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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
24/48

24 記憶の断片



「こっちだ」


「ゼェ……ハァ……」


(体力無尽蔵……?)


 すいすいと進んでいくユランの背を疲労困憊で追う。

 こんな獣道を平然と歩くなんて、流石狩人だ。


「おい」


「!」


 いつの間にか、目の前に彼が立っていた。

 まずい、この流れはよくない。


「いやっ……だい、じょぶ、です……」


「日が暮れるぞ」


(正論……!)


 息切れと正論のせいでぐうの音も出ない。

 そして、これからされるであろうことに諦めの境地になる。


 グイ


「…………」


「行くぞ」


 横抱きにされた私は、すごい速さで変わっていく景色を眺めた。

 本当に、新幹線に乗っている気分だった。








 旅は順調だった。


 雲海に浮かぶ赤い山、白い雪が舞い散る青い湖、巨大な滝。

 多くの絶景を眺めた。


 ……まあ、その絶景の分だけ命の危機があったけど。


「記憶は戻りました?」


「……いや」


「そうですかー」


 宿の部屋では、ユランが双剣を磨いている。

 一方、私はベッドの上で本を読んでいた。


 こうして同じ空間で過ごすことにも慣れた。


「……そろそろ部屋は別に―――」


「しない」


「そ、そうですか」


 揺るぎない声にたじろぐ。


 こうして同じ部屋で過ごしているのには理由がある。

 それは、彼が時々苦しみだす時があるからだ。


 特に、夜が酷かった。


「今は大丈夫そうですか?」


「ああ」


 部屋の隅にいる彼は、確かに安定している。

 しかし、容態が急変する可能性は消えていない。


 本をベッドの横にある机に置く。

 そして、壁に凭れて地べたに座っているユランのもとへ行く。


「一応、しておきますか」


「……わかった」


 私はユランの隣に座る。

 彼はこちらに手を差しだしてきた。


 その手を握り、目を閉じる。



 じわじわと、ユランの竜禍が手から伝ってきた。



 ユランが苦しむのは、この竜禍のせいだ。

 怨念の竜禍は人間の体を蝕む。


 だからこそ、祝福の竜禍をもつ私がそれを中和しなければならなかった。 


「よし、もう十分―――」


 放そうとした手が掴まれる。


「まだだ」


「は、はい」


 中和行為が延長され、浮かせた腰をおろした。

 もう十分、竜禍を抑えたはずなんだけど……。


 気まずげな私を、ユランはじっと見つめた。























 旅は順調に続いた。

 しかし、ユランの記憶は一向に戻らなかった。


「一度、リーダーのとこに戻ったほうがいいかも……」


 ある洞窟の中で、私は鍾乳石に向かって言う。

 石に話しかけだした自分にヤバさを感じる。


 ゴキッ


 後ろからえげつない音が聞こえてきた。

 多分、ユランが獲物の骨を解体しているのだろう。


「まさか大蛇が住みついているとは……」


 かつてユランが訪れたこの洞窟に、大蛇がいるとは聞いていなかった。

 狩人が行った場所だから、モンスターはいるだろうとは思っていた。


 でも、こんなバカでかい蛇がいるとは思わなかったよ。


「ユランさん」


「なんだ」


 グチャ


 彼の解体が肉の部分に移ったようだ。

 とても瑞々しい音が聞こえてきた。

 

「記憶は戻りました?」


「いや」


「マジかー」


 こんなジメジメした場所で、大きな蛇に追い回されたのに、収穫なし。


 片手を額に当て、天を仰ぐ。


「………あれ?」


 洞窟の天井に不自然な窪みがあった。

 よく見ると、何かに切られたような跡だった。


「ユランさん、あの跡すごいですよ!何かに切られたみたいになってます!」


 自然が創り上げたであろう偶然に興奮する。


「…………」


「ユランさん?」


 無言の彼が気になり、後ろを振り返る。

 そして、足元に解体途中の大蛇が目に入ってしまった。


(おおう……)


 綺麗に解体されているから、そこまでスプラッタな状態ではなかった。

 ただ、けっこう衝撃的な絵だ。


 かつて蛇だったソレに手を合わせていると、ユランがこちらを向いた。

 もう天井を眺めるのに満足したのだろうか。


「俺だ」


「……ん?」


 突然のオレオレ詐欺に戸惑う。

 まさか対面でそんな詐欺をされるとは思わなかったなぁ。


「あれは俺がやったものだ」


「……は?」


 天井を見る。

 だいぶ上の方にある天井には、100mは優に超えている斬撃のような跡。


(嘘でしょ……?)


 ユランの背にある双剣の刀身は1mもない。

 あんな跡を残せるはずがないのだ。


「狩人になりたてのガキの頃だ」


「……ご冗談を」


 まったく笑えない話だ。

 この人は幼少期からとんでもない御仁だったのか。


「ここの(ぬし)を狩る時にできた跡だろう」


「うへぁ」


 信じがたい話に、声ともつかない鳴き声が口から出る。

 本当に信じがたい話だけど、この人ならやりかねないことが恐ろしい。


「多分、この頃に“ダルク”の奴らに拾われた気がする」


「へぇ~」


 ユランの人外っぷりに呆けていると、ふとあることに気が付く。


「あれ?ユランさん、記憶が……」


「昔のことなら、思い出してきた」


「!!」


 急な展開に、全身が固まる。

 そして、急いで洞窟を後にした。





















 近くにあった村に行き、通信石を貸してもらった。

 そして、ユランの記憶が少し戻ったことを“ダルク”に連絡した。


「リーダー、泣いて喜んでましたね」


 宿屋の食堂で食事をしながら、ユランに笑いかける。

 

「鬱陶しい」


 苦い顔をしている彼は、大きな焼かれた肉塊を噛みちぎった。

 この世界の料理は、けっこうワイルドなものが多い。


「まあまあ、ユランさんのお父さん的な存在ですし」


「……クソ爺が」


「なっ、口が悪い!」


 旅を共にする中で知ったことだが、彼は意外と口が悪い。

 初めて会った時は、無口な印象だったのに……。


「事実だ」


「あははっ、リーダーはまだお爺さんじゃないですよ」


 辛辣な言葉に、思わず笑みが零れてしまった。

 なんだか、彼とリーダーとの間に一種の親密さ感じたからだ。


「…………」


「な、なんですか?」


 ふと前を見てみると、ユランがじっとこちらを見ていた。

 謎の圧にたじろいでしまう。


「……いや」


「そうですか~」


 逸れた視線に安堵の息を吐き、サラダを口にする。

 うん、とても新鮮でおいしい。





 私は気づかなかった。

 彼の瞳に、熱が孕んでいたことを。


「……まだだ、今はまだ」


 ハムスターのようにサラダを頬張る獲物に、ユランはそっと唇を舐めた。



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