第6話 戦う 2020/12/15
僕は、20cmも大きい同級生に言い放つ。
なんか取返しのつかないこと言いそう。
「男ってのはなァ、惚れた女のために戦うもんだろ」
…もう、小学3年生のセリフじゃないッ。
「きゅ〜ん!」バタン!
「きゅきゅ〜ん!」バタン!
女子の声と、人が倒れる音。
えぇっ、後ろで何が起こってるの?
目の前では、クソガ…大塚君が、一瞬呆気に取られた顔をして、僕の後ろを見ていた。急に表情を険しくして、僕の襟元を握って締め上げた。
「弱虫のクセに格好付けやがって…、絶対許さない…」
えぇ…、絡んできたの自分じゃん。
許さないもなんも、僕が被害者じゃん…。
どうしよう、もう収拾がつかない。
大塚君が、襟元を握って僕をそのまま持ち上げる。僕の身体が爪先立ちになる。首が締まって、息が苦しい。
けど、僕は大塚君にぶら下げられながら、ニヤリと笑った。
「ありがとよ」
僕の両手が、大塚君の両肩をギュウと掴んだ。
「ちょっと、背が届かなくて困ってたんだ」
大塚君の肩においた手を強く引いて、彼の腹に膝蹴りを入れる。
「うぉッ」 大塚君が身体の腰が引けて、襟元を掴む力が弱まる。
「おい」 僕の声に、大塚君の顔が上向いて僕を見る。
僕は、大塚君の肩に掛けた手を強く引っ張って、彼の鼻の付け根に思いきり頭突きした。
ガツン!と、骨と骨がぶつかる鈍い音がした。
「ぎゃッ」 大塚君の目が見開いて、僕の襟元から手が離れる。
僕の身体が落下する。僕は肩に置いた手をもう1度引き寄せて、頭突きを鼻の付け根にかました。再び鈍い音がして、血の飛沫が教室の床に飛んだ。
「血だ、血が出てる!」 大塚君が鼻からダラダラと血を垂らしながら、僕から手を放して、よろよろと後ずさりする。大塚君は、手で顔を拭って、手に付いた血を見て、「ヒッ」と小さい悲鳴をあげる。
大塚君の後ろには、教室の前側に寄せられた机が並んでいる。
僕はダッシュして、彼の腹へ頭から突っ込んだ。
ガガガッ!と、机が倒れる音が教室に響く。
僕と大塚君が、机の群の中に、もつれ合うようにして突っ込んだ。
大塚君が仰向けに倒れこんで、うめくような悲鳴をあげた。
僕は、仰向けに倒れた大塚君の上を這いずるように移動して、彼の胸の上で座り込む。両足で彼の腕を固定した。右腕を振り上げる。
「これは、今まで夜にイチが泣いた分」 僕の右の拳が、大塚君の右頬を殴った。
大塚君は、もう泣きじゃくっていた。
僕は、もう辞めようと言おうしたけど、口が動かなかった。
「そして、これは今までの利子だ」 僕の右腕が振り上げられた。
そのとき、教室の扉が開いて、先生が飛び込んできた。
大塚君の右頬にゴツンと良い音がした。
「お前らッ、何やってる! ケンカはやめろ!」
そして、僕は急に目まいがして、横に倒れ込んだ。暗くなる視界の外から、副委員長の悲鳴と、別の女子の声が聞こえてきた。
「凄い。いいんちょ、魚雷みたいに、ズドーンと。魚雷。いいんちょ。
あぁ、魚雷×いいんちょ、すごい。尊い。新しい扉が開いていく」
僕は、さっさと意識を手放した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕は、目を覚ました。
目を覚まして正面に見えた天井は、知らない天井だった。
周りを見回すと、僕はベッドに寝かされていて、ベッドに周りを囲うように、白いカーテンが引かれていた。
異世界じゃない…。
異世界が良かった…。
そこは、保健室だった。
…じゃぁ、寝ている僕の膝の上に頭を乗せて、爆睡している女子は誰だ。
僕は、現実を受け入れるべく、僕の手の届く距離で寝ている女子を見た。
ベッド脇の椅子に座って、ベッドに俯せに寄りかかって寝息を立てていたのは、副委員長だった。
僕は、このまま副委員長を起こさないようにして、ここを逃げ出せないかと真剣に考えていた。
修正 2021/02/17
次回:土曜日21時に投稿予定