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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
36/48

36 夜の店



「なんでスナック!?」


「いいとこだろ?行きつけなんだ」


 夜にも関わらずオーウェンに連れ出された私は、妖艶な雰囲気のお店にいた。

 周囲はしっぽりとした雰囲気で、騒がしくはない。

 手前のテーブルでは、店員の女性がお客さんにお酌していた。


「いらっしゃい」


「よお、ミランダ!」


(あ、なるほど)


 妖艶なお姉さんがバーカウンターで頬杖をついていた。

 露出の多いドレスを身にまとった彼女は、まさに魔性の女。


「オーウェンさんが忠犬になってる……」


 全力で尻尾を振っている残像が見える。

 なんでだろう、本の読み過ぎで目が疲れたのかな。


「嫌よ、こんな駄犬」


「ミランダ……」


「き、聞こえてたんですね……!」


 彼女の言葉に、オーウェンがダメージを負っている。

 まずい、これでは面倒なことになる。


「す、座りますか!」


 オーウェンがバーカウンターに座ったため、その隣に座る。

 注文は常連だという彼に任せる。


 出てきたおつまみは結構しっかりしたものだった。

 これはもう、夜食と言ってもいいだろう。


「このお肉美味しいですね!」


「そう?仕込み頑張った甲斐があったわね」


 美女の無垢な笑みに、心臓が貫かれる。

 これは彼女にぞっこんのオーウェンがヤバいのではないかと隣を見る。


「は、鼻の下が!」


 顔面崩壊寸前の彼に、思わず悲鳴を上げる。

 強面寄りの顔の惚け顔なんて、とても見られるものじゃなかった……。


「ほら、こっちも食べなさい」


 彼女は全く相手をすることなく、私にカットされたフルーツを差しだしてきた。

 どうやら彼の旗色は悪いらしい。

 まあ、こんな美女にならあしらわれてもご褒美なのかも……。


「なあ、ミランダ―――」


 健気に話しかける彼を見て確信した。

 ここに連れてこられたのは、私をダシにして彼女と話すためだったのだと。


 良いように使われた気分だが、この美味しい食べ物に免じて許してあげよう。

 それに、友の恋路を応援できないほど狭量な人間じゃないのでね、私は。


 モグモグと私が食べる隣で、なんとかつながっていた会話のラリー。

 


 それを破壊したのは、このスナックに訪れた二人の客だった。



 カランコロン



「やあ、空いてる?」


「まあ!デイル様!」


 声色も顔色も変わった彼女は、バーカウンターから出ていってしまう。

 とてもじゃないが、隣を見る勇気はない。


「それに……ゆ、ユラン様!?」


「…………」


 喜色満面という言葉は、今の彼女にピッタリの言葉だろう。

 しかし、こちらの空気は最悪だ。


 なんだか、隣から憤怒の冷気を感じる。


 オーウェンは彼らが好きではない。

 いや、嫌いといっても差し支えないだろう。

 そして、特にユランに対しては激しい嫉妬と憎悪を抱いていた。

 加えて、憧れゆえの憎悪だから中々厄介な代物。


「こちらにどうぞ!」


 ミランダは大物客二名を店内の中央テーブルへ案内した。


 最悪の位置取りだ。

 バーカウンターのすぐ近くじゃないか。

 振り返ったら見えちゃう距離だし、会話なんて筒抜けだ。


 これはぞっこんボーイの心が持たないと隣を見る。


「…………」


(あ、こりゃダメだ)


 怒りやら嫉妬やらが上限に達してしまったのか。

 オーウェンの顔から魂が抜けていた。


 なるほど、これが恋に破れた人間の屍……。


 可哀想に思った私は、カウンターに置かれていたボトルを手に取った。


「ほら、飲んでください」


「…………」


 オーウェンは魂が抜けた状態のままグラスを煽る。

 今日は彼のヤケ酒に付き合うことになりそうだ。


「ほらほら、どうぞどうぞ」


 彼の喉へグイグイと吸い込まれるお酒。

 だんだんスポンジに吸わせているような気分になり、楽しくなってくる。


 スイスイいくなと感心していると、後ろの会話が聞こえてきた。


「まあ、デイル様ったら」


「ほんとだよ、なあユラン」


「…………」


 イチャイチャとした雰囲気が背後から流れてくる。

 

「あっ」


「…………」


 ピタリと止まったオーウェンの手。

 握りしめられたグラスが割れないか冷や汗をかく。


 今日はもう撤退すべきだと、彼に声をかけようと決心する。


「オーウェ―――」


「クソが~~~」


「!?」


 ヘロヘロの巨体がこちらにもたれてきた。


 目を白黒させていると、今度は体を抱きしめてきた。

 なんだか抱き枕になった気分だ。


「オレだって……オレだってな~~~」


「ぐっ、この酔っ払いめ……!」


 ずっしりとした重さが襲い掛かる。

 か弱いレディーになんてことを……!


「やめ―――」


 押しのけようと体に力を込めた瞬間だった。


 

 ドゴッ!



