない。

 食って寝てよりよりして。生まれ変わってすることがそれなら、目的のために戦って死ぬのも悪くない。

 力はどうか。まだない。

 けれど知っている。騎士や冒険者の中には前世ではたどり着けない強者がいることを。

 ならば、そこに到達する方法だってあるはず。見つければいい。


 この世界は異世界だけど現実。

 再走はできない。

 チャート通りにも進まない。

 でも――


「ゲームでは、最初弱いのは当たり前。スタート地点は同じだよね」

お読みいただきありがとうございます。

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