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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
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31 動き出す未来



 人は、目的をもって他者に近づくのだろう。

 もしかすると、純粋な出会いなんてないのかもしれない。

 だからきっと、純粋な想いだって―――。

 

「燃えはじめたな」


 火の海と化した森で、ユランが笑う。

 川の水も干上がり、痛いほどの乾燥が皮膚を襲う。


 かすむ視界で、彼の姿が揺らめいた。



「さあ、お前の選択は?」



 上空では、ドラゴンがもがき苦しんでいる。

 手のひらに収まらないほどの大きさに戻ったドラゴン。


 こんな状況でなければ、私は喜びでむせび泣いていただろう。


 そう、こんな状況でなければ。



「……()()が、あなたの望んだ未来ですか」



 両膝をつき、炎に照らされる彼の顔を見上げる。

 

 うっそりと笑うユランの姿に、私は両手を握りしめた。


























 

「おお~!」


 私は今、ものすごく感動している。


「ここが妖精の谷……!」


 中央に流れる川は、深い緑を映している。

 周囲にある木々が、水面に投影されているのだ。

 とても神秘的だ。


 流石、深い森を抜けてきた甲斐があった。


「あまり近づくな」


 ヒョイ


「うわっ」


 水面を覗き込んでいた私の身体が宙に浮く。

 両脇に差し込まれた腕は、とても安定感がある。


 そのままの態勢で川から離れ、足が地面に着地した。


「ゆ、ユランさん……」


 気まずげに彼の名を呼ぶ。


 だってこの人、数日前にこっちを監禁してきた相手だよ?

 気まずくならない方がおかしい。


 当の本人は何も気になっていないようで、近くで焚火の準備を始めている。


(不安だ……)


 気まずさに堪えきれなくなるのが先か、目的を果たすのが先か。


「はあ……」


 この気まずい二人旅は、ユランの提案から始まったものだった。

 確かめたいことがあると言って、私は監禁部屋から連れ出されたのだ。


 彼の行動は、毎度のことながら心臓に悪い。


 しかし、彼から()()()という罪悪感があった私は、引きずられるままに彼の旅に同行した。











 パチパチ


 燃え上がる焚火の煙は空へ向かう。


 煙を追った視線の先には、満点の星空が映った。


「綺麗な星空ですね~」


 あえて呑気にユランに話しかける。

 焚火越しに見える彼が、どこか不安定な雰囲気を纏っていたから。


「今回の旅も、なんとかなりますよ」


 この旅の目的も知らないくせに、よく言ったものだ。

 自嘲気味な笑みが零れる。

 

 それでも、虚空を見つめる彼に何か言葉をかけないと。

 たとえ、空回りの言葉でも。


「ほ、ほら!川に桃色のホタルが飛んでますよ……桃色?」

 

 黒い水面に桃色の無数の光が舞っている。

 あれ、ホタルって桃色だっけ?

 あと、この世界にホタルっていたっけ?


 よく見てみると、その光には薄い羽のようなものがついていた。


「よ、妖精!?」


 思わず立ち上がり、唖然とする。

 急なファンタジー要素に脳が追いつかない。


「ちょ、ビン!空きビンないですか!」


「?」


 状況を把握できていないユランの肩を揺さぶる。

 早く……!あれは時間が経ったら消える系のやつかもしれない!


「ありがとうございます!」


 無言で空きビンを出してきた彼にお礼を言い、川へと突っ走る。

 獲物は目の前にあり!





 バシャバシャ


 

 ユランは浅瀬で格闘しているイアを眺めた。


「どりゃあー!」


 勇ましい声の割に、動きは鈍かった。

 おそらく驚かせないように動いているのだろうが、声のせいで逃げられている。


「ふっ」


 鼻から笑いが漏れる。


 あの調子では、あのビンが満たされることはないだろう。

 あんな、捕らえる気のない動きでは。

 

 桃花蝶(とうかちょう)と戯れる彼女を目で追う。


 

 幻想的な谷の夜は、穏やかに過ぎていった。


 

















「ユランさん、ユランさん!」


 深い森の中、返事のない呼び声が虚しく響く。

 まだ日は高いが、心なしか森を暗く感じる。


 ぶるっ


「どこに行ったんですか~……」


 背中に走った悪寒に、私の足は早まった。





 遡ること数時間前。

 妖精の谷を抜け、順調にユランについていくことができていた頃。

 

 彼が突然、目の前から消えてしまった。


 そう、それはもう突然に。

 明らかな異常事態だった。


 パニックになった頭に、ふと()()()()という言葉がよぎった。

 確かにファンタジーでは、絶対に迷ってしまう森なるものがある。

 この世界にあっても、おかしくない。


 私に残された選択は、だた歩き回ることだけだった。








 こうして、私の物語は幕を閉じた。


「じゃなーい!」


 不吉な言葉を頭から追い出す。


 そろそろ日が蔭ってきた。

 森も独特な雰囲気を醸し出している。


 ほら、お化けが出そうな……。


「レオンー……」


 情けない声でドラゴンを呼ぶ。

 しかし、いつもなら返ってくるはずの返事がない。


 そう、この森ではユランどころかレオンとすらもはぐれてしまっているのだ。 


「詰んでる」


 木の根に腰を下ろした。

 そして、そっと周囲を見渡す。


 森だからだろうか、進んでも進んでも同じ場所に見える。

 まさか、同じ場所をグルグル回っているわけじゃない……よね?


「……ま、まさか、そんなわけ―――」


 ゾワッ


「!」


 立ち上がり、背を木にピッタリとくっつける。

 なんだろう、嫌な予感がする。


 木の影から悪寒のする方向を覗こうとした瞬間―――。


 チクッ


「……っ!」


 首筋に鋭い痛みが走る。

 首に伸ばそうとした手は、まったく力が入らなかった。


(一体なにが……)


 意識と共に、体が崩れ落ちた。







「これが……」


「さっさと里に運ぶぞ」


 複数の影が気絶したイアを取り囲む。


 そして、彼女は深い森の奥へと運ばれていった。





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