3 狩人
集落での生活にも慣れた頃。
なんだか人々の様子がおかしいことに気が付いた。
「何かあったんですか?」
強面な肉屋の店主にそう尋ねる。
彼は普段から恐い顔を、さらに恐い顔にして言った。
「ああ、“ダルク”の連中が来るんだ」
「“ダルク”?」
「知らないのか?」
「アハハー」
知るわけがない。
こちとら岩山でドラゴンと引き籠ってたんだから。
店主に詳しく話を聞くと、どうやら“ダルク”は有名な狩人集団らしい。
“ダルク”はギルド名で、狩人にとってこのギルドに所属することは大変な栄誉なのだそうだ。
「俺も昔は“ダルク”に入ろうとしたモンだ」
興奮気味に話す店主の顔は紅潮し、強面に拍車をかけている。
店主の顔が普段より恐かったのは、どうやら“ダルク”とやらの来訪に興奮していたからのようだ。
他の人にも話を聞いてみたが、皆一様に興奮気味に“ダルク”のすごさを口にしていた。
「―――とうわけだから、暫くはこの家から離れてて」
『グルルル』
「いや、私のことが心配かもしれないけど、あなたが狩られたら元も子もないでしょ」
『グルル』
「大丈夫、蓄えはたくさんあるから」
帰宅後、家のそばにいたレオンと交渉をする。
このドラゴン、私を守るべきモノだと思っているようでなかなか同意しない。
え?そもそもこちらの言っていることを理解しているのかって?
……多分、いけてるはず。
「できることなら、この集落付近から離れていてほしいんだけど……」
『グルルッ』
「今のは強い否定かな?」
なんとなく、レオンはこちらの言っていることを理解している気がする。
その上で、ここを離れることを拒否していると思われる。
「わかったわかった!じゃあ、“ダルク”の人たちには絶対に鉢合わせないように」
『クルル』
「この返事は調子がいいな……」
押し問答の末、勝利したのはドラゴンだった。
これからエリートな狩人たちと対面することになるのに、レオンのことにも気を配らなければならないとは……。
「何事もありませんように……」
また家の周りの柵を押しているドラゴンを見ながら、深いため息をついた。
ザワザワ ザワザワ
「最近、賑やかだな……」
普段もそれなりに人がいる大通りだが、ここ最近はそれを上回る人の多さだ。
どうやら“ダルク”来訪で、外部からの客が多くなっているらしい。
斜め前にある宿はすでに予約客でいっぱいだそうで、予約がとれなかった客が肩を落としている。この集落の人たちは、内心“ダルク”を福の神だと思っているんじゃないだろうか。
「ねえ、聞いた?」
「ええ、ユランも来るんでしょ」
「そうなの!あー、もう最高っ」
「デイルも見たいなー!」
「……アイドル?」
どうやら“ダルク”は凄腕狩人ギルドではなく、アイドルだったようだ。
女性陣の気合の入りようがすごい。
「おい、ユラン来るんだってな」
「ああ、一戦できたりするかな」
「お前には無理だろ!」
「オーウェンだったらワンチャン?」
「………」
うん、男性陣は闘争本能が爆発しているようだ。
とにかく、“ダルク”は人々の憧れの存在だということがよくわかった。
「あら!あんたも来てたの」
「……ご無沙汰してます」
「堅苦しいわね~」
ヤバい御仁が来た。
この人は肉屋の店主の奥さんなのだが、いかんせん口数が多い。
捕まると二度と家に帰れない並みに話す上、とんでもないお節介さんなのだ。
「用事を思い出し―――」
「ところで、あんたは誰が良いの?」
(終わった……)
彼女に口を開かせてしまった時点で、試合は終了している。
諦めて、この地獄の門をくぐるしかない。
「誰、とは?」
「だから、“ダルク”の中で誰が好みなのかってことよ」
この質問の意図を瞬時に把握する。
これは、名を挙げた人物とあわよくばくっつけてあげようという意図が潤沢に含まれている。
こういう人はなぜか、愛の仲介人をしたがる。
つまり、答えたら今以上の地獄が待っているということに他ならない。
「いや、いません」
「何よ、もったいぶらなくてもいいのよ?」
頼むから、他の人にそのお節介を焼いてあげてくれ!
私よりもその仲介を必要として人がいるって!
「そもそも“ダルク”の存在を最近知りました」
「え?」
この回答は予想していなかったのか、彼女は虚を突かれた顔をする。
その隙の糸を見逃すことなく、颯爽と歩きだす。
「では、用事があるので」
「ちょっ―――」
まだ話足りなそうな彼女の顔を尻目に、急いで帰路を辿る。
早く帰ってレオンと遊ぼう。
なんか、いろいろな気力を消耗した気がする。
後日、肉屋の店主に奥さんのことを聞いてみると、誰かしらの仲介をすることになったと話していたと言った。
迷える子羊が一匹、お節介さんによって救われたようだ。
ん?逆かもしれないって?
……まあ、そういう時もある。
そうこうして、“ダルク”御一行が到着する日の朝を迎えた。




