25 終着点まであと少し?
記憶の一部を取り戻したユラン。
希望の兆しが見え始めた彼との旅は、終わりが迫っていた。
「ユランさんは、また狩りか……」
切り株に腰掛け、耳を澄ます。
サァァーーー
耳の横を風が通り過ぎ、木々が揺れる音と小鳥のさえずりが聞こえる。
どうやら、ここは穏やかな森のようだ。
ユランによってこの森に運ばれ、ここに放置された。
こうされることはもう慣れたが、手持ち無沙汰で困る。
『クルルッ』
「!」
近くから聞こえてきた声に、目を見開く。
「レオン!」
『クル~』
手のひらサイズのドラゴンが、こちらに飛んできた。
このドラゴンが来たということは、ユランは遠くへ狩りに行ったようだ。
「一緒にいれなくてごめんね……」
『クルー』
「気にするな」とでも言うように、頬に顔をすりつけてきた。
肩に乗った可愛い相棒に、自然と頬が緩む。
「でも、大丈夫。もう少しだから」
『クル?』
首をかしげるレオンに、そっと頬を寄せる。
すると、レオンはその頬を舐めた。
「あははっ、くすぐったい!」
小さなドラゴンと戯れながら、リーダーとの会話を思い出す。
ユランと旅に出る前。
「本当にいいんですね?」
「ああ」
半信半疑の私に、“ダルク”のリーダーはしっかりと頷く。
「ユランが記憶を一度でも思い出したら、お前さんを解放する」
彼は解放だけでなく、私がドラゴンと共にいることもダルクの支部を少し燃やしちゃったことも不問としてくれることを約束するとも言っていた。
「その……いろいろ大丈夫なんですか?」
こちらに都合が良すぎる条件に、思わず様子を窺う。
「まあ、問題ないとは言えねぇよ」
「ダメじゃないですか!」
頼りない言葉に、口からツッコミが出る。
「だが、問題があるとも言えねぇよ」
「どっちなんですか!」
「ハッハッハッ!」
上手くお茶を濁され、私はそのまま旅立った。
「次の集落で……」
私はこの旅を抜ける。
私の後は、おそらく“ダルク”の誰かが引き継ぐ。
多分、デイルあたりが引き継ぐのではだろうか。
「ユランさんの体力はえぐいから……」
生半可な狩人なら、彼のペースについていけない。
私が一般人だから、あの人は手加減しているのだろう。
『クルル?』
肩から膝の上に移動したレオンが、上目遣いでこちらを見てきた。
「いや、あの人のヤバさを思い出してただけだよ」
『クルルル~』
背中を撫でると、レオンが満足げに鳴いた。
暫くすると、膝の上にいたはずのドラゴンが消えていた。
いつの間に消えたのだろう。
「おい」
「うわあっ!」
切り株から飛び上がる。
そして、急いで振り返るとそこにはユアンがいた。
毎度のことだが、気配を消して近寄らないでほしい。
「行くぞ」
「狩りは終わったんですか?」
平常運転の彼を観察してみるが、返り血を浴びている様子がない。
狩りに行っていたはずでは?
「ああ」
「へえ~、何を狩ったんですか?」
血だらけで帰ってくることが多い彼が、ここまでキレイな状態なのは珍しい。
あと、手ぶらなのも珍しい。
「モンスターではないな」
「ん?じゃあ、野生動物……?」
近寄って来た彼から、独特な鉄の臭いはしない。
手を汚さずに狩りをしたのだろうか。
でも、狩ったはずの獲物も持っていないし……。
「さあ、どうだろうな」
「うわっ」
横に抱き上げられ、体を浮遊感がおそう。
「ちょ、急にやるのやめてください!」
「口を閉じろ、噛むぞ」
「むぐ」
瞬時に口を両手で押さえる。
こういう忠告には従っておいた方がいい。
……経験則的に。
陽が傾いていくのを横目に、景色が次々と変わっていく。
相変わらずの俊足で、私たちは夜になる前に到着することができた。
……別れの地になる集落、ノウゼンに。
ノウゼンに着いた次の日。
私は、この集落にある“ダルク”の支部を訪ねた。
そして、そこで出迎えてくれたのは予想通りの人物だった。
「やあ!久しぶりだね」
「あ、デイルさん」
近くのテーブルにいた彼が、こちらにやってきた。
テーブルにいる人や壁に凭れている人がこちらを見てくる。
「あいつは?」
「狩りです」
「だろうねぇ……」
狩り狂いのユランに、お互い苦笑する。
「ここじゃなんだから、奥にいこっか」
ジロジロとした視線に気まずくなっていると、デイルが助け舟を出してくれた。
こういう気配りができるのが、この人の良い所だ。
針の筵から逃れるように、私は彼についていった。
こじんまりとした部屋に入り、腰を落ち着かせる。
目の前のテーブルには、デイルが入れてくれた飲み物が置かれていた。
「で、進捗はどう?」
ユランの記憶のことを聞いているのだろう。
残念ながら、あの洞窟以外では記憶が戻ることはなかった。
「前に連絡した状態のままですよ」
「そうじゃなくて」
「?」
どうやら記憶のことではないらしい。
他に、何かあっただろうか……?
ニコニコ……いや、ニヤニヤしている彼に嫌な予感を覚える。
「ユランとは、どう?」
「いや、どうと言われても……」
どうもしない。
「男女が一緒に過ごしてるんだから、何かしら起きてるんじゃない?」
「ありえませんね」
「即答」
「あのユランさんですよ?」
狩り一筋の彼のことだ。
ハプニングのハの字もあるはずがない。
「でも、一緒に寝てるんでしょ」
「あれは竜禍対策です」
傍にいるだけでも、竜禍を抑え込むことができるのだ。
私はただの安定剤として横に置かれているだけ。
「えー」
「一体なにを期待してたんですか……」
不満げなデイルにゲッソリする。
超絶美人だったら可能性はあったかもしれないけど、平凡な一般人にはない。
そもそも、あの人に狩りたいという欲以外の欲望があるのか怪しい。
「イアちゃん、あいつがなんでドラゴンを狩りまくってたのか知ってる?」
「いや、知らないです」
ただ、突然狂ったようにドラゴンを狩りだしたということしか知らない。
デイルは前屈みになり、身をこちらに乗り出す。
そんなに近寄ってこなくても、聞こえるのだが。
「竜禍ってさ、祝福と怨念の2種類があるよね」
「そうですね」
ドラゴンと良い縁を結べば祝福の竜禍に、悪い縁を結べば怨念の竜禍になる。
そして、私は祝福の竜禍を纏い、ユランは怨念の竜禍を纏っている。
「その二つが互いに打ち消し合うことも知ってるかな」
「知ってますよ」
私があの人の傍にいる理由がそれだ。
じゃないと、あんな超人の傍にいるわけがない。
「じゃあ、その二つが互いに引き寄せ合うことは?」
「……え?」
引き寄せ合う……?
新しい事実に、衝撃を受ける。
そして、その事実から導き出せそうな事実に手を伸ばしかけた時。
バンッ
「!?」
「おいおい、優しく開けてくれ」
開け放たれたドアの方を見る。
「ユランさん……」
「帰るぞ」
腕を掴まれ、部屋の外へ連れていかれる。
その途中でデイルが視界に入ったが、彼はひらひらと手を振るだけだった。
まるで、こうなることを知っていたかのようだ。
私は引きずられるまま、宿の部屋まで連行された。




