表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

014 渓谷の最奥

 呼吸と気持ちを落ち着けながらさらなる奥地へと歩き出す。

 強化魔法のおかげで、肉体的な疲労感はそこまで感じていないけど、精神的な疲労を感じてどっと疲れた気分。


「大丈夫。まだ戦える。鋼竜と戦いに来たんだから。アースドラゴンでこんなに疲れているようではだめ」


 でも、アースドラゴンと戦っておいてよかった。

 あれだけ大きい魔物と戦うとこれだけ疲れるんだということを知れているのは大きい。体の疲れを感じなくても、精神的な疲労は意識しなくちゃ。心が折れて呆然としちゃう前に、分が悪いと思ったら逃げる選択もできるようにしたい。

 強さについてもそうだ。硬さとか攻撃方法とか、同じでないにしても近いはず。

 鋼竜の方が大きくて、魔法にも強いんだろうけど。毒は効きづらそう。

 だけど、アースドラゴンの場合は、毒で動きが緩慢になっていた。ような気がする。

 少なくとも、最初は気怠そうに伏せていた。

 毒で気付かれた気配はなかったから、使い得ではあると思う。鋼竜にも最初は毒から入りたい。


 何時間歩いただろうか。

 無駄に疲れたくなくて急いで移動せずに、だけど黙々と歩き続けていた。

 下にはアースドラゴンが何頭もいたけど、中腹にいることはなく、こちらから手を出さなければ戦闘になることはない。

 ゴーレムも簡単に飛び越せるから戦闘にはならない。

 なんとも簡単な道中なのだった。

 だけど、歩くのにも飽きてきて、一番上まで駆け上がってちょっと休憩をとることにする。


 頂上から見た景色には、思わずため息が出た。

 引きこもりがちだったわたしからすれば、外はこんなに広かったんだと当たり前のことに感嘆してしまう。

 頂上とは言ったけれど、山というよりはこの渓谷だけが抉れるように地面が下がっているだけで、上は真っ平ってほどではないにしても、似たような高度の土地が広がっている。その外側は緑が広がっていた。


 座って膝を抱えて、おもむろに考えてしまう。

 ……わたし、なにしてるんだろう。


 こんな魔物の住処の奥地で。

 ひとりで座り込んで。

 一番近い人間は一体何キロ離れてるの?


 本当ならここにだって、来るにしてもパーティで。

 アースドラゴンの攻撃を受け止める盾役がいて。

 剣や魔法で攻撃したりなんかして。

 攻撃を受ければ回復してくれる人がいて。

 そういう人たちが来る場所なんだろうな。


 そして、そういう人たちですら、戦おうとは思わないのが四帝竜なんだ。 

 そんなのと戦うために、一人でここまで来てしまった。

 わたしが戦わなくたって誰も何も言わない。

 わたし自身、倒したい理由はあっても、倒したいと思ったときの感情はもうない。


「……はぁ」


 ため息が出る。

 こっちの世界で生きてきて初めてわかったけど、わたし、結構ネガティブ思考なんだ。

 ひとりで考え事をすると、いつも生産性のないことをくよくよ考えてしまう。


 立ち上がって、お尻を軽く叩いて砂を払う。


「行こう」


 逆に言えば、気持ちはなくても、理由はあるんだ。行こう。


「早く行って、早く終わらせよう。帰って布団でのんびりしたい」


 跳ねるように進んでいく。全速力で。

 幸い、頂上には何も魔物がいなかった。

 こんなに進みやすいなら、最初から頂上まで来ればよかった。


 元々結構な距離を歩いていたからか、渓谷の終わりが見えてくる。

 谷を挟んだ山が合流して、その更に奥は海になっていた。


「この大陸の最南端。そこが鋼竜の住処だったんだ」


 ここまでずっと谷底を流れていた川は湖のように広がって終わっていた。そのさらに奥。


 ――いた。


 渓谷の最奥。

 切り立つ崖を部屋の壁とでもするように、囲われた空間に一頭。

 圧倒的な存在感を放つそれ。

 アースドラゴンの三、四倍はあろうかという巨体がそこにあった。


「鋼竜……!」


 結構距離があるからこちらには気付いていない。

 どうしよう。とりあえず近付く?

 アースドラゴンを倒してからここまで、魔物がいなかったから《インビジブル》とかの気配を消す魔法や技は使ってこなかった。それらを一旦使っておく。


 慎重に、石も蹴り落とさないように近付いていく。

 距離にして百メートルくらいかな。相手が大きいからここから観察することにする。


 その巨体を丸めて大人しくしている。

 遠巻きには寝ているようにも見えるけど、わからない。

 鱗はアースドラゴンと違って、鱗同士がくっついて大きな塊のようになっているみたい。鎧でも着こんでいるような……。近くで見たら分かれているのがわかるのかもしれないけど。

 足は尻尾の内側にあってあまり見えないけど、同じように覆われているとしたら斬りかかるのは難しそう。アースドラゴンのときみたいに、せめて足の一本でも怪我を負わせて機動力を奪えればと思ったけど簡単にはいかなそう。

 でもたぶん、四本足で動きそうな感じがするから、アースドラゴンと近い生態なんだろうと思う。


 生態といえば、周辺には岩山の崖ばかりで、植物もないし動物も魔物もいない。何を食べて生きているんだろう。

 あの巨体を維持するエネルギーはどこから?

 ゲームや漫画で巨大生物が登場すると、いつも同じことを考えていた。

 そういえば爬虫類は一、二年、何も食べなくても生きられるのもいるって何かの動画で見た気がする。それにしたって少ないなりに何かを食べなければならないはず。

 水はあるけど、それだけとは思い難い。

 霞でも食べてるんだろうか。

 それとも岩とか? 岩ならそこら中にある。

 遠出ができる体と環境には見えないけど……。

 アースドラゴンかゴーレムが運んできたりするんだろうか。魔物を使って国盗りするってことは指示できるということだし。


 って、余裕か!


 自分のことながらツッコミたくなるほどどうでもいいことを考えていた。

 でもおかげで緊張はかなりほぐれた。やるぞ!

 結局は大きい爬虫類じゃない。アースドラゴンと似たようなもんだよね。

 危なくなったら逃げればいいだけなんだから。あの巨体で追ってくることはないでしょ、たぶん。


 とりあえず毒魔法が届きやすいように、崖の中腹まで慎重に下りていく。

 石を蹴らないように、蹴らないように……。


(よし、ここからなら。《ポイズンヘイズ》!)


 毒の靄が三方を囲まれた谷底に充満していく(透明で見えない)。

お読みいただきありがとうございます。

評価・ブクマ・感想等頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