010 新しい魔法と技
ゴブリンを乱獲して、ギルドで討伐報告をしての、翌日。
わたしは再度継承の書の専門店を訪れた。
毒の魔法と同じくらい欲しかった魔法がある。
先日見送ったそれは、姿を隠す魔法、《インビジブル》。
毒が効くのを敵前で待っていたら、毒が回るまで相手の攻撃を凌がなきゃいけないから、毒魔法をかけたらそそくさと物陰に隠れて、念のために消えるために使うのだ。ゲームでも、姿を消すってとても強い。反則みたいな技だからね。お値段たかそ~……
と、思っていたのに。
「なんでこんなに安いの」
「《インビジブル》ですか? そりゃ対象がちょっとぼやけて見える程度のネタ魔法ですからねぇ」
なにその、心躍らない魔法……。
いやいやわからない。ここの人たちのイメージが弱いだけの可能性も十分ある。ひとまず安いから買っておこう。
どうしよう、思ったより安くてお金結構余っちゃったな。
他のも買ってもいいけど……
攻撃魔法はあんまりだな。四帝竜と正面から戦うのは御免被りたい。
同じ理由で、剣技の技も…… と思ったけど、さすがに1つ2つあってもいいか。ゴブリンと竜以外の何かと戦うときにはあったほうが安心だ。
そういえば、回復魔法ってどうなんだろう……
初級の《ヒーリング》は使えるけど、上級魔法って必要なのかな?
イメージで効果が決まるんだったらあんまり必要ない気もするんだけど、上級っていうイメージがもう強い回復魔法だって意識してより効果が高まったりするんだろうか。そもそも人体の理解度もここの一般人よりは高い気もするけどそれで効果上がったりしないのかな。
回復魔法は一旦保留しよ。
あ、でも、解毒魔法はあったほうがいいか。
何かの間違いで自分がかかったら困るし、人を巻き込んでしまったら、最低限自分で解毒できなくちゃ。
そうして買ったのは、毒魔法、透明化(?)魔法、解毒魔法、剣技2つと、体術の技1つの計6つ。
ついいっぱい買ってしまった。
まぁでも挑む相手が相手だからお金より技を持ってた方が役に立つし、良し!
それぞれ効果を知っておきたいから試しておく必要はあるけど、《インビジブル》は特に要検証だ。解毒魔法はさすがに自分にも他人にもかけて試すとかしたくないので覚えておくだけでいいかな。
魔法の検証は別に魔物相手でなくてもいいし、剣技に関しても今更ゴブリンを相手にする必要はないから、木とかに対して試してみようと思う。そもそもゴブリンは剣技なしでも倒せるしね。
森に移動して、早速魔法と技を覚えて試していく。
まずは《ポイズンボール》。
毒の球を打ち出し、着弾周囲に毒を撒く。
使ってみると、黒と緑が混ざったような色合いの球が浮かぶ。
それをそのまま何もない地面に向けて放つと、べしゃっと広がり小さな水たまりのような感じになる。
こっちの方が使いやすい、かも?
次は《インビジブル》。
透明だよ透明! 見えづらいでは使えない。
ちゃんと透明をイメージするんだ。透明透明……
透明ってなんだろ。
水とか? ペットボトルとか…… ガラス? うーん。以前、光学迷彩の解説動画とか何の気なしに見たことあるけど覚えてないよ~。水とかガラスとかをイメージすると、なんか光とか反射して目立ちそうな気がするし。
そうだ、シンプルに透明人間だ。
いろんな創作で出てくるもんね。あんな感じだ。
ここは魔法のあるファンタジー世界。あんなことも可能なんだと思い込む。思い込むことが大事なんだ。そう思い込んで使ってみると……
!!!
わたしの手が見えない!
