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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
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30 妄執か、執愛か



 サウタージという集落まで逃げることができていた私だったが、あえなく捕まることとなった。


 モンスターの調査に行っていたはずのユランが、なんとその調査対象だったワイバーンに乗ってサウタージまでやってきたのだ。




「こんなの聞いてない……」


 現在、私はどこかの部屋に監禁されていた。

 ワイバーンに乗らされたところまでは覚えているんだが……。


「ここはどこ!?」


 光沢のある石でできた床と壁。

 乳白色が彩るこの部屋は、明らかに高級そうだ。


 しかし、なぜだろう。

 窓には鉄格子がつけられている。


「監禁部屋……」


 脳裏によぎった言葉が口に出る。

 キラキラと装飾された部屋に似つかわしくない言葉だ。


 そして、こんなことをしてくるのはあの人しかいない。



 ガチャンッ



「!」


 重い金属音と共に開かれたドアから、一人の人間が入って来た。

 思わず。ベッドの影にサッと隠れる。


「よお、元気か」


「!!」


 想定していた人物ではないことに驚き、安堵する。

 ベッドの影から顔を出すと、“ダルク”のリーダーが苦笑いしていた。


「ユランの奴がすまん」


「やっぱりそうですか……」


 監禁した犯人が想定通りだったことに、何とも言えない気分になる。

 まあ、逃亡を計画する段階でこうなることは恐れていたけども……。


「お前さんに悪い知らせと、……悪い知らせがある」


「いや、片方は良い知らせじゃないんですか」


 疲れた顔をしたリーダーは、私のツッコミに首を振った。

 うん、どうやら色々と手遅れらしい。


「まず、あいつの旅の候補者は全員帰した」


「……はい?」


「んで、お前さんがあいつの旅についていくのは続行だ」


「約束と違うじゃないですか!」


 聞いていた話とは異なる言葉に、思わず抗議の声をあげる。

 しかし、この抗議が無意味なことは痛いほどわかっていた。


「俺にはあいつを止められん……」


「そこは頑張ってくださいよ……」


 リーダーの顔色から、あの人がけっこう大変な状態になっていることを感じ取る。

 この部屋の様子からもわかるが、結構ご立腹らしい。


「一体、この部屋はなんなんですか……」


 諦めの境地で、整えられた部屋を見渡す。

 乳白色の優しい色合いに、目が癒される。


 まあ、心はまったく癒されないが。


「ユランが用意した部屋だ」


「……ちなみにお値段は?」


「……聞きたいか?」


「やめときます!」


 不毛な会話を断ち切り、話題を変える。


「それで、私はこれからどうなるんですか?」


 もう監禁されてしまった私は、あの人の手のひらで踊ることしか許されない。

 結局こうなるんだったら、もっとノウゼンを観光しておくんだったと後悔する。


「まあ、後で来るだろうユランのご機嫌を取ることが最優先事項だろうな」


「無理だー!」


 絶望的な状況に悲鳴を上げる。


 無理じゃない?

 依存してた鎮静剤が逃げ出したんだから、正気なわけなくない?


「諦めろ」


「嫌だー!」


 私はきっと、あの人に殺されるのではないだろうか。

 あるいは、私が二度と逃げられないように―――。


 ふと、恋人の足の腱を切って逃げられないようにした男の話を思い出す。


 ……やりかねない。

 あの人ならやりかねない。


 そして、恐怖の対面はすぐに訪れた。









「体調は」


「げ、元気ですー……」


 冷や汗を大量に流す私と、何を考えているのがわからない顔のユラン。

 普段から表情がない人は、こういう時にとても恐ろしいのだなと思い知らされた。


「なぜ逃げた」


「そ、そそそ、その……!」


 あまりにも直球の質問に面食らう。

 そして、挙動不審に視線を泳がせる。


 そんな私に焦れたのか。

 彼は、ベッドで正座していた私の傍に座った。


「!?」


 あまりの近さに体が硬直する。


 なんだろう。

 今すぐ()れるんだぞっていう圧を感じてしまう。


「答えられないか」


「滅相もございませんっ!」


 顔を覗き込まれ、視線を全力で明後日の方向に逸らす。


(目をあわせたら終わる、目を合わせたら終わる……!)



