012 渓谷
奥に行けば行くほど戻るのが難しくなる。
単純に距離が延びるし、魔物も強くなっていく。
鋼竜までたどり着けたとして、戦ってそれで終わり、じゃない。帰らないといけないんだ。
どれだけ渓谷が続いているかもわからない。
最初の予定通り、できるだけ戦闘は回避して進んでいきたい。魔力も体力も、温存していかなくちゃ。
右側の山は比較的木が多く、左側は岩場になっている。
似たような地形なのに、木々の生え方が偏ってるのはどうしてだろう。何か理由があるのかな。
断崖絶壁に挟まれてるって感じではなくて、でもなだらかな山というよりは、ごつごつしていて、足場になりそうな段差や落ち着くことができそうな場所もちらほら見える。だけど恐らく、そういう場所は魔物がいる場所でもあるんだろう。
整備された道なんか、当然ない。
というか、踏み固められたようなけもの道のようなものすら、ない。
他の冒険者は川の横、谷の部分を進んでいくんだろうな。
一番歩きやすく、水辺でもある。人間にとっても、そして、魔物にとっても活動しやすい場所だ。
魔物との戦闘を回避するなら当然、上だね。
強化魔法に加えて、透明化の魔法と、足音を消す技で気配を極力消していく。
左側の、木の少ない山の方を、足場を探しながらとんとん駆け上がっていく。
山の中腹、自然にできた段差の位置に一旦落ち着く。
下を見ると、落ちれば既に助からなそうなゴツゴツした坂と遠い地面が見える。
「こ、こわ……」
身体的に強くなった今でも、普通に怖い。落ちたらどうなるのかわからないし。
って、声を出しちゃだめだ。
気配を消してる意味がなくなる。
そう思って、辺りを見渡す。
まだまだ頂上は上の方だけど、ここら辺は同じような高さが続いていて、進みやすそうだ。
このまま一気に鋼竜のところまで行くぞ!
……意気込んだはいいけど、そんなにスピードを出せないわたし。
だってこわいんだもん!
高いところが苦手だったわけじゃないんだけど、命綱もないし安全装置があるでもないし、怖いものは怖い!
それでもできるだけ(気持ち的には)急いで進んでいると、邪魔な岩が行く手を阻んでいる。 あまり崖側は歩きたくないんだけど、と思いつつその岩を避けようと崖側に足を向けると、小石を蹴ってしまう。
小石はカツカツと音を立てて崖を転げ落ちていった。
「足音は消せても副次的な音の発生は消せないんだ」
何の気なしに一人考察を口に出したところで、邪魔だと思った岩が動き出した。
「へっ?」
そんなに大きくはない。
けど、ありえない光景が広がっていた。
中心の大きめの岩から足のように4つ、石が繋がって中央の岩を浮かせている。
亀のようなアメンボのような……頭とかはないけどそんな感じだ。
(これがゴーレムか……なんだかイメージと違う。勝手に二足歩行なイメージだった)
とか、呑気に観察している場合じゃない。
こいつも魔物と呼ばれるからには襲ってくる可能性がある。
というか、こんな場所から街まで来て、襲っていたのはこいつらだ。たぶんもっと大きいやつだとは思うけど。
こいつら自身の考えなのか鋼竜の指示なのかわからないけど、ゴーレムが襲ってきたというのは確かだろう。
戦ってみたさはある。強さや生態など、知りたいこともある。
だけど、それは今じゃなくていい。
無駄に時間も体力も魔力も消費したくない。
ゴーレムに遭遇したら即逃げると決めてきた。
というわけで、音もなく飛び越え颯爽と走り去るのだった。
少しして振り返っても追ってくるそぶりはない。
というか、さすがにわたしについてこられるゴーレムがいるとは思いたくない。
あの体で素早かったら嘘だ。
これだけ簡単にスルーできるなら、川の横をばーっと思いっきり走った方がよほど早くて簡単だったかもしれない。
でも魔物がいっぱいいたら、いちいち避けていくのも面倒だし、このままでいいや。
だんだん、邪魔な岩が増えてきたし大きさもより大きくなっている。
これも3メートルはありそうだ。動き出したらどれくらいの大きさになるのか、気になる。
でも別に起こしたくはない。
気になったことにいちいち触れていたら鋼竜に着くころには疲れ切ってそうだし。
ちょっと通りますよーっと。
こちら側にはタイラントゴートと思われる魔物は見かけなかったけど、谷底には遠めにそれっぽいのがちらほら見えたりした。
衝撃だったのは、ゴーレムにタイラントゴートが群がって舐めたり食べたり(?)しているような光景が広がっていたことだ。
そういえば前の世界でも、崖を登って岩を舐める山羊の画像を見たことがある。
塩を舐めとっているらしかったけど、タイラントゴートもそうなのかな?
ゴーレム、しょっぱいのかな。
それとも、魔物同士だから、魔力か何か別のものを補給しているのかもしれない。
別にゴーレムも嫌そうにしてたわけじゃないし、案外うまく共生しているのかもしれない。
嫌そうにする自我があるかも知らないけど。
そんな感じでいろいろ観察しながら進んでいく。結構楽しい。インドアなわたしだったけど、この世界には娯楽がなかったから。
どれだけ進んで来たのだろうか。
やがて谷は広がり、山の間には広い空間ができていた。
そして、上から見るだけでわかる。
「ドラゴンだ……」
恐らく南の渓谷を生息地とする、アースドラゴン。
硬い鱗で覆われているらしいけど、ここからではちょっとわからない。
消耗は避けたいけど、こいつは戦っておいた方がいいかも。
こいつを倒せないようでは、鋼竜もきっと倒せない。
大丈夫、危なくなったらすぐ逃げればいい。きっと追って来られないから……。
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書き溜めがなくなったので不定期になりますが遅くても週一くらいでは更新したいなと思ってます。書き溜めたらたまに2日置きの更新に戻ったりするかもです。