「ゲフッ」


「!?」


 さっきまで拘束されていた体が自由になる。

 そのかわり、オーウェンが地に伏しているけど。


 華麗な蹴りを決めた脚が、地面におろされる。


「ゆ、ユランさん?」


「…………ああ」


 先程、人を蹴り落とした人物とは思えないほど平静のユラン。

 ドン引きしているこちらに構うことなく、彼は全身をくまなく見てくる。


「な、なんですか……?」


「帰るぞ」


「はい?」


 訳の分からないことを言う彼の目はマジだ。

 これは……私を絶対に帰宅させる気だ。


「いや~!一人で大丈夫ですし、オーウェ―――」



 ドン



 カウンターに両手をつかれ、私は腕の檻に捕らえられる。

 壁ドンならぬ、テーブルドン……?


「……帰るぞ」


「はい喜んでー!」


 断ったらヤバい。

 至近距離にある顔から全力で顔を逸らして返事する。


「おいおい、ユラン。イアちゃんを困らせるなよ」


「黙れ」


「扱いが酷い」


 可哀想な扱いを受けているが、彼はさっきまで女性とイチャイチャしていたリア充だ。

 酌量の余地はない。


「デイルさん、何でここに?」


 私は今、能面のような顔をしていることだろう。

 ユランと一緒にいるのも気まずいが、デイルと一緒にいるのもまずい。

 

 店内の、特に女性陣たちの視線が痛い。


「君も結構、僕の扱いが雑だね」


「あ、ミランダさん、お会計いいですか?」


「無視かー」


 何かを呟いているデイルの隣には、微笑んでいるミランダが立っていた。

 しかし、目が、目が笑ってない。


「ええ、もちろんよ」


「すぐ!すぐに消えますので!」


 思わず口から出た言葉は、弁明がましいものだった。

 無駄にでかい体のオーウェンに肩を貸すため、彼の懐に入り込もうと試みる。


 だが、重すぎて断念した。


「すみません、この人はここに置いといていいですか」


「まあ、仕方ないわね」


「ありがとうございます!」


 私がイケメン二人を狙う意図がないことが伝わったのだろう。

 彼女が慈愛の笑顔を向けてくれる。


 ほっとしていると、横からデイルが入ってきた。


「オーウェンのやつがごめんね」


 フランクな様子から、彼の方はオーウェンを嫌っているわけではないようだ。

 あっちは目の敵にしているけども。


「こいつなりに、君を元気づけようとしたんだよ」


「ダウト」


「本当だって!」


「……そうなんですか?」


 地に伏している彼を見る。

 どう見ても、酔っ払いが地を舐めているようにしか見えないのだが。


「女性をひっかけに来たように見えたんですけど」


「まあ、こいつにとっては気力が回復する場所なんだと思う」


 デイルがさり気なく目を逸らし、私はそれをじっとりと睨んだ。

 

 結果は置いといて、目論見としては私を元気づけようとしてくれたのか。

 ……この鈍そうなオーウェンにすら、気を使われていたのか。


「私、そんなに落ち込んでました?」


 デイルは微笑んだまま、何も答えない。

 ユランの方は―――。


「―――って、ユランさん何してるんですか?!」


 デイルの横にいたはずの彼は、いつの間にか背後にいた。

 そして、カウンターにある私の食べかけ料理に何かしていた。


 なぜか彼は、ミランダにそれらの料理を包んでもらっていたのだ。


「持って帰る」


「え、ユランさんが?」


「?そうだが」


 彼はその行為の異常性をわかっていないらしい。

 デイルは横で静かに爆笑している。

 笑ってないで助けて!


「え?食べかけを?新しいのじゃなくて?」


「ああ」


 その料理は私が全部食べるべきものだ。

 そして、なぜ私の食べかけを彼が持って帰るんだ。


 普通、食べるなら人が手をつけてないものを食べたいだろう。


「あの、その料理が気にいったなら新しく注文―――」


「いや、これでいい」


「そ、そうですか……」


(これでいいって何だろう……)


 隣では、オーウェンと同じように地に伏したデイルがいる。

 彼の腹筋は、明日にでもシックスパックになっているはずだ。


(その食べかけの行く末は、聞くに聞けない……!)


 その日、私は最後までそのことに触れられなかった。

 あれがきっと、パンドラの箱というやつだろう。


 オーウェンはデイルが回収し、私はユランと帰宅することになった。

 スナックの女性陣たちから凄まじい気迫を感じたが、逃げるようにその場を去った。

 私はもう、あの店を出禁にされているかもしれない。


 店出禁の恐怖に打ち震える帰り道だったが、もっと恐ろしい目にもあった。

 それは、ユランの家に連れ去られそうになったことだ。

 すったもんだの末になんとか自分の部屋に帰ることができた。


 しかし、なぜだろう。

 不思議と鳥肌が止まらない。

 

 その日の夜、私は窓の鍵とカーテンをしっかりと閉めて寝た。




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