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フラット姉の話1

作者:
掲載日:2009/12/20

「おー受験生がんばっているかねー」

「……………」

「おーい。お姉ちゃんだよー。久しぶりのお姉ちゃんだよー。構ってよー。お土産はアイスだよー。ちょっと高い抹茶のやつだよー」

「うるせぇんだよ!邪魔すんな!」

「久しぶりなのに!弟君が怖い!何があったの!?お姉ちゃんになんでも話してみなさい!早く!手遅れになる前に!さぁ!」

「だー!邪魔すんなってのに!英単語が溢れる!俺の口を開けさせるな!って言うかいきなり帰ってくんな!連絡くらいしろバカ姉!」

「それじゃ驚いた顔が見れないでしょ!突然帰ってくるからおもしろいのよ!」

「ガキか!身体と同じで脳もちっちゃいのか!身体は子供で頭脳も子供か!」

「酷いっ!気にしてるのに!人の身体的特徴をあげつらうなんて最低だよ!お里が知れるよ!」

「お里はおめーと一緒だよ!去年はおめーも受験生だったんだろうが!邪魔すんなマジで!」

「お姉ちゃんにおめーって言うような育て方した覚えはないんだよ!ちょっと目を離しただけでそんなになっちゃうの!?再教育の必要があるんだよ!それに今からそんなにピリピリしてたら本番まで保たないよ!心に余裕を持たないと!いつだってオアシスは必要なんだよ!我が家にオアシスが帰って来たんだよ!」

「あー!もう!なんだってんだよ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!マジで邪魔すんなよ!志望校厳しいんだよ!夏が勝負なんだよ!今が全てなんだよ!邪魔すんなよ!邪魔なんだよ!とりあえず部屋から出てけ!」

「そんなに邪険にしないでよー…お姉ちゃんだよー。4ヶ月ぶりのお姉ちゃんだよー」

「…ただでさえ暑いのに。叫んだら余計に暑くなった気がするぜ…」

「…アイス食べる?」

「…うん」

第408次姉弟戦争の休戦協定はこうしてあっさりと結ばれたのだった。

セミの声がうるさい。クソ暑い。夏の日。姉が帰省してきた。





僕はね。アイスを食べながら。自分がこんなに勉強ができないかわかった。閃いた。

理由があったんだ。ちゃんと。


この姉に邪魔され過ぎ。


これだ。

これにつきる。


この開いた口からまた数式がこぼれ落ちる。

アイスに罪はないけれど。すごく甘くて嫌になるくらい暑い夏の日に優しい味だけど。

一番僕の脳が働こうとしているときに限って。どうしてだかは知らないが。

いつもこの姉がやってくるのだ。


小学校低学年。初めての漢字テスト。

この姉は何をしてくれた。

中学校1年。初めての中間テスト。

この姉は何をしでかしてくれた。


邪魔過ぎ。

14歳くらいから。視界に入らなくなるくらいちっこい姉なのに。


コンパクトならコンパクトらしさを全面に出して。

場所を取らないで据え置き型にしておいて欲しい。

主に僕の脳内領域に。


さすがにね。初めて0点を取ったとき。数学1と化学でダブル赤点を取ったとき。

「僕はバカだな」と。「どうしようもないな」とは思ってた。


でもさ。そもそも。全部姉さんに時間取られたせいじゃない。

できれば。自分の時間は自分のためだけに使いたかった。


そしたら。もっと。いい高校に入って。

家から一番近い。偏差値の一番高い高校に行けたんじゃないかなって。

中途半端な偏差値の私立男子校に通っていなかったんじゃないかなって。


だけど。ちっこいままだけど。全く姉としての威厳なんて身長を追い抜いたときから持ち合わせていないままだけど。

大人になった姉さんがいる。今のそんな当たり前の時間さえ。

奇跡みたいに優しい時間なんだって。



今の姉さんを見ると忘れそうになるけど。

アイスを幸せそうな顔で食べてる姉さんには全然見えないけど。

いつだって姉さんの横には死があった。

本当にすぐ横に。


小学校低学年。初めての漢字テスト。

この日姉が初めて倒れた。

中学校1年。初めての中間テスト。

この日また姉が倒れた。三日意識が戻らなかった。



家と学校と病院とを往復するだけの日々。

次に姉が家に帰って来たのは雪の積もった季節で。

今日のようにセミのうるさい季節に。

また白い部屋に戻っていった姉。


家と学校と病院を往復するだけの日々。

学校で姉を見ることはなくなって。

時々触れる姉の手は。いつも異常に熱くて。

そこまで思い出してたところで。


でもアレ?ってなった。


姉はほとんど学校に通っていない。

テストだってほとんど受けていないはず。

内申点なんてほとんどないんじゃないかな。


それなのに。


姉の今通っている大学は。僕の志望校よりも2ランク程上で。

つまり。バカなのは僕だけで。


アレ?ってなった。


大丈夫かと。

僕は大丈夫なのかと。


姉のせいにしてる場合じゃなかった。

現実逃避してる場合じゃなかった。

休戦協定とか結んでる場合じゃなかった。


使えるものはなんでも使う。それが正統。戦場の常識だ。

生き残れ僕。恥をさらすなんてことは恥ずかしいことなんかじゃない。


「姉さん。勉強を教えて下さい」

頭を低く。低く。もっと低く。もっともっと低く。イッツジャパニーズ土下座スタイル。

プライド?そんなものは豚にでも食わせてしまえ。ぶひぶひ。


そんな僕のスカスカで悲しくなる頭は。ちっこい姉にキレイに踏まれた。

「支配者のポーズ」

いつか殺す。僕がこの手で。確実に。

このフラット仕様のバカ姉め。


まぁとりあえずは。おかえり姉さん。

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