27 旅の候補者
ノウゼンという集落は、それなりに人が行き交っている。
以前住んでいた集落とは対照的だ。
長老やポールのことをふと思い出す。
「おい、離れるな」
「あっ、すみません」
思い出にひたっていると、前を歩いていたユランが振り返って来た。
今日は彼に連れ出され、買い出しにきている。
「というか、なんで買い出しに?」
横を歩くユランに、疑問だったことを聞く。
食事なら宿ですればいいし、服も事足りている。
一体なにを買おうとしているのか。
「お前は防寒具を持っていないだろう」
「…………」
まって、嫌な予感が……。
「まさか……私を雪山に連れて行く気ですか?」
「?」
「なにを当たり前のことを」っていう顔をするんじゃない!
本気でこの人は雪山に行く気なのか?!
デルフィーとかいうモンスターを狩ろうとしてない?
それを首輪の材料にするとか言ってなかった?
「え、いや、首輪は作らないって言いましたよね?」
「ああ」
そうだよね、首輪のキャンセルはあの時ちゃんとしたよね?
「それなら、雪山に行く必要はないのでは……?」
「一応、行くだけだ」
(一応ってなに!?)
色々と渋滞している。
首輪を諦めていなさそうなユランも問題だが、一番は今後の旅に私を連れて行く前提なのが問題だ。
「あのー、寄りたいところができたんですけど……」
「後で行くぞ」
別行動を決して許してくれない彼は、私を伴って計5件の店をはしごした。
「やあ、昨日ぶりだね」
昨日も訪れた“ダルク”の支部では、前と同じようにデイルが出迎えてくれた。
そして、奥の部屋まで案内される。
「頻繁に来すぎだって言いたいんですね」
「いいや?君とたくさん会えて嬉しいよ」
貴公子の笑顔に、胡乱な目をしてしまう。
この顔で世の女性陣を魅了しているのかと思うと、微妙な気持ちになる。
「そんなことより!」
「そんなことより」
どこか残念そうなデイルは、テーブルにあったお菓子を口に運ぶ。
呑気な彼とは対照的に、私は焦りを隠せない。
「……ユランさんが旅の準備をし始めました」
「なるほど~」
「それも私の分もしっかり準備してます」
「うんうん」
「お金がもったいない!」
「え、そこ?」
デイルは思わず、手に持っていたカップをテーブルに置く。
目を瞬かせている彼に、切々と訴える。
「旅に行かない私の分まで準備するなんて、時間もお金ももったいないじゃないですか」
「う~ん、そこよりも気にすべきなのは君があいつから逃げきれるかなんだけどね」
彼の口から零れた言葉に目を光らせる。
よくぞ言ってくれたと、両手を腰にあて胸を張る。
「その点はもう心配いりません!」
「うん、不安だねぇ」
ドヤ顔の私と、不安そうなデイル。
対照的な二人の会話はそのまま続く。
「じゃじゃーん!コレです!」
ポケットから出てきたソレに、デイルは首をかしげる。
「御守り……かな?」
袋型の御守りには、刺繡が施されていた。
「『竜禍祈願』です!」
「うん、ネーミングセンスもなかなかだねー」
竜禍を希っているような名前に、デイルは微妙な感情を抱く。
本人は知らないのだろうが、彼女の祝福の竜禍は稀な例だ。
つまり、この祈願は怨念の竜禍を希っている文脈になるのだが……。
(まあ、本人は満足そうだからいいか)
大人なデイルは、その事実を胸にしまった。
気を使われたことは露知らず。
私は堂々とこの『竜禍祈願』のプレゼンテーションをする。
「これを持ち歩くことで、ユランさんは竜禍を抑えることができます!」
「おお~」
全然感動していなさそうなデイルに構わず、話を続ける。
「つまり、あの人が私を傍に置く必要もなくなるということです!」
あの厄介な竜禍を抑え込むことさえできれば、私はお払い箱になるのだ。
あの人だって、いつまでも一般人を引き連れていては狩りも満足にできないだろう。
この御守りは、お互いにウィンウィンな物なのだ。
「それはどうかなー」
「うるさいですよ、外野!」
野次を飛ばしてきた彼をおさえこみ、私たちは今後の作戦を話し合う。
話し合いの間、終始デイルがニヤニヤしていたことが少し引っかかった。
そして、とうとう別れの時が目前になった。
ノウゼンに、“ダルク”のリーダーがやってきたのだ。
彼は数名の狩人を引き連れてやってきた。
