02.父さんと僕、大手町
(心視点)
「父さん、あの人何だったんだろう?」
「もう忘れたほうがいい。」
そこへ
「あーー!藤井部長!こちらでしたか!」
30代くらいの男性が駆け寄って来た。
Tシャツとジーンズ。
父さんと似たような恰好をしていた。
「申し訳ない、ちょっと変なのに捕まって。」
「変なの?ですか?」
「時代劇コスプレしている人がいてさ。
ガラスに頭ぶつけて鼻血出して、トイレ行って甲冑脱げなくてイラついてた。」
「ゴールデンウイークですからね。警備も手薄かもしれないですし。
ちょっと警察通報しておきましょうか?」
「まあ、大丈夫だよ。それより、息子の社会科見学に付き合わせてしまって申し訳ないね。」
「いえいえ、自分も出張前に依頼しておきたい郵便物があって秘書課に行くので、ついでになりますから、お気になさらず。
それより、ゴールデンウイークだから店休みで食べるところないですよ。
ウーバーとか頼みます?」
「ありがとう、忙しいところ申し訳ない。食事は何とかするから大丈夫だよ。
お願いしていたゲストキーをもらえるかな?」
こちらです、と父さんはその男の人からQRコードが書かれたカード型の紙を受け取った。
父さんからそれを受け取る。
「今日、帰るまでこのカードを持っているように。
出たら捨てていいから。
これで出ないと、色々後が面倒だから、大事にするようにな。」
と言われ、わかった、と答えた。
QRコードをかざすと、改札機のようにドアが開いた。
奥へ行くとエレベーターホールになっている。
平日は7万人が行きかうオフィス街、大手町。
GWだけど、部活があって、唯一あった一日休み。
遠出して、疲れたら明日からの部活に支障が出る。
課題もあるけど、1日ぐらいどこか行きたい、何かしたいと言ったら父さんが、会社来てみるか?と言ってくれた。
平日だったら、絶対無理だけど、GWだから出勤してる人は少ないし、
普段の父さんの仕事場を見れるいい機会だと思った。
それに、ここには平将門の首塚がある。
いろんな言い伝えを聞いて、一度見てみたいと思った。
今年こそ吹奏楽コンクールで全国行きたい。
俺1人が祈ったところで、というのはあるかもしれないけど。
父さんもここにお参りしていた。
大事な仕事がある時は必ず寄って、帰ってきたら報告していると言っていた。
会社に入って行くと、色んな会社の看板が見える。
ぐるぐると入り組んでいて、迷いそうだった。
父さんの会社は街づくりを手掛けているとのことだった。
パソコン上でイメージ図を作って見せるだけではいまいち伝わらないこともあるらしく、小さい模型を作って、見せたほうが、特に年配の方には好評で話が伝わりやすいとのことだった。
3Dプリンターとか、出来上がったものを手直しする様子を、2時間程度見て、帰ることにした。
父さんは
「小さい時にやった街をつくるゲームを仕事にしたかったんだ。
そしたらこういう街づくりにかかわる仕事になった。
街づくりって政治家とかの印象だけどさ、そうなると他の事もしなくちゃならないだろ?
そうじゃなくて、街づくりだけやりたかったんだ。」
と言った。
今、過疎化しているところをどうにかしようとしているらしい。
昔は農業をしていたところが高齢化で農業もできず、田んぼも畑も荒れ果て、家で老夫婦が暮らしているところがあるらしい。
自然を残し、お年寄りが安心して暮らせて、若者が魅力的に感じるところにしたら変わるだろう、きっと一つのモデルになると思うんだ、と話す父さんがかっこよくて、応援するし、自分も父さんみたいな仕事がしてみたい。