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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
29/48

29 行きはよいよい



「なるほど、この荷馬車で……」


 ガタゴトッ ガタゴトッ


 舗装されていない道は、車輪がよく跳ねる。

 これは今日、お尻が痛くなりそうだ。


 ぐったりとする私は現在、逃亡経路にそって移動していた。

 ただ、この馬車を降りたら、またノウゼンに戻るつもりだ。


 なぜなら、これは逃亡経路の()()だから。


 


 今日は大型のモンスターが現れたという一報が入った日だった。

 その調査をするため、“ダルク”の狩人たちが総出で出払っている。


 そのモンスターはノウゼンから三日かかるところで目撃されたらしい。

 つまり、彼らが帰ってくるまで六日程度かかるということだ。


 この調査には、もちろんユランも参加している。

 これは逃亡経路の確認をしておこうと思い至ったわけだ。


「……いや、これってこのまま逃げられるのでは?」


 ガタゴトとゆったりと進む荷馬車。

 追われる心配のない状況。


 あれ、これって好機?


「すみませーん!やっぱり最後まで乗りますー!」


「はいよー」


 馭者の席から聞こえてきた返事に、私は胸が高鳴った。

 なんだか、いけない冒険をしているような気分だったのだ。




















「着いたー!」


 荷馬車から降り、視界に広がったのは広大な盆地。

 ノウゼンよりも遥かに大きいこの集落は、サウタージというらしい。


 私はここから、さらに東を目指さなければならない。


 でも、時間はまだある。


「レオン」


『クルルッ』


 ポケットからドラゴンの鳴き声が聞こえてくる。

 元気な鳴き声に、頬が緩む。

 どうやらポケットの中は、なかなか快適のようだ。


「ちょっと観光しようか」


『クル~』


 そして、私は人混みの中に入っていった。




























「!」


「おい、どうした」


 グルルルルァァッ!!!


 目の前で牙を剥いているのは、ワイバーンと呼ばれるドラゴン。

 ドラゴンの中で下位の存在ではあるが、このモンスターは十分に危険だ。


「おいユラン!集中しろ!」


 リーダーの声を無視し、ユランはある方向を見続ける。

 その隙を突き、ワイバーンがユランへと向かっていく。


 グルアアアァッ!!


 向かってきたワイバーンに目もくれず、ユランはその場に立ち尽くす。

 ワイバーンの牙がユランの顔を覆いかけたその時。


 ドゴォォオオン


「何やってんだ……」


 呆れ果てるリーダーは、ユランの奇行に頭を抱えた。


 たった今、ワイバーンの頭を地面に叩きつけたユラン。

 彼は、意気消沈したワイバーンの背に乗った。


「は?」


「俺は抜ける」


 ギャウウゥゥ


 腹を蹴り上げられたワイバーンは、空へと羽ばたく。

 

「はあああああ?!」


 ワイバーンに乗ってどこかへ行ってしまったユランに絶句する。

 

 ワイバーンが他に数体いるにも関わらず狩りを抜けたことも衝撃だったが、ワイバーンを乗りこなしていたことも衝撃だった。


 しかし、ユランが竜禍を纏っていることを思い出し納得する。


 竜禍はドラゴンとの縁を意味する。

 そのため、ドラゴンに分類されるワイバーンを操ることができても不思議ではない。


「にしても、規格外だろ……」


 リーダーは、連合(数多の集落が集ってできた機関)に報告する内容が増えたことに頭を痛めた。























 ワイバーンに乗った男は、魔石から映し出される映像を目で追う。

 赤く光る点は、ある位置で停止していた。


「躾けがいるようだ」


 灰色の瞳は、仄暗い光を放っていた。



































「ひゃっほー!」


『クルッルー!』


 現在、サウタージを満喫している人間とドラゴン。

 串焼きを片手に、広場の隅でフィーバーしていた。


 私のポケットから聞こえてきた鳴き声に、周囲は不思議そうな顔をしていた。

 しかし、何の問題もない。


「レオン、君は今から鳥だ」


『クル~』


「本当はトカゲ―――」


『グルルァ……』


「は、やめておこっか!レオンは可愛い小鳥だよね!」


『クルル~』


 途中で強者すぎる鳴き声が聞こえた気がしたが、気のせいだと思おう。

 そう、レオンの鳴き声は圧倒的に鳥だった。

 

 特に、鳩の鳴き声に似ていた。


「まあ、鳩がポケットに入ってるって思われて、不審な目で見られることにはなるけどね……」


『クルー』


 レオンと戯れていると、ふと何かを忘れているような気がした。

 

 大通りを行き交う人々はせわしなく、馬車も火がついているように走っている。

 一方、果てしなくのんびりしている私。


「あ」


『クル?』


 ここに来た経緯を思い出す。

 私は今、逃亡の最中だったのでは?


「まずいっ!レオン、行くよ!」


『クルッ』


 道中で買った物を担ぎ、サウタージの関所へと走った。









「はーい、順番ねー」


 ノウゼンと反対方向の関所へ着くと、そこには大量の人、人、人。

 そんな人々を、門番が誘導をしている。


 もともと人が多いから、関所も混んでいることは普通だろう。

 しかし、行き交う人々の顔色がおかしかった。


「焦ってる……?」


 何かに追われるように、何かから逃れるように門から出ている。

 丁度前にいた商人に話を聞いてみると、怯えた顔をして首を振られた。


 明らかにおかしい。


「……レオン」


 声を潜めてポケットにいるドラゴンに話しかける。

 もぞもぞとした感覚から、レオンの意識がこちらを向いたことを悟る。


「先に逃げて」


『クル』


 小さな鳴き声と共に、ポケットの中の温もりが消える。


 あの賢いドラゴンは、きっと門の外へ行けただろう。

 私も急いで出ないと。



 カーンカーンカーンッ 



「!」


 この鐘の合図は……。


「モンスターよ!!」


「どうしてここに!?」


「助けてくれッ!」

 


 バサッ バサッ



 門の上で羽ばたく一頭のドラゴン。

 レオンとは異なり、知性を感じられない。


 凶悪な顔でこちらを見る姿は、まさにモンスターだ。


 そのモンスターと目が合う。


「あ」


 本能的に悟る。

 私は、このモンスターに食べられる。


 一直線にこちらへ飛んできたモンスター。


(レオン、ごめん)


 心残りは、あの小さくなったドラゴン。

 とうとう、呪いを解いてあげることはできなかった……。


 

 ギャウウウウウゥゥ



「?」


 ズサアァァという音が聞こえ、周囲に砂が舞う。

 

 目を開けると、そこにはひれ伏したモンスターがいた。


「一体何が……」


 混乱していると、モンスターの背に誰かが立っていた。

 灰色の髪は太陽を反射し、キラキラと輝いている。


「………あ」


 光を背負った彼は、躊躇なくモンスターを踏みつける。


 ギャウウゥ


 可哀想な鳴き声に、思わず同情する。

 しかし、自分の心配をするべきだと思い直す。


「ゆ、ユランさん」


「ああ」


 逆光で表情がわからないのが、恐ろしさに拍車をかけている。 

 

「その、元気そうで良かった!」


 これが、私の最期の言葉になった。





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