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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
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33 炎の海



 竜人の里に囚われた私は、逃げるチャンスをうかがっていた。

 また、()()不安も感じていた。

 このことは後で確信に変わることになる。

 



 事が動き出したのは、二つの月が完全に欠けた夜だった。



「ねえ、ちょっといい?」


 そう言って部屋に入って来た竜人の女性を見て、私は確信した。


 ―――これは……利用される時が来た、と。

















「手狭でごめんなさいね」


「いえいえ、お気になさらず」


 あの診療所に不備があるとかなんとか言われて、この祈りの部屋みたいな所に案内された。


「この里には宿がなくて……。ここで過ごしてもらえるかしら」


「ここは里の教会……みたいな所ですか?」


「ええ、そうよ」


 何の抵抗もしない私を、里の女性たちが着替えさせる。

 

 真っ白な衣装には金色の刺繍が施されている。

 袖を通すと、さらさらとした質感から高級な布だということがわかる。


 ベールまで被せられ、気分は花嫁だ。


 女性たちは去り、部屋には私がただ一人残された。


「おお~」


 ひらひらと部屋を舞う。

 さっきまで花嫁気分だったが、今は舞子の気分だ。


 陽気に部屋を歩き回っていると、タンスの裏から隙間風が入っていることに気が付いた。


「ありゃ、修理しないとかな」


 頑張ってタンスをずらし、原因の穴を探ろうと壁を覗き込む。


 思った通り、穴があった。

 しかし、思った以上に穴が大きい。

 子ども一人くらいなら通れそうな……。


 すると、穴の中で揺らめく二対の光が目に入る。


「…………え」


「何やってんだこのバカ!」


「うわあ!」


 穴から現れたのは、ロイデだった。

 久しぶりの悪態に、懐かしさと安堵を覚えた。


「どっか行けって言っただろ!」


「う~ん、行けなかったというべきか、行かなかったというべきか」


 憤っている彼には申し訳ないが、こちらも不用意に逃げることはできないのだ。

 逃亡に失敗すれば手痛いしっぺ返しを食らうことは一度学んでいるので……。


 某狩人さんを思い出して身震いする。


「お前……!わかってるのか?あいつらは親切なんかじゃ―――」


「うん、私を生贄か何かにするつもりなんだろうね」


 前の部屋にあった本には、竜と人の美しい物語が描かれていた。

 …………人が竜に身を捧げるという内容だったけれど。


「……!それがわかっているのになんで!」


 必死な様子の彼に、心が温かくなった。

 彼は最初から心配してくれていたのだ。


「竜人の起源って、竜禍だったんだね」


「!!」


 目を見張るロイデを見て、やはりそうだったのかと確信した。

 

 彼らは神秘的な種族ではなかった。

 怨念の竜禍によって体を歪められた()人間たちだ。

 永遠に続く生も、輪廻を許されない罰に過ぎない。


「ロイデ、あなたは何年生きているの?」


「…………」


 あんなに雄弁だった彼の瞳が暗く濁る。

 永遠に続く生は、人には過ぎるものらしい。


「私は普通の人間だよ。……竜禍を纏うことを除いて」


「………知ってる、お前は祝福の竜禍だ」


 俯くロイデの頭を撫でる。

 彼はすべてを知っていたのだ。


「大丈夫、ちゃんと逃げるよ」


「…………ああ」


 申し訳なさそうな顔をする彼を抱きしめた。

 背に回ってきた手は、とても小さく感じた。



















「こちらへ」


 祈りの部屋で数日過ごした。

 そして今日、里の外へ連れ出された。


 ベール越しに大勢の竜人たちを見る。

 そこには、ロイデとシャーデンもいた。


 祭壇のようなものが目の前にある。


「膝をついて、祈ってください」


 白い衣装の私とは対照的に、他の人たちは黒の装いをしていた。

 葬儀のようで、あまり気分はよくない。

 

 言われた通りに、私は膝をついて手を組んだ。


(逃げ時は……)


 祈るフリをして、虎視眈々と逃げる機会をうかがう。

 すると、木々がざわめきだした。


 バサッバサッ


「!」


「「「おお……!」」」


 風圧と共に現れたのは、白銀のドラゴンだった。

 月の光を受けたそれは、白に近い輝きを放っている。


「レオン!」


『…………』


「………レオン?」


『…………』


 バサッバサッ


 レオンは何の反応もしない上、一向に地面に降りてこない。

 嫌な予感がひしひしとする。


『グルルルルアアーーッ!!』


「レオンッ?!」


 口から放たれた炎によって、周囲は一瞬で炎の海となった。


 なぜかはわからないが、レオンは正気ではないらしい。

 それに共鳴するように、胸の中が締め付けられるように苦しい。


「レオンッ!!」


『グルルァァ…………!』


 咎めるように叫ぶが、届かない。

 レオンは炎を撒き散らしながら、空中へと舞い上がった。


「ゴホッゴホッ」


 ベールで口元を抑え、周囲の人たちを見渡した。

 一緒に逃げようと、彼らに手を伸ばす。

 そして、伸ばした手をおろした。


 彼らは、燃え盛る炎を恍惚な顔で眺めていたのだ。


(なにを………しているの?)


 誰一人として逃げる様子を見せない。

 むしろ、喜々として炎に身を委ねている。


 異様な様に、急いでロイデとシャーデンを探す。


 そして、彷徨う視線の先で想定外の人を見つけた。


「ユランさん………?」


 揺らめく空気の中、彼は真っ直ぐにこちらを見ている。

 

 彼なのか確かめようと一歩踏み出すと、陽炎のように消えてしまった。


「待って!」


 私はレオンを鎮めることができない今、彼は一筋の希望だ。

 彼は“竜殺し”の異名をもつ狩人だ。


(ドラゴンを気絶させることだってできるはず……!)


 酸欠になった頭では、彼が幻である可能性は考えられなかった。












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