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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
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37 食べかけ料理の行方と内心 side狩人




 夜も深まった頃。


 ノウゼンのある家では、二人の男が集まっていた。

 集落の隅に建てられたこの家は、隠れ家のような雰囲気を醸し出している。


「なあ、それどうすんの?」


 デイルはテーブルに置かれた食べかけの料理を指差した。 

 

 ユランが無事(?)にイアを部屋に送り届けた後、デイルは彼の家に来ていた。

 目的は、イアの食べかけの行く末を知るためだ。

 言い換えると、監視に来たわけだ。


「別にどうもしないが」


 『何を言っているんだ』という顔で見てくるユランに、デイルの頬がひきつる。

 他人様の食べかけを持って帰るという異常行動をしたのに、なんという態度。

 早速、この家に来たことを後悔する。


「じゃあ、それは処分しとけよ」


 どうもしないというのなら、それは処分したほうがいい。

 彼女の心労を考えると、そうした方が絶対にいい。


「わかった」


 すんなりと返事をした彼に、デイルは拍子抜けした。

 どうやら自分は勘違いしていたようだ。

 そうだ、まさかあのユランがそんな変態みたいなことをするわけが―――。


「おまっ、何してんの?!」


「?」


 顔をしかめる奴に、そうしたいのはこっちだと言いたい。

 現在、ユランがフォークを持っている手を全力で掴んでいる状態だ。 


 なぜ、彼女の食べかけを食べているんだ。


「処分しろと言ったのはお前だ」


「食べろとは一言もいってねぇよ!」


 イアの発狂する様が容易に想像できる。

 今頃、彼女は部屋で謎に鳥肌を立てているだろう(正解)。


「一体、なぜこんな真似を……」


 痛み出した頭をおさえ、ユランに尋ねる。


 こいつが異常なのは、今までなら“狩り”の時だけだった。

 狂ったようにモンスターを狩る姿はまさに狂人。

 しかし、イアという人物に関わり出してからさらに狂人と化した。

 いや、変態といった方が正確かもしれない。


 もしかすると、今日あの店に行こうとするこいつを止めるべきだったのか?

 こいつのストーカー行為を、面白そうだからと黙認してしまった罰なのか?


 後悔の念に襲われているデイルに、ユランが異常行動の原因を答えた。


「クソ爺が、同じ釜の飯を食ったら仲が良くなると言っていた」


「リーダーァ……!!」


 あのおっさんはいつか絶対に絞める。

 女の扱いなんてわからないくせに、下手にアドバイスしやがって……!


 リーダーは最近、イアとユランをくっつける方向に舵を切ったようだ。

 こうして、こいつに隙あらば恋愛のイロハを語っている。

 今回のは恋愛ってわけではなかったが、変な方向に進ませたのはおっさんで間違いない。


 尻拭いするのはこっちなんだぞ!


「ユラン、リーダーはそういうつもりで言ったわけじゃないと思うぞ」


 精一杯のフォローで出た言葉がコレだった。

 ……駄目だ、全然納得していない。

 訝し気な顔でこちらを見ている。

 

 コイツ、いつの間にこんなに表情が豊かになったんだ。


「手をはなせ」


「はなしたら食うだろ」


 暫くの間、睨み合いが続く。


 そして、先に折れたのは珍しくユランだった。

 彼はフォークをテーブルの上に置いた。


「……なら、どうやってあいつと仲良くなればいいんだ」


「この食べかけを食べても仲良くなれないことは確実だ」


 おかしな会話ではあるが、ユランがこうなのも仕方なかった。

 彼は今まで狩り一筋だった。

 そのため人との関わりも最低限であり、異性関係なんて目も当てられない。

 

 イアは、ユランにとって極めて特別な人物だと言える。





 思えば、最初から目に付く存在だったとユランは思い出した。


 初めて会った頃は、鈍くさい人間だと思っていた。

 自分の家の近くに大型のモンスターの痕跡があるにも関わらず、呑気にしている危機感のない人間。

 普通の人間ならモンスターの痕跡があれば怯えるのに、家を退去することを嫌がった変なやつ。


 自然と目で追っていると、ドラゴンを傍に置いていることがわかった。

 この時から、自分の中の何かが呼び覚まされた気がする。


 “狩り”の時に沸き起こる、あの衝動のような何かが。


 そこからはとんとん拍子だった。

 港町でドラゴンを捕らえ、あと少しで足枷をつけることができそうだった。

 だが、この目の前で何かをブツブツ呟いているデイルが邪魔をした。

 

 あの時……イアに逃げられたあの時。

 脳裏で、何かが壊れた音がした。


 それからずっとドラゴンを狩り続け、あいつと再会した。


(今度は、上手くやろう)


 追うと逃げるのなら、追われていることに気づかせなければいい。

 そして、気づかせないまま檻に入れてしまえばいいのだ。


 “狩れ”ば、この衝動が治まると思った時期もあった。


 だが、今は違う。

 この衝動は、ずっと手元に置いておかなければ治まらない。



 いつの間にか、家には一人にだけになっていた。

 どうやら、デイルは帰ったようだ。


 ユランは目の前にある料理を眺めた。

 そして、噛り付いた跡がある肉が目に入る。


「…………」


 それを静かに手で掴み―――口に入れた。


 口に広がるのは、優しい果物ベースのソース。

 どうやら、甘いものが好みらしい。


 手に付いたソースを舐める。


「好み……か」


 いつだったか、クソ爺に好みの女を聞かれたことを思い出す。

 確かあの時は、「怯えた顔の女」と答えたような気がする。


 あの時からすでに、自分の頭にはイアの姿が浮かんでいたのだろう。


「―――もう、逃がさない」


 一度は逃げられたが、これ以上は許さない。

 狩人の血にかけて、獲物は必ず捕らえる。


 ユランは窓の外を見た。


 その視線は、イアが借りている部屋に向けられているようだった。

 いくら狩人でもそこまでの視力はないはずだが、彼には彼女は見えている気がした。


 イアは逃げるべきだと知っていたのは、瞬く星と二つの月だけだった。



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