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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
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34 竜の涙



「ユランさん!」


 燃え盛る森で、ユランが振り返った。

 上空ではドラゴンが狂乱している。


 ふと、レオンはいつ体が戻ったのだろうかと疑問を抱いた。

 しかし、その疑問は陽炎のように消え去った。


 ダメだ。

 頭がボーっとする。 


「お願いです!レオンを、ドラゴンを鎮めてください!」


 少し離れた場所にいる彼は何も言わない。


 急がなければ、彼らが……竜人たちが灰になってしまう!


「ユランさんッ!」


 揺らめいた彼は、いつの間にか目の前に来ていた。

 そして、その唇は弧を描いていた。


「ならば選べ」


「え?」


 炎が頬を撫でる。

 すると、彼の手が頬を伝っていた。


「竜か、人か」


 彼は空を指差し、その後に地を指差す。

 レオンを救うか、竜人たちを救うか。


 恐れていた選択を迫られる。


「二つに一つだ」


 愉しげに笑う彼は、泣いているようだった。

 彼のようで、彼ではないような、そんな雰囲気をまとっている。


「燃えはじめたな」


 火の海と化した森で、ユランのような者が笑う。

 川の水も干上がり、痛いほどの乾燥が皮膚を襲う。


 かすむ視界で、彼の姿が揺らめいた。



「さあ、お前の選択は?」



 上空では、ドラゴンがもがき苦しんでいる。



「……これが、あなたの望んだ未来ですか」



 両膝をつき、炎に照らされる彼の顔を見上げる。


 うっそりと笑うユランの姿に、私は両手を握りしめた。



「竜人たちを創り出した始祖の竜よ」



「おや、知っていたのか」


 ユランだったものが、ただの陽炎に変わる。

 陽炎は深い闇へと変化し、竜の姿をかたどった。


「そうだ、我が人を呪った最初で最後の竜だ」


 本に載っていた通りだった。

 怨念の竜禍によって生まれた竜人たち。

 目の前の影こそが、それを生み出した者だ。


「祝福の竜禍をもつ人よ、選ぶがいい」


 悲しみを湛えたような、楽しそうな声。

 荒波のような感情が、深い影から伝わってくる。


「人か、竜か」


 この竜は未だに過去に囚われている。

 選ばれなかった自分を、懸命に慰めようとしているのだろう。


 この竜を選ばなかった人間たちは、とっくにいないのに。


「………解放してください」


 深い影に、答えを示す。



「レオンを解放してください」



「そうか!お前は竜を選ぶか!」


 影は哂っている。

 悲しそうに哂う竜に、心が痛んだ。



 揺らめいていた空気が凪ぐ。

 


 上空を飛んでいたドラゴンは静かに墜落した。



 炎の海を見ながら、私は竜へ尋ねた。


「復讐を遂げた気分はどうですか」


 揺らめく影は、少しずつ竜の姿が崩れていっている。


「ああ、そうだな……」


 物思いに耽っている竜は、過去を反芻しているのだろう。


 戦場で信じた人々は、囚われた竜より囚われた同族を選んだ。

 それを嘆いた竜は裏切った彼らに呪いをかけた。


 竜人になった彼らは、悠久の時を過ごし……壊れた。


「人が、あんなにも脆いとはな」


 竜にとって、彼らは罪人であって罪人でない。

 あの頃の精神がない人は、もはや別人だから。


「気分としては……釈然としないな」


 贖罪は、竜の心を癒さなかったようだ。


「我が求めたものは、もうないのだな」


「…………」


 この竜が求めたのは、あの瞬間に、彼らに選ばれることだけだった。

 だからこそ、こんな再現は茶番に過ぎない。


「もう、疲れた」


「ゆっくり、休んでください」


 影はとうとう崩れた。

 崩れ落ちる影は、まるで竜の涙のようだった。


 そして、地面には焼け焦げた草だけがあった。



















 焼け焦げた森を見渡す。


 祭壇は黒く黒ずんでいる。

 その周りには、黒く燃え切った草木しかなかった。


 ―――竜人たちなど、今までいなかったかのように。


 灰も残らないほどの火だったのか。

 それとも、あの竜が彼らを連れて行ったのか。


「……虚しいね」


『クルル……』


 手のひらサイズに戻っていたレオンは、肩で悲し気に泣いている。

 同胞の末路の嘆いているのかもしれない。


 レオンが元の大きさに戻れたのは、きっとあの竜が細工をしたからだろう。


「そのまま戻しておいてくれたらよかったのにね~」


『クルル』


 レオンが頬を舐めてきた。

 不思議に思っていると、視界がぼやけた。


「あれ?」


 頬を触った手は濡れていた。



 ユランの姿をした竜を追いかける前、本当はロイデとシャーデンを見つけていた。

 でも、すぐにそのことを頭から消した。

 あの時は、どうしてもあの二人を見つけたことを認めたくなかったのだ。


 炎を……浄化の光のように、嬉しそうに見つめる彼らを認められなかった。


 今思えば、あれが彼らの救いだったのだとわかる。

 終わらない時は、想像を絶するほどの地獄だったはずだ。



「ゆっくり……休んで」



 焼け焦げた祭壇には、一輪の白い花が置かれていた。


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