丁度、“ダルク”の支部にいた私とユランはその様子を見守っている。
(うんうん、計画通り)
リーダーがノウゼンに狩人たちを連れてくるところまでは話で聞いていた通りだった。
しかし、その狩人たちが全員女性であることは知らなかった。
あと、想定よりも連れてきた人数が多いことも気になる。
(後でリーダーに聞いてみるか)
平然を装ったまま、私はユランから渡されていた雪山のパンフレットを見る。
隣に座っているユランは、同じテーブルで謎の飲み物を飲んでいた。
“ダルク”の支部は入口の部分が酒場のようになっているため、飲食可能だ。
なかなか、いい場所だと思う。
ヒュ~ヒュ~~
少し離れた場所では、リーダーが連れてきた女性たちに歓声が上がっている。
あの様子からすると、彼女たちは有名な狩人なのかもしれない。
いや、そんなことより―――。
「だ、ダイナマイトボディだ……」
思わず心の声が零れてしまったが、本当にそうなのだ。
3人ほどいるが、どの人もとても目に付く体をしている。
加えて、露出が多い恰好をしているのだ。
パンフレットなんて見ている場合じゃない。
(わぁ~~)
盗み見ではなく、もはやガン見をしてしまう。
じっと見ていると、目の前に雪山が現れた。
「うぇ!?」
目前にある雪山の解説文字に、目を白黒させる。
すると、耳元に生暖かい空気が触れた。
「おい、どこを見ている」
「ひぃいいっ!」
耳元に囁かれた声に鳥肌が立つ。
横を見ると、間近にユランの顔があった。
眉間にしわを寄せてたその顔に、自分がマズいことをしたのだと悟る。
「い、いやぁ~、キレイな人たちですよね~」
視線をテーブルに逸らしながら、慎重に話題を振る。
彼女たちの誰かが、この御仁と旅をすることになる。
狩人同士であれば狩りもしやすいだろうし、話も合うのではないだろうか。
「ああいうのが好きなのか」
「うん?」
少し探ってみようと振った話だったが、思ってた反応と違った。
好きってなんだ、好きって。
「一体なんの話をしているんですか?」
「あいつらを見ていただろう」
彼が差している指先には、三人の美女がいた。
改めて見て思ったが、美人かつ狩人なの人生勝ち組すぎて笑えてくる。
神様!天が二物を与えてますよ!
「まあ、目の保養ですよね」
うっとりと彼女たちを眺める。
すると、頭をガシッと掴まれた。
「うぐ」
そのまま頭を回転させられ、ユランと顔を突き合わすことになる。
至近距離にある瞳は、驚くほど真っ黒だ。
おかしいなぁ、この人の目の色は灰色のはずなのになぁ。
(闇落ちした目をしているんだけど!?)
蛇に睨まれた蛙のように固まっていると、背後に誰かの気配を感じた。
「ユラン、ちょっといいか」
(リーダー……!)
どうやら女性たちの歓迎が終わったようだ。
今度はこの闇落ちしている御仁に彼女たちを紹介しようとしているのだろう。
「邪魔だ」
「まあ、そう言うなって」
ユランの気が逸れた隙を狙い、瞬時に席を立つ。
「じゃあ、私は奥で待機しておきます!」
「おい」
不機嫌そうなユランを残し、私は奥の部屋へと向かった。
「よろしくね、ユラン」
燃え上がる炎のような髪をした女がユランの肩を触る。
バシッ
「触るな」
その手をにべもなく払いのけ、ユランはイアの後を追おうとする。
しかし、周囲を三人の女が囲んでいる。
一瞬、殺してしまおうかと考えたがやめておいた。
ユランの脳裏に、あの臆病者の顔が思い浮かんだから。
「ユラン、こいつらと親睦を深めておけよ」
「殺すぞ、クソ爺」
「おー、ひでぇ」
笑っているリーダーだが、ユランをこの場から立ち去らせないようにしていた。
女たちだけでなく、周囲のテーブルからも視線を感じる。
どうやらこのクソ爺は、すでに包囲網を敷いていたらしい。
「チッ」
顔をしかめ、体に触ろうとしてくる女共の手を払いのける。
「ねえ、ユラン~」
「この後、時間ある?」
「今夜、アタシと過ごさない?」
ユランは何かを話している女たちを放置し、思索に沈んだ。
この場から去った、あの臆病な獲物をどうしてやろうか。
あの小さな頭で何かを企んでいることはわかっている。
あとは、じっくり追い詰めればいい。
ユランはひっそりと、口の端を吊り上げた。




