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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第1章 ドラゴンと人
5/48

5 宴


 “ダルク”のための宴準備は着々と進んだ。

 正直、レオンを狩るかもしれない狩人たちの宴なんて関わりたくなかったが、仕方ない。恨むべくは、あのタヌキのように抜け目ない長老だ。


 この貸しは、しっかりと覚えておいてもらおう。


「イアさん!こちらの飾り付けを手伝ってください!」


「あ、はーい!」


 名前を呼ばれ、そちらに意識を向ける。

 しかし、呼ばれ慣れない名だ。


(まあ、焦って言った名前だから……)


 今までドラゴンと過ごしていたから、名前が必要なかったのだ。

 長老に名前を聞かれた時、その事実にけっこう衝撃を受けた。

 それで、焦って答えた名前が「イア」だ。


「イエア、とか訳の分からんこと口走らなくてよかった……」


 もし名前が「イエア」になってたら、私は呼ばれる度に笑いしんでいただろう。

 それか、呼ばれる度にラップでビートを刻んでいたかもしれない。


「イアさん?」


「すぐやります!」


 長老のお付きの人に心配そうに声を掛けられる。

 彼は「ポール」という名前で、長老の孫らしい。

 一緒に準備をしているうちに知ったことだ。


「すみません、ここの準備を手伝わせてしまって」


「いえ、大丈夫ですよ」


 申し訳なさそうなポールさんに、憐みの目を向ける。

 周囲には私とポールさん以外いなかった。


「ここは“ダルク”の方々が来ない場所なので、人手が集まらず……」


「それ以上は言わなくても大丈夫です」


 可哀想なことに、人が集まらなかった場所にポールさんは応援として派遣されたのだ。

 長老の孫でお坊ちゃんなはずなのに、こんな良いように扱われるなんて……。


「ポールさんは大変ですね……」


「イアさんもですよ」


 彼に憐みの視線を向けられたが、正直今の状況がラッキーだと思っている。

 “ダルク”との関わりがないのなら、どこに行かされても構わないから。

 でも、それを正直に言うことはできないため、曖昧に笑っておいた。



























 宴会場の近くにある家の厨房にて。


「お疲れ様です。いよいよ今日が宴会ですね」


「そうですね……」


 張り切っているポールさんには申し訳ないが、私のコンディションは最悪だ。

 なぜなら、昨日夜更かししたからだ。

 レオンが夜になっても私と遊びたがり、その結果寝るのがとても遅くなった。


「イアさん、大丈夫ですか」


「大丈夫です……」


 そう答えるしかないのだ。

 今日の宴の料理は、私たち二人にかかっているのだから。

 私がダウンしたら、ポールさん一人で料理を作らなければならなくなる。


「今日は料理の仕上げをお願いします」


「はい」


 今日は集落の飾り付けではなく、料理の飾り付けが仕事だ。

 料理自体はポールさんが作ってくれるから、負担は私の方が軽いけど。



 カーンッ カーンッ カーンッ


 ワアアァァァーーーー



 外から鐘の音が聞こえてきたと同時に、凄まじい歓声が聞こえてきた。

 まだ夕方になっていないが、どうやらもう宴を始めるようだ。


「予定より早いですね。……あのタヌキ爺」


「ポールさん!本音、本音が!」


「おっと、失礼」


 長老の合図で始まる宴のため、この宴が始まった要因が長老であることは明白だ。

 長老は、人々の圧に負けて宴を始めざるをえなかったのかもしれない。


「ほら、今のうちに追加の料理も先に作っておきましょう!」


「そうですね」


 いそいそとエプロンを身につけ、私たちはそれぞれの作業にはいった。












 夜も更けてきた頃。


「お疲れ様でした」


「終わった……んですか?」


 満身創痍の私とは正反対のポールさん。

 一緒に鬼のように料理を作っていたとは思えないすまし顔だ。


「宴はまだ続きますが、料理はもう大丈夫です」


「そうですか」


「あとはお酒で間に合っていますよ」


「なるほど……」


 厨房の窓から外を覗いてみると、お酒を掲げて楽し気にしている人たちが目に入る。


「イアさんも行きませんか?」


「いえ、私はもう帰ります」


 ドアに手をかけていたポールさんが、宴に誘ってくれる。

 しかし、家に留守番中のドラゴンがいるため早急に帰らなければならない。

 というか、狩人と会いたくない。


「宴、楽しんできてください」


 物言いたげなポールさんを厨房から押し出す。

 そして、私は荷物をまとめて急いで裏口を出た。















 豪奢な布に、煌びやかな飾りで彩られた宴会場。

 そこでは熱心に狩人たちへ酒を注ぐ人々で溢れかえっていた。


 この集落の長老はその様子にご満悦だった。


「盛況じゃのう、ほっほっほっ」


「裏方の人手は閑散としていましたけどね」


「おや、来たのか」


 ご機嫌な長老のもとに、孫であるポールがやってきた。

 ジトッとした視線を向けてくる孫に、祖父は少し居心地が悪くなる。


「まあまあ、お前さんとイアでこなしていたじゃないか」


「死に物狂いでね」


「………悪かった」


 孫の真顔に堪えきれず、シュンとする長老。

 そんな長老を見て、ポールはため息をついた。


「まあ、仕方ないありません。あなたが声をかけても誰も集まらなかったことは知っていますから」


「そうじゃそうじゃ!」


「まあ、裏を返せば、あなたにそれほどの人望がなかったとも言えます」


「ひどいのう」


 辛辣な孫に、長老はオイオイとウソ泣きをする。

 その様子を冷めた目で見ていると、誰かがこちらにやってくるのが見えた。


 ポールは一瞬、イアが来たのかもしれないと心が躍ったがすぐに平静に戻った。

 外套を着ているようだが、遠目からでも体格の良さがわかる。

 それに、背にある武器が決定的だ。

 あれはイアではない。


 ザッ

 

「狩人殿、どうされましたか」


 目の前に来た狩人に、長老が声をかける。

 先程までウソ泣きをしていたタヌキ爺とは思えない切り替えの早さだ。


 フードを深く被った狩人は押し黙っている。

 目の前の狩人が、こちらを観察しているように感じた。


「……お前がここの長老か」


「ええ、そうですな」


 フードの奥からでもわかる。

 この狩人の視線は刃のように鋭利だ。

 こちらの身が視線だけで切り刻まれているような錯覚になる。


「付近で大型のモンスターを見た者はいないか」


「大型……。ここいらでは小型が主で、出て中型くらいのモンスターしか見かけませんのう」


 長老の言葉に、狩人は深く考え込んでいる。

 ただ者ではない雰囲気と、宴の場ですらもモンスターの情報を集めている狩人。


「もしやあなたは“赤い狩人”ユラン殿ですか?」


「……だったらなんだ」


 場に緊張が走る。

 噂通り、“赤い狩人”ユランは人嫌いらしい。


「いえ、もしやと思っただけです。他意はありません」


「大型の情報が入れば、俺に伝えろ」


 ユランはそう言い捨てて、この場を去った。

 やはり、上位の狩人はどこか通常の人とは違う雰囲気がある。


「長老、僕は帰ります」


「おお、ゆっくり休むといい」


 宴はまだ続いている。

 帰り際に、ユランを探してみたがどこにも姿がなかった。


 モンスターにしか興味を示さず、狂ったようにモンスターを狩っているというのは誇張ではなかったのかもしれない。彼には気を付けた方が良さそうだ。


「それよりも、イアさんはどうしているだろうか」

 

 宴準備の苦楽を共にした仲間である彼女を案じながら、ポールは家に向かって歩いた。














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