思ったような効果が見事に得られた、のかな? 周りからは見えていないのかな。
けど、わたしにもわたしが見えないのは困ったりしない? そこは練習でなんとかなるのかなぁ。でもとりあえず、使えそうで安心した。
次は剣技の《ソニックスタブ》。
一瞬で間合いを詰めて、刺突を繰り出す技。
今までも自己流で近い攻撃をしていたけど、ちゃんと剣の扱いが上手い人の身のこなしとかを知っておきたかったから買ってみた。
軽くジャンプしたり肩を回したりして柔軟体操をする。体を痛めたくないからね。
地面を蹴る力と剣を前に突き出すタイミングが大事みたい。それは継承の書でちゃんとイメージできてる。いくぞ!
ばっ
……や、いいけど。
ちゃんと木に剣の中ほどまで刺さったけれど。
なんか人がいないところでやってるとちょっと恥ずかしいのはなんでだろう。
見られてない、見られてない。
というかわたし、戦闘中は強化魔法をかけてるんだからそれに慣れた方が良いかな。
剣も折れたりしたら困るし。
もう一度、強化魔法をかけて繰り出してみる。
地面を蹴ると、物凄い勢いで木が眼前に迫り、反応速度を上げていたおかげでギリギリ突き出せた剣は木に刺さり、抵抗感も感じる間もなく鍔まで到達、反応速度を上げておいたのに反応しきれず木に体から衝突する。
「いったぁ~~~……」
強化魔法がなかったらどうなってたか想像したくない。
というか強化魔法をかけてたからこうなったんだけど。
わたし、強化魔法をかけて思いっきり地面を蹴ったときの脚力が尋常ではなくなってる。びっくりした。慣れが必要だ。こんなの本番ではいきなりは使えない。試しておいてよかったぁ……。大事な戒めを得た。
ふぅ…… つ、次!
次は《ラプチャーフォース》。
これも剣技の技で、刀身に纏わせた気を弾けさせて相手と間合いを取る技、らしい。
主に鍔競り合いになったときとかに相手を後方に跳ね除けて、隙を作る使い方をするみたい。
剣を木に当て、目を閉じて、継承の書に記した使用者の感覚を思い出す。
気。
よくわからなかったけれど、わたしの中にもこんな力があったんだ。
内から流れ出るそれを、刀身に流す。
――そして、弾けさせる!
パチッ
樹皮が少し飛んだ。
じ、地味~~~!
……まぁこんなもんか。別に攻撃するための技じゃないしね。
これを選んだのは間合いを取るため。
剣は細いし体は小さいし、力比べなどしたくない。だからこの技を覚えたんだ。
きっと役立ってくれる、よね。うん。
最後は《サイレントステップ》。
足音の小さい足運びをする。
これも地味だけど、《インビジブル》だけでは恐らく耳が良い魔物には居場所がある程度わかってしまうと思ったから覚えてみた。
鋼竜へ向かう道中にはゴーレムと気性の荒い大角の山羊のような魔物、タイラントゴート。あとは硬い鱗を持つアースドラゴンなどが生息している。
アースドラゴンまでは情報がちょこちょこ出回るみたいだけど、鋼竜の情報はほとんど得られなかった。鱗がアースドラゴンよりさらに硬質化していることと、纏う魔力の層が厚くて魔法もそうそうダメージを与えるに至らないということくらい。大きさや攻撃手段はあまりわかっていない。ただ、尻尾を振るうだけで人間にとっては致命傷になり得るということくらいだった。
ゴーレムとタイラントゴートは、生息地がある程度分かれているらしい。
あまり道中戦って消耗したくないわたしは、動きが遅そうなゴーレムルートからなるべく戦闘を回避して突っ切りたいと思っている。そこで役立つと思ったのが《サイレントステップ》だ。
必要なものは揃った。と思う。
だけど今回覚えたものに少し慣れておきたいから、もう少しだけ狩りをしておこうと思う。
命はひとつ。ゲームみたいに再走はできないから。念には念を入れなくちゃ、ね。
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