09.武士、青春の音を聴く
(心視点)
吹奏楽部のミニコンサートがあるから誘ってみた。
その後、吹奏楽部の保護者会がある。
父さんと母さんと武で来ることになった。
母さんは残って保護者会、
父さんと武はミニコンサート後帰ることになった。
その前に武が
「吹奏楽部?コンサート?保護者会?」
と立て続けに疑問を持ったようだった。
武には去年のコンクールやいろんなイベントで出演した時の映像を見てもらった。
僕が映ると、
「大きな楽器を吹きなさる。心殿、すごい。」
とほめられ、ちょっと嬉しくなった。
「しかし、心殿もこうやってテレビに映るということは、いずれ藤原紀香とも接触される日がくるのではないか?」
と聞いてきた。
まだ不安なんだ。
「ないよ。これは中学生の吹奏楽コンクールだもん。
そういうところに来る人じゃないし、忙しくてそれどころじゃないと思う。」
と言うと、武は、そうなんですか、と、なんとなく納得したようだった。
「新入部員が入って、紹介や舞台経験も兼ねて、やるんだ。
見に来てよ。」
と言うと、なぜか緊張した様子で、参ります!と答えた。
「いや、気軽にしてよ。ねえ、父さん。」
「うん、武、中学を見学するつもりでいればいい。」
そう言うと、中学…と首をかしげてつぶやいた。
そういえば、武は保育園や幼稚園、小学校、中学校で学んだことはなさそうだ。
年齢はいくつぐらいなんだろう?
仕事はしてたんだろうか?
友達はいたんだろうか?
でも、それは武本人が一番知りたいことだろう。
聞かれたら困るだろう。
記憶が戻らないのって、きっと本人が一番不安で辛いんだと思う。
そういうのを少しでも和らげられるかな?
武に
「これを演奏でやるんだ。元の曲を聞いてくれる?」
と言って、MrsGreenAppleの青と夏、マツケンサンバの元映像を見せた。
武はこれは…とつぶやいて、見入っていた。
終わっても、
「ちょっと今日しばらく聴きます。」
と言って、何度も繰り返しYouTubeに見入っていた。
どんな事を感じたんだろう。
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部活動参観の日。
ミニコンサート前には少し早めに行って、準備をする。
音楽室を合奏仕様に机と椅子を並べ替えて、保護者用の席を作った。
席の準備、音出し、スケール、最終合奏で時間ギリギリになった。
急いでつば抜きをして、ユーフォを置き、気を付けの姿勢で保護者の方の入場を待った。
父さんと母さんと武が3人で入って来た。
父さんが手を振っていたので、僕は小さく手を振り返した。
隣の先輩が、こそっと
「あれ、藤井君のお父さん?」
と聞いてきて、はい、と答えた。
「仲いいんだね、家族みんなで来てくれたんだ。」
武は…よくわかんないけど、家族みたいなものだ。
一緒にご飯食べて、家事やってくれて、いろんなことを助けてくれるようになった。
そのくせ、ちょっと不安定なところがあるんだよな。
急に怒ったり、不安になって怯えたり、嬉しそうに泣いたり。
心配になるが、いてくれると安心する。
保護者の方が席についたところで、顧問の内田先生が挨拶をした。
「本日はご足労いただきありがとうございます。
新入部員を迎え、新たに今年の吹奏楽部、始動いたします。
まずはミニコンサートお楽しみいただければと思います。
それでは、司会を。」
そう言って、岩尾先輩が出て来た。
部長でサックス担当している。
配慮があって、吹部て数少ない男子部員。
優しくて大好きだ。
岩尾先輩がお辞儀をして話始める。
「皆さま、本日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます!
私たちは鶴花中学校吹奏楽部です。
今日は、今年度の新入部員を紹介しつつ、ミニコンサートをお届けします。
まず 演奏する曲は、新入部員も一緒に「レ・ミゼラブル」より 『民衆の歌』のショートバージョンを吹奏楽部員の歌の後、演奏をいたします。
それでは、新入部員と先輩たちによる演奏をお楽しみください!」
拍手の間に、岩尾先輩は席に戻ったのを確認した。
普段はトロンボーン担当の瑞家先輩が、楽器を置いてピアノへ移動し、鍵盤に手を置いた。
最初はピアノとスネアドラムの伴奏で歌う。
内田先生の指揮で全員による合唱
「戦う者の歌が聞こえるか?
