48 覚めた夢の先で
「睡霞の乙女!睡霞の乙女だ!」
(…………?)
視界が真っ白になっている。
しかし、周囲から人の気配がする。
騒めく周囲を感じ取り、何かが起こっていることは把握する。
(何、なんの乙女って言った……?)
次第に目が慣れてくる。
白日に照らされた砂金、その上に人々が立っていた。
白い花を抱えた彼らは、その花をこちらの方に差し出してくる。
(??)
混乱しながら、周囲を見渡すと、後ろに地竜の狭間があることに気づいた。
(うわ危なっ)
思わず体を前へ進める。
その拍子に、白い布が砂をさらった。
自分の姿を見てみると、見知らぬ白い衣装をまとっていた。
(……服、こんなんだったっけ?)
バサッ
(!?)
目の前に大きな白い花束が落ちてきた。
それと同時にできた目の前の影に、ゆっくりと目を向ける。
「…………」
(ユ、ユランさんだ……)
今までの夢には一切出てこなかったはずの人。
白い砂漠の衣装をまとった彼は、なんだか雰囲気が鋭い感じがする。
永い間、彼の顔を見なかったからだろう。
以前がどうだったか、よくわからない。
ザッ ザッ ザッ
(?)
彼がこちらに向かって歩いてくる。
視線を真っ直ぐこちらに向けている。
(おかしい、夢では私を意識されることはなかったはずなのに……)
よく観察してみると、周囲の観衆も私を認識している。
これは明らかに、夢に異変が起きている。
(もしかして、迎えってあの世からのってことかな)
最期くらい、いい夢を見せてやろうという神からの采配なのかもしれない。
懐かしい顔を見れたことに満足し、そっと目を閉じた。
このまま逝くのも、悪くないと思えた。
すると突然、体が宙に浮いた。
(え?!)
「…………」
私を抱き上げた人物に、驚愕の視線を送る。
そして、彼が泣いていることに気づいた。
ハラハラと流す涙は透明で、とても―――綺麗だった。
(きっとこれは、私の願望なんだろう)
悲しんでほしいと望んだから、夢の彼は泣いてくれた。
涙が妙にリアルで、胸が苦しくなる。
思わず、彼の頬に伝った涙を手で拭う。
「…………っ」
息を詰めた彼は、目に焼き付けるように私を見てくる。
そして、ガッと私の顔を抱き寄せた。
(!?)
「「「キャアアアーーー!!!」」」
黄色い悲鳴を聞きながら、口にあたる柔らかい感触を意識する。
見開いた目には、ユランの顔でいっぱいだ。
あっ、まつ毛なが。
やっとはなれた口は、妙に湿気ていた。
「…………ぇっ?」
自分の口から言葉が出る。
だがら、わかってしまった。
これが、夢ではないことを。
「…………二度と、もう二度と逃がさない」
泣きながら彼から放たれた言葉に、頭が混乱する。
弱った顔から放たれる言葉にしては、あまりに凶悪な色を含んでいたから。
「……あー、その、ユランさん?」
「逃げたら“狩る”」
「いや、そうじゃなくてね!?」
彼の目からとめどなく流れる涙を拭ってあげながら、私は笑った。
「その、ただいま?」
「!!」
「「「キャアアアーーー!!!」」」
塞がれた口では、もう言葉を紡ぐことはできなかった。
睡霞の乙女はとうとう見つかった。
祭りが始まって、3年目のことだった。
狭間から砂塵と共に現れた彼女を、人々は睡霞の乙女だと信じた。
また、その超自然的な現象だけが信じた根拠ではなかった。
例の狩人の溺愛具合から、信じざるを得なかった。
女性たちは、黄色い悲鳴と悲痛な悲鳴の両方をあげることになった。
「いや、睡霞の乙女ってなんですか」
騒動が落ち着き、私はスタールの宮殿にお邪魔していた。
「おい、離れるな」
「いやいや、十分近いと思いますけど!?」
ひっつき虫になったユランを宥め、窓の外を眺める。
後ろから抱き着いている彼は、一旦ほおっておくことにする。
「…………睡霞の乙女は、眠ったお前を探すための口実だ」
賑わう人々を眺めていると、ユランが口を開いた。
耳元にあたる息がくすぐったいが、我慢して耳を傾ける。
「地竜のもとへ行ったお前に会うため、地竜のための祭りをつくった」
(地竜のもとへ行ったのを、知ってたんだ)
きっと、腰にある竜の紋章を手掛かりにしたんだろう。
こんなに少ない手掛かりで、よくそこまで辿り着いたな……。
「地竜からの返事はいつもなかった………今日を除いて」
すり寄ってきた頭が頬にあたってくすぐったい。
ふと、この感覚に既視感を覚える。
「…………あれ?」
外を見ていると、遠くから猛スピードで向かってくる物体を発見した。
白いその物体は真っ直ぐこちらに向かっている。
「て、敵襲!?」
「…………」
目前まで迫ったそれを、私はよく知っていた。
「れ、レオン!?」
『ギュギャアーーッ!!』
聞いたこともない鳴き声を発しながら、ドラゴンがこちらへ突っ込んでくる。
このままでは、私の顔が大破する。
「くっ」
しかし、心配をかけた身としては甘んじて受け入れなければならない。
この顔面大破は、贖罪として受け入れよう。
ガシッ
『ギュエッ!』
「…………?」
カエルをひいたような声がした後、予想していた衝撃がくることはなかった。
そっと目を開けてみると、ユランがドラゴンの体を片手で握っている。
互いが互いを凄まじい顔で睨んでいる。
「れ、レオン!」
『クーーーッ!!』
ユランの手から抜け出したドラゴンは、全力で頬擦りしてきた。
「ごめんっ、ごめんね!」
『クルルルーー!』
謝りながら気づいた。
私はまだ、謝れきれていない。
「ユランさん!」
「どうした」
柔らかい返事に、私はさらに声を潤ませる。
「ほんとにごめんなさい!心配かけてっごめんなさいぃ~」
ドラゴンを右手に、ユランを左手に抱きしめる。
言いたいことはたくさんあったのに、出てきたのはこれだけだった。
これから様々な人に叱られるのだが、それは割愛しておく。
叱られる時に毎回ユランが相手へ威嚇したのも、ご愛嬌だと思うことにした。
以前より明らかに愛情表現をしてくるようになったユランに、どういう心境の変化があったのかはわからない。
ただわかるのは、私が逃げたら彼は絶対に私を“狩る”ということだ。
病んでる具合が進行してしまったことは否めない。
それでも、彼なりに意思表示してくれているのもわかる。
だから、私は彼と向き合うことにした。
「ユランさん……」
「どうした、これは気に入らないか」
女性の衣装が描かれた紙を、彼は地面へ落とした。
周囲にいる店員たちが、ニコニコとこちらの様子を見ている。
「どうして結婚するのが前提なんですか!?」
「?しないのか?」
「しませんよ?!」
突然連れ去られた先で、まさかウェディングドレスを選ばされるとは思わなかった。
展開が急すぎて、私は胃が縮む。
彼の中で何がどうなっているのか知りたいが、知りたくない。
「わかった、なら家を探すか」
「なんでそうなる?!」
彼の中で、私は一緒になることが決定しているらしい。
もう、こんな状況にだんだん慣れてきたような気がする。
「お願いですから、一旦話し合いましょう!!」
次のお話は、イアとユランがもだもだすることになる。
果たして二人は、どう落ち着くのか。
彼女の中で芽生えているそれが上手く育つか。
はたまた枯れるのかは、二人次第。
次回は、二人の日常的な話ができたらいいなと思っています。




