6 危機は突然に
宴が終わり、集落は落ち着きを取り戻した……らよかったのに。
残念ながら“ダルク”がここに滞在している間は、皆が浮足たってしまうようだ。
一刻も早く、あの少し閑散とした集落が戻ってこないかと願っている。
そんな日々の中で、危機は突然に訪れた。
「お前がこの家の主か」
「………はい」
家に、狩人が来ました。
終わりました、詰みました。
担いでる武器大きいし、怖すぎて笑える。
集落が歓迎している狩人を家から締め出すこともできず、私はマイスイートハウスに天敵を入れることになってしまった。
しかし、今リビングで机を挟んで座っているけど圧がすごい。
いっそ気絶した方が楽かもしれない。
「その……、ご用件は……?」
朝っぱらから冷や冷やさせられているこちらの身にもなって欲しい。
レオンが来てなくてよかった。
あのドラゴンは、来る時間がランダムなのだ。
「付近で大型のモンスターを見なかったか」
「大型……?」
フードを被った狩人は訳の分からないことを言ってきた。
しかし、この言葉から鑑みるにモンスターにも等級があるようだ。
多分、大型は等級的に一番上のモンスターのことだろう。
「いえ、見てません」
嘘をつくときは堂々と。
ビクビクするから怪しまれるのだ。
ああ、やばい。手から変な汗が出てきた。
「……そうか」
「はい」
「「…………」」
(え?気まずっ)
最初の質問をしたきり、狩人は黙ってしまった。
こちらとしては、用件が済んだのなら早く帰ってほしいと思っている。
ほんと、切実に一刻も早く帰ってほしい。
そう心の中で悪態をついていたからだろう。
狩人がとんでもないことを言った。
「この家の付近で大型の足跡が残っていた」
(バレてるーーー!!!!)
「それもごく最近にできたものだ」
(時期までわかるの?!)
「どうやらそこの窓の近くまで来ていたようだ」
(そこまでわかるんだ!!流石は狩人!!!)
狩人がこの家に来た時点で、私の命運は尽きていたらしい。
もうレオンの存在を隠す小細工はできない。
焦りに焦っていると、狩人が淡々と言ってきた。
「ここに罠をはる」
「………え?」
(不味い不味い不味い!レオンに知らせないと……!どこで落ち合おう?いや、そもそも連絡手段がなかった!)
心の中でわちゃわちゃしていると、狩人が今まで被っていたフードを脱いだ。
それどころではない私は、そのことに意識を集中することができなかった。
「この家には近づくな」
もしあの時、彼の顔を精神が平常状態で見ていたら、きっと拝んでいただろう。
短い灰色の髪は無造作に流され、整った顔立ちと相まって野性的な美しさを感じさせる。後であの顔を見た時、神の不平等さを呪いまくった。
「それでこちらにいらしたんですね」
気遣うような視線を向けるポールに、心が少し慰められる。
まあ、ほんの少しだけだが。
「ふぉふぉふぉ」
「長老、笑わないでください!」
少し癒された心が、長老のせいで一気に急降下した。
現在、長老の屋敷で臨時の住処を手配してもらっている。
本日、あの狩人に強制退去をさせられ、絶賛家探し中なのだ。
なんてことだと思ったが、どうやら大型のモンスターはそれほど危険らしく調査するのも慎重にならなければならないのだそうだ。
(そのモンスターと知り合いのこちらとしては、大事にしてほしくないんだけどな……)
「しかし、足跡があったとなればそやつは近くにおる可能性が高いのう」
(毎日、一緒に泉で遊んでたもんなぁ)
「ええ、種族までは把握できなかったそうですが、危険なことに変わりはありません」
(いやあ、食料も調達してくれるいいドラゴンなんだよなぁ)
双方の認識はだいぶ違ったが、臨時の住まいを見つけなければならないという事実は変わらない。長老とポールが話し合った末、集落の少し端の方にあった空き家で暫く過ごすことになった。
これで一息つけると安心していた矢先だった。
「………」
「………」
大人しく過ごしていた空き家に、例の狩人がやってきた。
おかしい、この家の付近ではレオンと会っていないはずなのに。
会うとしても、森のできるだけ奥のほうで会っているのに……!
「どうされました……?」
一向に口を開かない狩人に焦れて、恐々と用件を聞く。
今日もフードを被っているため、表情がわからないことがさらに恐怖を増長させる。
暫く黙っていた狩人は、重い口をやっと開いて言った。
「痕跡が消えた」
「そ、そうですか!」
そりゃあそうだと心の中で頷く。
なにせ森でレオンと作戦会議を行い、レオンがここを離れたと思われるように仕向けているんだから。
(レオンはこれから痕跡を遠くに残して、離れたように見せかけないといけない)
そのために、この狩人には集落の外でその痕跡を発見してもらわなければならないのだ。
「もしかすると、遠くに行ったのかもしれませんね!」
「………」
少し強引すぎる誘導だったかと、肝を冷やす。
口を閉ざしている狩人からそっと視線を逸らす。
この人が何を考えているのか、まったくわからない。
「………」
そして、無言のまま彼は去っていった。
こちらの言葉がどう解釈されたのかは、まったくわからない。
「………こわすぎ」
思わず本音を漏らしながら、まだまだ片付いていない家に向かい合った。