鼓動があのドラムと響き合えば
新たに熱い命が始まる 明日が来た時 そうさ明日が
列に入れよ われらの味方に
砦の向うに憧れの世界
みな聞こえるか? ドラムの響きが 彼ら夢見た 明日が来るよ」
新入生と各パートで先輩1人が歌、それ以外が演奏になり
歌と合奏になる。
「戦う者の歌が聞こえるか? 鼓動があのドラムと響き合えば
新たに熱い命が始まる 明日が来た時 そうさ明日が
列に入れよ われらの味方に 砦の向うに憧れの世界
みな聞こえるか? ドラムの響きが 彼ら夢見た 明日が来るよ
ああ 明日は」
演奏終が終わると拍手が起こった。
「次に演奏させていただきます曲はMrsGreenAppleの「青と夏」 です。
青春を感じる爽快なナンバーです!
1年生も入って一緒に合奏します。
それでは、お楽しみください!」
内田先生の指揮に注目する。
振りはじめにブレスして吹き始める。
前奏が終わってAメロをがユーフォだ。
先輩と俺と新入部員がスタンド(立って)演奏だ。
他のパートもメロディになったところで立って吹く。
新入部員も何とかついて行ったりついて行けなかったり。
それでもいいんだ。
これから一緒の舞台に立って行くから。
フルコーラス演奏した。
内田先生が指揮台から降りて、礼をして端っこに移動する。
それに合わせて岩尾先輩が出ていく。
「最後にお届けするのは、皆さんご存じの『マツケンサンバ』です!
この曲で、盛り上げていきましょう!
それでは、演奏をお楽しみください!」
岩尾先輩が席に着き、内田先生がお辞儀をして、指揮台に上がって棒の振りはじめと同時に演奏が始まる。
この曲はスタンドどころか、ステップが入ってくる。
打楽器セクションに至っては、曲の最初から笑顔で叩きまくる踊りまくる。
新入部員はまだ演奏できていない子たちが多いので、
打楽器のところへ行って、手拍子で簡単なステップでダンスをする。
演奏終了し、拍手の中、岩尾先輩が前に出て話そうとした時、保護者席からアンコールの声と手拍子が始まった。
どうするんだろう。
段どりではここで、終わりの挨拶となったはずだ。
みんなで顔を見合わせる。
内田先生が岩尾先輩に何かを耳打ちすると、一瞬顔つきがこわばったが、はい、と返事をした。
内田先生は部員に向かって、こそっと「2年3年、UltraSoul準備!」
と言った。
部員は急いでファイルをめくる。
運動会用に練習していたとは言え、そんな披露できる完成度では…。
でもやるしかねえ。
部員がファイルをめくって、楽器を置いて落ち着いたのを見計らって岩尾先輩が話始めた。
「アンコールありがとうございます。
全く予想しておりませんでして、急遽用意いたしました。
B’zのUltraSoulです。
皆さん手拍子、掛け声など思いっきり楽しんでもらえたらと思います。」
内田先生が前に出てきてお辞儀をして、指揮棒を構える。
続けて、楽器を構える。
振りはじめに合わせてブレス。
途中のハイ!という掛け声は打楽器パートは全員ジャンプした。
管楽器の部員もトランペット、トロンボーンなど、片手で持てる楽器の人は手を挙げた。
盛り上がったところで、岩尾先輩は素早く前に出て行って
「本日のミニコンサートはこれにて終了です。
これからも吹奏楽部の活動を温かく見守っていただければ幸いです。
本日はありがとうございました!」
と言った。
そのあと、部員が全員立ち上がり、声を揃えて
「ありがとうござました!」
と言って礼をした。
拍手で包まれ、保護者が出て行った。
この後、保護者会だろう。
最後に出て行った保護者を見送った後、内田先生は保護者会へついて行った。
俺だけでなく、他の部員も一休みとなった。
15分休憩となった。
父さん、母さん、武はどう思ったのかな?