 グイッ



「!!」


 片手で顎を固定され、無理やり正面を向かされる。

 目に入ったのは、美しい灰色の瞳だった。


 狼のようなその瞳に、私は目を逸らせなくなる。


「あいつらに遠慮したのか」


「あいつら……?」


 意図のつかめない言葉に、脳をフル回転させる。

 この人はいったい誰のことを言っているのか。


「クソ爺が連れてきた女共のことだ」


「あ、ああ……!」


 この人の旅の同行者になるはずだった彼女たちのことか。

 いやでも、なぜ彼女たちの話に?


「あいつらのせいで、お前は俺から離れたんだろう?」


 細められた目に、私は思わず首を縦に振っていた。


「そ、そうです!その通りです!」


 渡りに船だと全力で同意する。

 

 すまない、名も知らぬ彼女たち。

 あなた方には尊い犠牲になってもらう。


「ほ、ほら!ユランさんみたいにかっこいい人の隣はああいう美人が似合うなって思って!もちろん、ほんとはユランさんと一緒に旅を続けたかったんですけどね!」


 私から望んで逃げたことがバレたら、絶対にダメだ。

 もしバレたら、私の足の腱がどうなるか保証できない。


 ニコニコと全力の愛想笑いをする私に、ユランは目元を和らげた。


「!」


 彼の珍しい表情に、思わず見入る。

 こんな優し気な顔は、初めて見た。


「そうか」


「……っはい!」


 彼の声で我に返る。


 そして、顎に添えられている手からそっと身を引こうとした時だった。



 ガシッ



「うぶ?!」


 頬にめり込む指は、私の顔を捕らえて離さない。

 痛くない程度の力加減に、逆に恐怖を覚える。


「そうだな、クソ爺やデイルと結託して逃げようとしてた―――なんてわけじゃないだろう?」


(バレてる……!これはバレてる!)


 改めて彼の目を見ると、光がまったく宿っていなかった。

 怖すぎる。

 


 ドサッ



 顔を捕らえられたまま、私はベッドに押し倒される。

 馬乗りになったユランは、ゆっくりと体を倒してきた。


「お前に触れていると落ち着く」


(こっちは落ち着かないよ……!)


 至近距離にあるご尊顔に、羞恥よりも生命の危機を感じる。


「このままお前を閉じ込めておこうか」


(ひいいぃぃ……!)


 マジな目をしている。

 この人はやると言ったら絶対にやる。


 動かない首の代わりに、視線でやめてくれと懇願する。


 フッと目を細めた彼は、私の顔から手を離した。


「だが、今ではない」


 彼の顔が、次第に近づいてきた。


(近い近い近い!)


 首筋に感じる生暖かい空気に、心の中で阿鼻叫喚する。


 そして、全力で彼から顔を逸らしていたのが悪かった。



 チュ゛ーッ



「うぎゃああっ!」


 晒された首筋に、チクッではすまない衝撃が走る。


 吸引、吸引である。

 某掃除機の変わらない吸引力だ。


「ななな、なにしてっ!?」


 混乱する私を満足そうに見下ろすユラン。

 遅れてやってきた羞恥に、顔が赤くなっていくのがわかった。


 そして、思考が真っ白になった私は、そのまま意識もフェードアウトした。

 






「お前には、やってもらうことがある」


 痕が残っている首筋を撫で、ユランはもう一度そこに口づけを落とす。


 彼の横顔に浮かんでいたのは、果たして愛だったのか執着だったのか。

 しかし、本人すら知り得ないことは―――推し量れなかった。



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