41 恋のゲーム(?)
「スタール様からです」
「こちらもスタール様から」
「こちらの宝石も」
「そ、そこに置いといてください」
地竜の禊の日から、怒涛の詫びラッシュが始まった。
犯人扱いしたことを詫びているのか、人前で服を破ったことを詫びているのか……。
どちらか分からないが、すごく困る。
「もう十分だって伝えてもらえますか?」
「かしこまりました」
使いの人は了承してくれたが、この伝言を頼むのはこれで十回目だ。
そろそろ、本当に伝わっているのか疑わしくなってきた。
「これはなんだ」
「あ、ユランさん!」
使いの人と入れ違いで入って来たユランは、眉間に皺を寄せていた。
充満する花の匂いが、彼にはきついのだろうか。
「ああ、これはスタール様からの詫びの品です」
「詫び?」
「まあ、色々あったので………」
この時、贈り物を端によけていた私は気づかなかった。
ユランが、酷く暗い目でこちらを見ていたことを―――。
ユランが長から呼び出され、宮殿でのんびりと過ごしていた日。
詫びの品で溢れかえる部屋から出て、庭園にある水場に来ていた。
いつもなら人がいるはずだが、その日は誰もいなかった。
これはしめたと思った私は、そこでこっそりと水遊びを始めた。
プールのように水が溜められている場所に、私は足をひたしてみた。
ひんやりとした感覚に、真昼のだるさがとけていく。
「極楽極楽~」
パシャパシャと遊んでいると、ふと部屋にいるレオンを思い出した。
確か、トカゲは変温動物だったはず。
ドラゴンも似たようなもんだろうし、環境の急激な変化に参っているだろう。
私と同じように暑さにやられている(かもしれない)レオンも、ここに呼ぶべきでは?
ここなら水遊びができて、涼むこともできる。
「よし」
濡れたワンピースの裾をたくし上げ、部屋へ向かおうと振り返った時。
スタールがこちらをガン見していた。
宮殿の柱に手をついている彼の顔は、少し赤い気がした。
もしかして、彼も熱中症にやられたのか。
「………スタール様?」
「…………」
近くまで寄って名を呼ぶが、ボーッとしたまま動かない。
これは本当に熱中症の可能性がある。
「ちょっと、こっちに来て下さい!」
「…………」
虚ろな目でこちらを見つめるスタール。
彼の腕を無理やり引っ張って、水場へ連れて行く。
「はい、足をつけてください」
されるがままのスタールの足を、先程まで遊んでいた水場につけさせる。
なるべく日陰を選んだが、もうすぐ正午だ。
この日影もなくなってしまうだろう。
「ここで大人しくしててくださいね」
焦点は合わないのに、ずっとこちらを見てくる目が怖すぎる。
早く宮殿の人に引き渡してしまおうと立ち上がった時。
ガシッ
右足を掴まれた。
「!?」
「待ってくれ………」
熱を孕んだ声に、後ろを振り返った。
視線を下に下げると、上目遣いでこちらを見てくるスタールの姿が…………。
「―――してる」
「ん?」
よく聞こえなかった言葉に、耳を傾ける。
もう一度息を吸った彼は、はっきりと言った。
「愛している」
「…………はやく!お医者様を!!急患です!!!」
その日、宮殿は騒然となった。
急患を訴える私と、愛の言葉を狂ったように囁くスタール。
両者によって展開されたカオスは、その日以降も続くことになる。
「好きだ」
「主治医!主治医はいずこに!?」
大量の贈り物と共に再来したスタールは、本日も愛の言葉を囁いてきた。
私の部屋がどんどん物で埋もれていっている。
しかしながら、急な手の平くるくるに私は動揺を隠せない。
数日前まで、私を断罪しようとしてた人と同一人物なんですか?
「イア様、若様は正常でごさいます」
「うそだッ!」
そばに控えていた医者が、すぐさま彼に診断を下した。
もう何度もしているからか、診察の手際がとてもいい。
………というか、医者が患者一人に付きっきりになっているのは大丈夫なのか?
「強いて病名をつけるのなら…………恋煩いですね(キリッ)」
「やかましいわ!」
決め顔で言ってきた医者にツッコミを入れる。
そして、いつの間にか周囲に人がいなくなっていた。
「あれ?みんなどこ!?」
「二人きりだな」
「こっちに来るなー!」
こんな危険人物と二人きりにさせるだなんて正気か!?
ガダーンには貞操観念というものがないのか!
「大丈夫だ、何もしない」
「信用できない!」
口では大丈夫と言うくせに、目は私の身体―――特に腹部に向けられている。
一体どこを見ているんだ!!
「―――ん?待てよ」
じりじりと後ろに下がっていた体を止める。
同じように止まった彼を横目に、あることに思い至った。
(この人が見ている場所は腹部)
そして、地竜の禊で見られたところも腹部だ。
それも、左腰だ。
丁度ここには、竜の姿を象った痣がある。
(もしかして、彼はこれを見てこうなったのでは?)
熱心にこちらを見ている彼だが、これも何かの演技なのではないか。
この痣から何かを考えた末、こんな行動をとっているのでは?
地竜の加護とやらを受けた彼のことだ。
竜に関して何かを知っている可能性が高い。
そして、そんな彼はこの痣に興味を示した結果…………。
「そういうことか!!」
「?」
困惑しているスタールに、私は得意げな顔をする。
この困惑した様子も演技なのだろう。
この私は騙されないぞ。
数々のミステリー(フィクション)を聞きかじった、この私はな!
「大丈夫です、すべてを理解しました」
痣のための演技だと思えば、もう怖くない。
彼の言葉は、この痣にたどりつくための手段でしかないのだ。
「そうか!わかってくれたか!」
キラキラとした目を向けてくる彼に一瞬怯むが、すぐに立て直す。
目的はまだわからないが、何かを企んでいることはわかっている。
化けの皮が剝がれる時が楽しみだ。
「ゲーム開始ですね!」
「ああ、受けてたとう」
スタールは嬉しそうに笑った。
まるで『想い人に愛を伝えることができた』人みたいな顔をしていた。
この時、すべてがかみ合っていなかった。
イアはスタールの言動が、すべて演技だと考えていた。
すべては痣のせいだと思っていた。
だから、まさかあのスタールが、初心初心の初心だとは想像もしなかったのだ。
常に上半身半裸のあの美丈夫が、異性の腹チラで恋に落ちるとは予測できなかったのだ。
そして、互いに考えていることを明確な言葉にしなかったことが、事態を長引かせる原因となった。




