#57 切り札
ボンボン! バリバリ! パッキーン!
スル! スル! スルスルスルッ!
プラシドが魔法を放ち、サラがそれを回避する。が、心なしかサラが押され始めたように見える。
(疲れが出て来たのか? いや……)
相手は魔力を回復しているが、サラには体力を回復する手段がない。持久戦になれば不利なのは明らか。つまり攻めなければいけないのだが、サラには攻撃手段がない。つまり……
「おらおら、どうした! もう終わりか!」
「………」
サラは額に脂汗を浮かべながらひたすらプラシドの魔法を弾き飛ばす。今のままではジリ貧なのは彼女も良く分かっているだろう。しかし……
(サラの魔道具に相手を攻撃するためのものはない……)
そもそもエリザベス婆ちゃんの回復魔法と再生魔法に憧れて魔道具を作り始めたという事情や本人の気質もあってサラは攻撃のための魔道具を作ったことがないのだ。
ドン! ドン!
時折サラが弾き飛ばした魔法がプラシドを襲うが、全て奴に当たる前に消滅してしまう。〈ミラーマジック〉とやらのせいなんだろう……
「くっ……しつこいな。まさか最後の一本まで使わされるとはな」
プラシドは再び懐からマジックポーションの瓶を取り出す。流石に奴にも疲労の色が見えるが、どう見ても肩で息をしているサラの方が疲労度合いは大きい。
(これが最後のマジックポーション……でもサラは乗り切れるのか?)
そして、乗り切れたとしてもサラには攻撃する手段が……勝つ手段がない。あるとすればそれは……
ボンボン! バリバリ! パッキーン!
プラシドが最後のマジックポーションを飲んだ後も二人の攻防は続いた。流石にプラシドの魔法の発動速度や正確さは落ちて来たこともあってサラは押されつつも何とか食らいついている。しかし……
「……っ!」
遂にサラが膝をついた。絶好のチャンスのはずだが、プラシドの手も動かない。どうやらお互いに限界のようだ。
「くそ……まさか出来損ないにここまで食い下がられるとはな」
「もう勝った気でいるの? 詰めが甘いんじゃない?」
そう言うサラをプラシドは鼻で笑う。互いに満身創痍、それでもプラシドは自分の勝利を確信している。
「だが、どこまで行っても出来損ないは出来損ない。これで終わりだ!」
ボゥゥゥゥ……
プラシドの詠唱と共に炎弾が姿を現す。あれは魔導砲から飛んできた奴だ!
「我が最強の魔法、〈フレイムノヴァ〉。疲労したその体では回避出来まい。どこまで行ってもエリートの俺と出来損ないの前には決して埋められない絶対的な差があるのだ!」
ここ来て切り札……やっぱりプラシドは凄い。だが……
(サラなら……)
ここまで来たら俺に出来るのはもう信じることだけだ。
「私には辺境に来る前の記憶はないわ。でも、あなたの言う通り、私はヴェルナール家では出来損ないだったのかも。だって、魔力がないんだし。でも……」
サラはゆっくりと立ち上がると、“ヒラリンひらひら”をプラシドの〈フレイムノヴァ〉に向けた。
「だからといって私がシデンやエリザベス婆ちゃんから教えてもらったことを馬鹿にされるのは許せない。辺境での生活は私にとってかけがえのないものなんだから!」
「ふん! だが、何を想おうともこの世界では結果が全て! 自らの間違い、身を持って味わえ!」
ゴォォォ!
プラシドが放った〈フレイムノヴァ〉は凄まじい速度でサラに襲いかかる! サラは“ヒラリンひらひら”を構えるが、その動きは明らかに鈍い……
(サラ……)
あの〈フレイムノヴァ〉の威力は他の魔法とは別物だ。当然弾くのも段違いに難しい。疲弊した今のサラじゃ弾くことが出来るかどうか……
ブンブンブン!
と、その時、サラは“ヒラリンひらひら”を片手で持ち、くるくると回し始めた!
「おいおい、この後に及んでする悪あがきがそんな大道芸か! これだから田舎者は……って、何ぃ!?」
プラシドの〈フレイムノヴァ〉が回転する“ヒラリンひらひら”に押し留められている。いや、それだけじゃない!
(徐々に小さくなっている!)
少しずつ、少しずつだが、〈フレイムノヴァ〉が小さくなる。そして……
フッ…… ガク……
〈フレイムノヴァ〉が消えると同時にサラは再び膝をつく。無理もない。集中力も体力ももう限界のはずだ。
「く、くくく……それで勝ったつもりか? もうその魔道具は使えまい!」
〈フレイムノヴァ〉を防ぎきった“ヒラリンひらひら”は裾が焼け焦げてボロボロだ。確かにこのままでは元の機能を発揮することは出来ないだろう。
「それに殴り合いで女のお前が俺に勝てるとでも? いくら足掻こうと結果は変わらん!」
「確かに“ヒラリンひらひら”は修理が必要だけど、勝つのは私。準備はもう整った」
サラ、あの戦いの中で遂にやってのけたんだな!
「ぬかせッ! この出来損ないが!」
プラシドが殴りかかる。が、サラは素早く奴の後ろに回り込む。サラは辺境の強力な魔物からも逃げ切る脚力があるのだ。これくらい造作もない。
ピタ……
サラはプラシドの首すじに何かを貼ると後ろへ飛んだ。遅れて振り回されたプラシドの腕が宙を薙ぐ。
「何だ? 何をした!」
プラシドが首すじの何かを剥がそうとするが、それは肌に吸い付いたように離れない。当然だ。それは捉えた獲物を逃さないダークオクトパスの吸盤を使ってあるんだから。
「何って……私には攻撃手段がないんだから決まってるでしょ?」
「な、何ぃ!」
「あなたの魔力を回復させてあげる」
一層困惑した顔を浮かべるプラシドにサラは説明を続けた。
「これはこの間シデンに獲ってきてもらった素材で作った便利グッズ。名前はまだないけど、魔法の発動により大気に散った魔力を集めて術者に戻すことが出来るの」
「じゅ……術者に戻すだと!?」
「あなたは魔力を使い終わった後、マジックポーション三本で魔力を回復して魔法を使った。だからその分の魔力が回復する。この意味はあなたには分かるよね?」
「や、やめろ……」
「負けを認めるなら剥がして上げる。どうする?」
体に留められる量以上の魔力が注がれると魔力が体の中で出口を求めて暴走する。つまり……
「誰が負けを認めるも──あがが!」
溢れた魔力がプラシドの肉体の中で暴れ回る! 彼は体中の穴という穴から何かを出しながらのたうち回った!
「そこまで! 勝者はサラ嬢!」
「シデン、やったよ……」
そう言った瞬間に倒れ込むサラ。俺はダッシュで駆けつけ、彼女が倒れる前に抱きとめた。
いつも読んで頂きありがとうございます!
次話も頑張って書くのでよろしくお願いします!




