#3 アイゼリア王女
俺はそれから急いでサラとエリザベス婆ちゃんを呼んだ。女の子は怪我をしていたから動かしていいか判断できなかったからだ──というのは言い訳で実は……
(いや、びっくりするくらいの美人だな)
サラも美少女だし、エリザベス婆ちゃんも年はとっていても美形だから俺はその種の耐性はある方だ。にも関わらず、止血するために服を一枚めくることさえ躊躇われるくらい女の子は可愛かったのだ。
(触れれば壊れそうなくらい儚げな美貌──)
いや、止めよう。何かこんな陳腐な表現じゃ失礼な気がする。それに今は、それどころじゃない。
「助けて頂きありがとうございました」
襲われていた女の子──アイゼリア第一王女はとりあえず起きられるようになるなり、俺達に礼を言った。
(王族なのに腰が低いんだな……)
いや、それよりも
「たまたまじゃ。気にせんでもいい。ワシがあんたを助けた訳でもないしの。それよりも傷はどうかの?」
「傷はもう全く……失礼ですが、かなり高名な術者とお見受けしましたが」
そう。アイゼリア第一王女の傷は運悪く内臓に達していたのだ。婆ちゃんによれば、俺があのタイミングで割って入らなければ彼女は失血死していた可能性が高いとのことだった。
(まあ、そんな怪我も一瞬で治せる婆ちゃんが一番凄いけどな)
致命傷は普通の回復魔法では癒せない。が、婆ちゃんは回復魔法の更に上、再生魔法の使い手。内臓の損傷さえ治してしまえるのだ。
「昔の話じゃ。しかし、王女暗殺未遂とはの。オズワルド王国の情勢も随分混乱しとるようじゃ……」
俺が王女を助けることになった経過は既に二人には話してある。ちなみにアイゼリア王女を襲った奴らは縛り上げて婆ちゃんが呼び出した聖獣に見張らせているから安心だ。
「頼れそうな味方はいるのかの?」
「カートレット将軍ならきっと。でも、今は南の蛮族の討伐に……」
「なるほど。その隙を狙った……いや」
「はい。直接の発端は三年前の母の他界だと思います。それ以来、父も弱ってしまっていて……蛮族の反乱も他勢力、特に第三王子派の陰謀である可能性さえあります」
「ますますきな臭いのう」
婆ちゃんが眉間の皺を深くするが、悪いが俺にはさっぱりだ。結局どういうことなんだ?
「つまり、次の王様の座を狙った誰か──もしかしたら第三王子派かもしれない──がアイゼリア王女の命を狙ってるってこと?」
おおっ、流石サラ! 完璧に話を理解してる。
「その通りです。あと、出来ればリアと呼んで下さい。実は仰々しいのは好きじゃないんです」
「分かったわ、リア。じゃあ、あなたも出来たらもっと気楽に喋って。年齢も同じくらいなんだし。あ、私のことはサラでいいわ」
「ありがとう、サラ」
一瞬で打ち解け合う二人……そう言えばサラは同年代の友達っていなかったけど、もしかして王女様もそうなのかな?
「ところでさっきの話の続きじゃが……どうするつもりじゃ? まあ、しばらくここにいてもらっても構わんが……」
エリザベス婆ちゃんが話を戻す。確かにそこを決めないと何もしようがないしな……
「カートレット将軍に私の無事を伝えないと! 伯父様……いえカートレット将軍は私が行方不明と聞けばそのまま第三王子の屋敷に攻め込みかねませんから!」
え……マジで。
「えっと、リアの安否確認より先にってこと?」
「私のことも気にかけてくれると思います。多分この辺りが平地になるくらい探してくれるんじゃないかと」
おい、この辺りは山と森だらけだぞ!
(つまり、それくらいアイゼリア王女のことを大切にしてるってことか)
ということは……
「けど、何と言うか、真っ直ぐ過ぎるくらい真っ直ぐな人で……特に私のことになると。疑わしいというだけで相手を滅ぼしかねません」
む、無茶苦茶だ……
(攻め込んだ後にアイゼリア王女が生きてました! 良かった良かった……とはならないな)
攻め込まれた方も黙っていないが、聞いた限りカートレット将軍とかいう人も納得しないだろう。何せアイゼリア王女が襲われ、傷を負ったというのは事実なのだ。生きていたから許してやるなんて話にはならないだろうな……
「出来るだけ早く……いえ、一刻も早くカートレット将軍に私の無事を伝えてなだめなければ戦が起こります。最悪王国が滅んでしまうかも」
「フム、確かにそれは困るの。じゃあ、お主が将軍のとこまで送ってやれ、シデン」
へ……婆ちゃん今何て?
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