#39 楽しみ
だが、順番を崩すわけにはいかない。そんなことをすれば皆に何かあったのかと不信感を持たれてしまう。それに何より不公平だし。
(この兵士は……なるほど)
目の前の敵に意識がしっかりと向いているのは良い。が……
「もう少し剣をしっかり握るといい。そうすれば剣を払われにくくなるぞ」
「ありがとうございます、隊長!」
次の兵士は……ふむ。
「剣は真っ直ぐ振るんだ。じゃないと斬りかかった時に折れてしまうぞ」
「分かりました! ありがとうございます、シデン隊長!」
そんな具合で素振りを見ては助言をして……と続けていくうちに遂に俺は例の異常に剣が上手い兵士……いや、剣士の元に辿り着いた。
「私の剣はどうですか、隊長!」
自分の番を待ちわびていたのか、剣士は──いや、変装したリアが素振りを中断してそう聞いてくる。おいおい、さっきカートレット将軍に見つかったばかりじゃないか……
(でも、そんな目で見られるとな……)
俺を真っ直ぐ見つめる目にあるのは剣術を極めたいという純粋な気持ちだけ。それを無下にすることなんて出来るはずがない。
(前に比べたらリラックスして振れるようになってきたかな……)
以前、俺はリアに“もっと剣を振ることを楽しんだら良いんじゃないか”とアドバイスした。何故なら彼女の剣はいつも張り詰めたような真剣さとこだわりとも言えるほどの型への固さがあったからだ。
(真剣さも型を守ることも大切なんだが……)
剣を振る場面では基本命がかかってる。そんな場面で真剣になるのは当たり前だし、型を守った正しい剣を振るうことは理にかなってる。だが……
(もうちょっと余裕があった方が良いと思うんだよな)
リアは実力はあるし、頭も良い。だからわざと隙を生んで油断を誘うような相手に合わせて臨機応変に立ち回ることだって出来るような気もするのだ。
「剣は殺し合いの道具だ。それは間違いない」
俺の言葉にリアが息を飲み込むのが分かる。そう、それはどれだけ綺麗事を並べても変えることが出来ない事実だ。
「が、一人で剣を振っている時、その時は少し意味合いが変わる」
一人で剣を振る時、そこには敵はいない。あるのは今いる現在の自分と頭の中にいる理想の自分、その二人だけだ。
「一人で理想の自分に近づくために剣を振るのは修行であり、訓練だ」
分かりやすい言い方かどうかは分からない。が、これが俺の本心だ。
「技術を高める、理想に近づく。その過程であるなら楽しみもまたその中にあるんじゃないかと俺は思う」
「技術を高める……楽しみ……」
俺の言葉を聞いて考え込むリア。もう少し話をしてあげたいけど、あまり長く話し込んでいては不審がられてしまう。俺は立ちつくすリアに後ろ髪を引かれながらその場を後にした。
*
(???視点)
(おいおい、こりゃあどう言うことだ?)
そろそろ終わった頃かと思っていて見れば……まさか負けてるとな。
(わざわざ大砲まで運んでやったのに……)
あれだけ有利な条件が揃っていて負けるなんてあり得なくないか?
(……カートレット将軍の戦上手がここまでとはな)
まあ、予想外ではあるが別に良い。奴らが王都に着くまでに殺ればいいんだからな。
(さて、帰るか……)
辺りを少し調べた後、俺が転移魔法で王都に戻ろうとしたその時……
「うぅぅ……」
誰かのうめき声なんて普段なら気にも止めない。なのに思わず足を止めたのはその声に聞き覚えがあったからだ。
(こいつは確かハイネとか言う騎士団長……)
声の主は俺がこの戦場の司令官とした男だった。別にこいつに優れた能力がある訳じゃない。が、丁度状況的に操りやすかったから声をかけただけだ。
「お、お前は確か……」
気がついたか……中々悪運の強い奴だ。
「一体何があったのですか? 貴方ほどの騎士が敗れるなど……」
猫なで声でそう言うと、ハイネとか言う男は突然大声を張り上げた。
「アイツ、妙な妖術を使って──ゲホゲホッ!」
そんな体で急に声を張り上げるからだ。馬鹿な奴だよ……
(しかも妖術だと? 何言ってるんだ?)
が、こいつはこの場で何があったのかを知ってるようだ。とりあえず連れ帰ってみるか……
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