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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第3章 南の地
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44 波乱の帰還



 混沌とした宮殿に光がさしたのは、グルービーワーム討伐隊が帰還した日だった。

 グルービーワームの解説をしておくと、馬鹿でかいミミズなモンスターだ。


「く、来るんじゃない!」


「イア様!お待ちを!」

「イア様!」


 今日もいつものように追いかけっこをしている時、ある兵士が慌てた様子でこちらに走ってきたのだ。


「た、大変です!」


 一時休戦した私たちが彼から聞いたのは、ユランたちの帰還だった。






「……いた!」


 宮殿の門へと向かうと、そこには砂にまみれた討伐隊がいた。


 その先頭にいたのが、服が赤黒くなったユランだった。

 

「ユランさん!」


「…………」


 ラクダから降りた彼は、無言のままこちらに歩いてくる。

 妙な胸騒ぎはしつつ、私も彼のもとへと走る。


 砂埃にまみれているが、顔の良さは低下していない。

 むしろ乱れた髪がアンニュイさを醸し出している。


「ユラ―――あっ」


 一刻も早く例の話をしなければと焦っていたからだろう。

 彼が疲れていることを予想できていなかった。


 酷く暗い色をした彼の目を見て、自分のことしか考えていなかったことに気づく。


「…………早く部屋で休みましょう」


「…………」


「ユランさん?」


 一言も話さない彼に違和感を覚え、顔を覗き込む。

 その時だった。


 ドサッ


「うわ!?」


 倒れ込んできた体と共に、地面へ背中から倒れる。

 ついたお尻がとても痛い。


 しかし、なによりも大変なことがある。


「早くお医者さんを!」


 焦った私はざわつく人々に向かって叫ぶ。

 

 この後、ユランは宮殿の医務室へと運ばれた。

 そして医者の診断は、―――「原因不明の毒によるもの」だった。


















 医務室は白い壁に囲われ、清廉な雰囲気をしている。

 私は部屋の奥にある扉に手をかけた。


 ガチャ


 真っ白なベッドが目に入る。

 そこに眠る男性は瞳を固く閉じている。


「………ユランさん」


 狩りから帰還した彼が倒れてから、3日がたつ。

 ガダーン中の医者を集め、多くの人が彼の容態を診た。


 しかし、誰一人として彼が倒れた原因を究明することはできなかった。


「…………」


『クルル』


「レオン」


 ポケットから這い出てきたドラゴンが肩に乗る。

 頬擦りしてくるドラゴンに、強張っていた顔から力が抜けた。


「そうだね、出来ることをしないと」


 医者に匙を投げられた彼のもとに来たのは、あることをするためだった。


「手、勝手に握りますよ」


 ベッドの傍で跪き、反応のないユランの手を握る。

 目を閉じ、深く息を吸い込んで吐いた。

 そして、意識を自分の体から彼の体へうつしていく。


「…………駄目かぁ」


 何も探れず、私は肩を落とす。

 肩に乗ったままだったドラゴンが、頬を舐めてくる。

 優しい慰めに、力なく笑いが零れた。


 数度目の診断で「原因不明の毒」という言葉を聞いた時、私は真っ先に「竜禍」を疑った。


 すぐに竜禍の状態を探ったが、結果は今と同じだった。

 何も―――竜禍には何も、問題がなかったのだ。


「一体なにが…………」


 落としていた視線を、眠る彼に向ける。

 静かに眠る彼は、今にも起きてきそうだ。

 そうだ、きっと彼は疲れて寝ているだけかもしれないじゃないか。


 期待を込めて安らかな横顔を見つめる。


 しかし、その目が開かれることはなかった。



 コンコン


「あ、はい」


「失礼します」


 ノックと共に入ってきたのは、服をもった医務室の人だった。


「これからユラン様のお着替えをさせていただきたいのですが」


「あ、いつもありがとうございます」


 彼はいつもユランを着替えさせてくれる人だ。

 一切汗をかいていないが、いつも献身的に服を着替えさせてくれる。

 この宮殿の人たちの優しさには、本当に頭が下がる。


「では、失礼しますね」


「…………あの!」


 服をベッドの上に置いた彼に、思わず声をかける。

 不思議そうな顔をした彼に、私は引き下がれない思いのまま言葉を紡ぐ。


「その着替え、私にさせてもらえませんか」














「えっと、ここに腕を通して…………」


 下は彼に任せ、私は上の着替えをさせている真っ最中だ。

 ユランの着替え(下)を終わらせた医務室の人は、すでに退室している。


 私は一人で四苦八苦しながらユランを着替えさせている。


 意識のない人がここまで重いとは知らなかった。

 袖に腕を通させるのも一苦労だ。


「…………ん?」


 ふと、ユランの左腰に目がいく。

 なるべく肌を見ないようにしていたが、どうしてもそこに目が釘付けになった。


「私と同じ紋章………?」


 ユランの左腰にあったのは、竜が象られた紋章だった。

 

 急いで自分の服をめくる。

 自分の左腰を確認すると、全く同じ紋章が目に入った。


「な、なんで…………?」


 衝撃の事実に狼狽えていると、ベッドの下に隠れていたドラゴンが這い出てきた。


『クル』


「レ、レオン………」


 呑みこめない状況に、私は頭が真っ白になる。


 そして、嫌な想像をしてしまった。

 ユランのこの状態は私のせいかもしれない、と。


 無意識に彼の紋章へ手が伸びる。


「…………っ」


「ユランさん!?」


 紋章に触れた瞬間、ユランの眉間に皺が寄った。

 急いで声をかけるが、彼はまた眠ってしまった。


「間違いない………」


 動揺する頭とは正反対に、私はテキパキと彼を着替えさせた。

 そして、心配そうなレオンをポケットへ入れる。


「…………もう少しだけ、待っててください」


 手にかけたドアノブが異様に重い。

 最悪な想像をしたまま、私は彼が眠る部屋を後にした。




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