#55 プライド
「はぁはぁはぁ……」
「そなた、見かけによらず動けるのぅ」
肩で息をするクレアがそう声をかけるとサラはニコリと笑顔を見せた。
「大分カンが戻ってきた。協力してくれてありがとう、クレア」
プラシドの決闘が決まった後、サラはクレアに頼んで特訓をし始めたのだ。
「これくらいお安い御用じゃ。しかし、魔道具の助けを借りているとはいえ、魔法を回避する訓練とは……無茶なことを考えるのぅ」
サラはクレアの魔法を“ヒラリンひらひら”という便利グッズで魔法を回避する練習をしている。
(魔法はあっという間に飛んでくるから回避するのが難しいよな……)
この”ヒラリンひらひら“という便利グッズは自分に飛んできた矢や魔法を逸らしてくれるものなのだが、そのためにはタイミング良く正面から受けないといけない。そのため、サラはクレアに頼んで特訓をしているのだ。
「大分カンが鈍ってて……」
「ふむ……」
サラは便利グッズを作るのに使う素材を採集するために危険な魔物がうろつく辺境を一人で出歩くことだってあったんだから身のこなしも中々のものだ。けど、辺境を出てからはあまり体を動かす機会がなかったからなまっているらしいな。
(にしたって決闘なんて……)
サラは魔物の生態や行動パターンを解析して狩り方などを考えたりするのは得意だが、性格的に戦いは好きではない。そんな彼女が自分から決闘するなんて言うってことは相当頭に来てるってことだな……
「これだけ動けるなら決闘を受けるというのも納得じゃが……別にシデンに任せても良かったのではないか?」
「駄目なの。だって、それじゃ私が証明したことにならないでしょ?」
「証明……何を証明したいのじゃ?」
クレアが問うと、サラは空を見上げた。始めた時はまだ上がりきっていなかった太陽が、もう沈もうとしている……
「私、辺境でシデンとエリザベス婆ちゃんに拾われる前の記憶はないけど……辺境で二人に会えてとっても良かったって思ってる。多分二人に会えなかったら自分が何者なのか一生分からなかったと思う」
サラ……
「エリザベス婆ちゃんみたいにシデンの助けになりたいと思って、勉強して、考えて、失敗して、また勉強して……その繰り返しで色んなことが出来るようになったの」
サラには魔力がない。が、それを補いたいと願って努力したから便利グッズを生み出せたんだ。
「だから辺境での生活は私の誇りで、とても大切なの。それを馬鹿にする人は許せない……絶対に!」
そうか……そう言うことか。
(止められないな、これは……)
サラにとって、これは誇りがかかった戦いなのだ。なら、止めるわけにはいかないな。
(だとしたら俺は出来る限りのことをして応援するしかないな)
例えば……
「サラ、役に立つかどうかは分からないけど……」
俺がそう言いながら口にしたアイデアを耳にするとサラは大きく目を見開いた。
*
それから時間はあっという間に過ぎ、いよいよサラとプラシドの決闘の時間となった。
「ふん……逃げなかったことだけは褒めてやる」
「あなたもね」
サラがそう言うと、プラシドは目を吊り上げる。どうやら奴は大分サラのことを下に見ているな……
(魔法の力に絶対の自信を持つプラシドからしたら魔力がないサラは物の数にも入らないってことか?)
けど、魔法だけが力じゃない。力には色んな種類があるんだ。サラ、それを奴に教えてやれ!
「サラちゃん、そんな奴ボコボコにしてやれ!」
「プラシド! サラちゃんを少しでも傷つけたらギタギタにしてやるからな!」
二人を取り囲む兵士達からはサラへの応援やプラシドへの罵声が飛ぶ。奴にしてみれば完全なアウェーだが、全く気にした様子はないな。
(けど、勝つのは簡単じゃないぞ……)
それはプラシドが強いから……という意味じゃない。いや、あれだけ自信満々なんだからそれなりの腕はあるんだろうけど、魔法のことは俺には分からないからな。そうじゃなくて……
「では、双方準備は良いな? 決闘開始!」
見届人のカートレット将軍が言うが早いかプラシドは魔法を放つ! が、サラはそれを予期していたかのように”ヒラリンひらひら“で弾き返す!
ドッカーン!
地面にぶつかった火球が爆発するのを見て、プラシドは驚いた顔をした。
「貴っ様……俺の魔法を」
「撃ってくるタイミングが分かればこれくらい簡単。シデンに教えてもらった通りだよ」
俺がサラにした助言は二つ。その内の一つが魔法を撃つ時の予備動作だ。魔法を撃つ時、術者は指を差したり視線を向けたりといった予備動作があるみたいなのだ。
(多分これ自体には魔法とは関係ないが、魔法使いも人間だからな……)
多分癖みたいなものなんだろう。それを知っていれば、魔法が飛んで来る前にそのタイミングを知ることが出来るのだ。
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