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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第3章 南の地
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46 代償は




「ユラン殿を救う手立てが見つかった!?」


「はい」


 勢いあまって立ち上がったスタールに、私は静かに頷く。

 声には出ていないが、執務室にいる他の人たちも衝撃を受けている。


 地竜の狭間から帰ってきた翌日。

 私は宮殿の人たちにユランを救う方法を見つけたとだけ報告した。

 詳細は伝えていないし、今後も伝えるつもりはない。


「だから、暫くは私に任せてもらえませんか」


 難しい顔をするスタールに、私は深々と頭を下げる。


「…………分かった、だが無理はするな」


「はい」


 こちらを信じている目を見て、胸が少し苦しくなった。


 これからこの目を裏切るのかと思うと、どうしても真っ直ぐに見返せなかった。




















 砂壁でできた壁に囲まれた路地裏に、ひっそりと佇む薬屋。

 入口にかけられた布の先には、二人の人間が向かい合っていた。


「お客さん、これは―――」


「お願いします」


「ふむ…………」


 外套で全身を隠した客は、店主に何かを差しだしている。

 店主はそれを悩まし気に見ていた。


「この薬が何なのかわかっているのかい?」


 黒い丸薬が入った小瓶。

 店の奥にしかないはずの薬を、なぜか客が持ってきたのだ。

 店主は混乱しつつも、客に購入の意思を確かめる。


「“安らぎの息吹”」


「!」


 一般には知られていない名に、店主は驚愕する。

 この薬の本当の名を知る者がまだこの世にいたのか、と。


「…………アンタ、その名をどこで?」


「これを売ってくれるなら、いくらでも」


 頑なに薬を要求してくる客に、店主はとうとう屈した。


「お代はいらないが、その名をどこで知ったのかは答えていってくれ」


 外套の中に小瓶をしまった客は入口へと向かう。


「おい!アンタ―――」


「地竜」


「は?」


「竜から教わりました」


 その客が振り返った拍子にフードの中が見える。

 漆黒の髪に黒曜石のような瞳の平凡そうな女。

 しかし、危うげな表情を浮かべた彼女に店主は視線がはなせなかった。































「ユラン様が目を覚まされました!」


 素晴らしい吉報に、宮殿中は大騒ぎだった。


 私はその様子を、部屋から眺めていた。

 ぼんやりする頭のまま、照り返す太陽が目に入る。


 じりじりと焼かれる感覚をどこか遠くで感じる。


 バサッ


 突然、部屋の入口にかけてある布がはためく。

 しかし、私はそのことに気づけなかった。


「イア!」


「…………ん?」


 振り返ると、いつの間にかスタールが部屋にいた。

 いつの間に入って来たのだろうか。


 はしゃいだ様子の彼に、私は思わず頬を緩めた。

 自分のしたことは正しかったのだと思えたから。


「ユラン殿が目覚めたんだ!彼のもとへ共に行こう!」


「…………ん?なんですか?」


「ユラン殿が意識を取り戻したんだ!」


「ああ、本当によかったです」


「…………?」


 スタールは違和感を覚えた。

 いつもの彼女らしくない。

 なんだか………反応が鈍いのだ。


「ほら、ユランさんの所に行きましょう」


「あ、ああ」


 イアは颯爽と歩きだす。

 違和感は解消されないまま、スタールはその背を追った。
















 ザワザワ 


 医務室に着くと、そこは人で溢れていた。

 特に多かったのが、兵士たちの姿だった。

 おそらく、ユランと共に討伐へ行った人たちなのだろう。


「行かないのか?」


 医務室の前で立ち止まった私を、スタールが見てくる。

 その視線から逃れるように、私は前を向いた。


「いや、行きましょう」



 スタールの存在に気づいた人だかりが、一斉に端へはけていく。

 できた道を歩き、たどり着いたドアを開く。


 その先にいたのは、ベッドから起き上がっているユランだった。


「気分はどうですか、ユランさん」


「…………ああ」  


 窓から入ってきた風が、白銀の髪を揺らす。

 光で煌めく彼の瞳は、きっと綺麗だろう。

 私には、もう―――見えないけれど。


「………体調が悪いのか」


「…………え?どうしてですか?」


 まさか病人に心配されるとは思わず、私は面食らう。 

 表情は普通にしてるはずなのに、どうしてユランはそう思ったのだろう。


「そうだな、我もさっきからそう思っていた」


 隣にいたスタールからも心配され、とうとう誤魔化せない段階まできたことを密かに悟る。


「う~ん、そこまで言うなら先に休ませてもらいますね」


 渋々といった体で、違和感なくユランの病室を後にする。

 去り際に強い視線を感じたが、果たしてどちらからの視線だったのか……。







 部屋に着いた私は、静かな空間を暫く眺めた。


 長いようで短かった時間を、この部屋で過ごした。

 この部屋をよく飛び回っていたドラゴンは、ここにはいない。


 そして、あのドラゴンがここに帰ってくる頃には、私もここにはいない。


「レオン、怒るかなぁ」


 伝書鳩の真似事をさせた上にそれを頼んだ本人が失踪してたら、まあ怒るか。


「体をもとに戻せなかったことだけは、本当に申し訳ないな……」


 手のひらサイズになったままのドラゴンに、謝罪の念を送る。

 出来れば共に旅をする中で、もとに戻る方法を見つけ出したかった。


「ほんとにごめん」


 ひときわ強い風が吹く。

 砂塵が混ざったそれは、誰もいない部屋を撫でていった。






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