#4 マルボレク要塞
「婆ちゃん、今なんて?」
聞き返した俺にエリザベス婆ちゃんは不思議そうな顔をした。
「聞こえんかったか? この娘をその将軍のとこまで送ってやんなさい。この辺りが平地になったら仕事にならないじゃろ」
まあ、辺りが全て平地になったら仕事はし易いが、生活は出来なくなる。俺達はここの魔物も含めたここの動植物の恵みに頼って生活してるからな。
(でも、何で今更……)
婆ちゃんも本気で辺りが平地になることを心配しているわけじゃないだろうに。
「いい機会だから少し外を見て来い。この二十年でお主は変わった。そのことがよくわかるじゃろうて」
俺が変わった? まあ、歳は取ったが……
(婆ちゃんは何が言いたいんだ?)
分からないが、しばらく良く考えてみるか。
※
二〜三日、良く考えた結果、俺はアイゼリア王──おっと、リアを将軍の元まで送って行くことにした。婆ちゃんが何を言いたいのかも気になるし、リアを一人で見送るというのも流石に寝覚めが悪いしな。
(婆ちゃん一人でも生活には困らなさそうだしな)
リアを襲った奴らは今、婆ちゃんの下僕として働かされている。兵士達はまあまあなエリートだったらしく、婆ちゃんのサポートがあれば何とか魔物を狩ったりといった俺の仕事をこなすことが出来るらしい。ちなみにキザ男はほとんど役に立たない……
「使い方は大丈夫だよね?」
「大丈夫じゃ。元々魔力がない者向けの道具じゃろ」
サラが婆ちゃんとの別れを惜しんでいる。実はサラも俺についてくることになったのだ。理由は良くわからないが、婆ちゃんはサラにも似たようなことを言ったらしいな。
(確かにサラの作る便利グッズは凄いからな)
古文書に載っている童話で出てくる道具を魔物の素材を使って再現したものだが、これが中々凄い。ここでの生活はサラの道具がなければ成り立たないのだ。
「シデンもサラもありがとう。このお礼は必ず……」
リアもすっかり元気になったみたいだ。再生魔法は例外はあるにしろ、基本どんな傷も癒せるが、体力だけは本人任せ。見た目によらず中々タフな体をしているな。
「帰ったら色々聞かせてくれ。楽しみにしとるからの!」
そんな婆ちゃんの明るい声に見送られて俺達は出発した。すぐ帰ってくるからな、婆ちゃん!
※
(エリザベス婆ちゃん視点)
(行ったか……)
若干強引じゃったが、二人とも旅立ってくれた。良かった良かった。
(シデンよ、そなたはこんな場所に埋もれていていい器じゃないからの。勿論サラも)
本人達は無自覚じゃが、二人共に王国を、いや世界の未来を変える可能性を持っている。いずれ世に出さなくてはと思ってはいたが、まさかこんな形になるとは……
(ここの魔物は並じゃない。それを一刀で斬り伏せるなんて普通は有り得ないからの)
王女を襲った兵士は恐らく近衛師団クラスの実力者。しかし、あいつらが束になっても倒せないくらいここの魔物は強い。
(しかし、面白いの……毎日の素振りが型を洗練させ、地味な土木作業が筋力を鍛えるとはの)
しかし、これもシデンの真面目さがあってのもの。誰がやってもこうなるわけではないじゃろうな。
(しかも、あやつはそんな毎日を楽しんでいた節もあるしな……つくづく面白い奴じゃ)
シデンをここに追いやった奴もさぞかし驚くことじゃろう。栄光の舞台から追い出したつもりがいつの間にか最強になっとるんじゃからな。
(こう言うのは確か古文書によれば……ざまぁとか言うんじゃったか)
まあ、それはどうでもいいが。
(サラはちと心配じゃが……ま、頭の良い娘じゃし、シデンもいるから大丈夫じゃろ)
サラが作った便利グッズ。あれは……
「み、水汲み終わりました……」
お、帰ってきたようじゃの
「次は薪割りじゃ。終わったら朝飯にするからの」
兵士達はふらふらじゃが、逆らうことはない。それがいかに無駄なことかは初日で悟ったじゃろうからの。
「は、はい……」
「分かりました」
「り、了解です」
三人はふらつきながら薪割りに向かう。まぁ、昼までには終わるかの……
※
(シデン視点)
「これがマルボレク要塞……」
リアは初めて見るマルボレク要塞に目を丸くしている。まあ、そうだろう。この辺境にあって国一番と言える要塞があるんだからな。
(ここの魔物が王国内に入らないように頑丈に作られてるって婆ちゃんが言ってたけど、ここまでするほどここの魔物は強いかな?)
まあ、やたら硬かったり、やたら早かったり、やたら特殊能力を持っていたりと慣れないと厄介な奴らではあるが。
「で、ここを抜けないと王国内には戻れない。だから……」
「ああ。ぶっ潰す!」
リアを無事送り届けるたも、まずは王国最強の要塞をぶっ潰す!
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