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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
26/48

26 執着


 ある宿の一室に、ベッドの上に正座した人間とそれを仁王立ちで詰めている人間がいた。


「なぜ部屋を出た」


「す、すみません……」


 “ダルク”の支部から連れ出された私は、ユランにお説教されていた。


「ユランさんは狩りに行ってるし、暇だなって……」


 嘘である。


 本当は目的があった。

 ユランがいない間に、どうやってこの旅を離脱するかを相談しようと思ったのだ。


 できるだけユランにバレないように離脱するために。


 え?どうしてバレないようにする必要があるのかって?



「外に出るなと言っただろう」



「はい……」


 これだよ、これ!


 最近しばしば感じていたが、異常な執着を私にもっている気がするのだ。

 おそらく、竜禍を和らげる過程で依存性を獲得してしまったのだろう。


 簡単に言うと、私は鎮静剤として優秀だったということだ。

 ……嬉しくないっ!


「好きな色は」


「……え?」


 急な質問に、思考が停止する。

 もしかして、もうお説教をやめてくれるのだろうか。


 そんな僅かな希望を抱いた私が悪かった。


「うーん、……白ですね!」


 強いて言うと、好きな色は特にない。

 でも、こういう時に「なんでもいい」というのは相手が困るだろう。


 とにかく、これ以上詰められるのは嫌だ!


「そうか」


「はい!」


 逃げ切った……!



()()の素材はデルフィーでいいか」



「……は?」


 不穏な言葉に耳を疑う。

 この人は今、何の話をしているのだろうか。


 デルフィーってなんだ。

 一体なんのモンスターだ。


「次は雪山に行くぞ」


「いや、待って待って」


 話についていけない。

 

 なぜ雪山?

 もしかしなくても、デルフィーっていうのが雪山に生息しているのか?


「首輪!?」


「ああ」


 平然と頷くユランに恐怖を覚える。


「誰に!?」


「お前に」


 淀みなく答える彼の目は、とても澄んでいる。

 とても冗談を言っている人の目じゃない。


「ワッツアップ!?」


「何を言っているんだ」


 正気じゃない人からツッコミを入れられた。

 屈辱でしかない。


 それはこっちのセリフだ!


「いやいやいや、ユランさんの方が何を言っているんですか!」


「お前につける首輪のことだろう」


「正気じゃない!」


 一体なぜそうなったのか。


 彼は私に首輪を贈ろうとしている。


 いや、まて。

 これは聞き間違いかもしれない。


「あ、ああ、()()()と間違えたんですよね?ね!」


 一縷の望みをかけた質問を投げかける。

 彼は贈り物とかしたことなさそうだし、言い間違えたんだ。


「いや、首輪だが」


「オーマイガー!」


 発狂している私を不審な目で見てくるユラン。

 真の狂人は彼だというのに。


「ちょっと、一旦話し合いましょう」


「?」


 ベッドの上で頭を抱え込み、目の前の御仁をどうするか脳内会議する。

 瞬時にでた結論は、「無理」だった。


 いや、諦めたらそこで終了だ。

 そう、その他諸々が終了してしまう。

 人生とか、人生とか、……人生とか。


「なぜ私に首輪を……?」


 そうだ、使用用途を聞いていなかった。

 彼にとって、首輪は装飾品かもしれないじゃないか。


 所変われば品変わるっていう言葉もあるし!


「お前の位置を知るためだ」


「ダメだ!GPSだった!」


 この人、首輪に追跡用の魔石を埋め込む気だ。

 市場で見かけたあの魔石を埋め込まれそうになるなんて思いもしなかった。


 あの魔石を見て「あ~GPSみたい~」なんて思ってる場合じゃなかった。


「わかりました」


 すべてを悟り、目の前の人物を見据える。


「何がだ」


 不思議そうな彼は、こちらの決意がわかっていないようだ。


「これから、ユランさんが言ったことは絶対に守ります」


「……そうか」


 満足気な彼に、私はひっそりと決意を固める。


 絶対にこの人から逃げよう、と。






 その後、なんとか首輪のキャンセルをすることができた。



















「デイルさん!ヤバいです!」


「うん、来て早々に賑やかだね」


 もう一度“ダルク”の支部に訪れた私は、即刻デイルに報告した。



 例の首輪事件のことを。



「ぶっ飛んでるね~」


「いや、感心してないであの人どうにかしてください!」


「無理」


「だと思いました!」


 本人をどうにかすることは諦め、私たちは現実的なことを考えることにした。


 ちなみに、ユランもこの支部にいる。

 ただ彼は人気者だから、入口で狩人たちに捕まった。

 図らずも、支部の狩人たちが足止めをしてくれている。


「さて、君はここで旅を離脱するんだよね?」


「はい」


「でも、ユランの執着がヤバいと」


「……はい」


 互いに顔を見合わせ、無言の時間が流れる。

 なんだろう、諦めろという圧を感じる。


「ちなみに、あいつに前もって伝えたりは―――」


「しません!」


「だよねー」


 あの人に伝えたが最後、私は首輪をつけられて監禁される。

 絶対にそうしてくる。


 そうせざるを得ないほど、彼の竜禍は激しい痛みを伴うのだ。


「竜禍を抑える方法は、他にないんですか?」


「う~ん、人間同士の方が効果が高いんだけど、一応物でも効果はあるよ」


「!」


 つまり、私がいなくても物で代用できる可能性があるということか。


「でも、その物はドラゴンがよっぽどの思い入れをもってないといけないからなぁ」


「私が持っている物で、竜禍を纏ってそうな物はありませんか?」


 デイルは下から上へ私を観察する。

 顎に手を当てて悩む彼に、祈るような視線を送る。


「そうだな―――」


 彼の言葉に、私はユランへの餞別を決めた。

 私がいなくなっても、彼が竜禍で苦しまないための餞別を。










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