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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
22/48

22 竜禍



 モンスターの毒に侵されたユランの状況は、想像より深刻だった。


「ドラゴンの毒……?」


「ああ、そうだ」


 ユランが眠る部屋の隣で、私は“ダルク”のリーダーと向かい合っていた。


「他のモンスターの毒とは、なにか違うんですか?」


 ドラゴンの毒と他のモンスターの毒とでは、何か違いがあるのだろうか?


「ドラゴンの毒は解毒薬がない」


「はい」


 それは医者も言っていた。

 自然治癒のみが現状でとれる唯一の手段だと。


「そして、ドラゴンの毒は自然治癒では治らない」


「え?」


 医者は、自然治癒を待つしかないと言っていた。

 それなのに、自然治癒では治らない……?


「先に聞いておきたいことがある」


「……なんですか」


 リーダーが真剣な眼差しを向けてきた。

 

「お前さんは、ユランを恨んでいないのか」


「どういう意味ですか……?」


 急な質問に、意図がわからず困惑する。

 今まで、ドラゴンの毒について話していたのでは?


「……船でクラーケンに襲われた時」


「!」


 レオンを捕らえた、あの時のことか。


「お前さんを海へ突き落したのはあいつだ」


「…………」


 リーダーが目を伏せる。

 夜風に吹かれたランプが揺れる。


「だが、その指示をしたのは俺だ」


「…………」


 視線が交じり合う。

 彼の瞳には、確固とした意志があった。


「恨むなら、俺にしてくれ」


「…………」


 彼は許しを乞うてはいないのだ。

 ただただ、恨むなら自分にしろと言っている。


「それで―――」


「じゃあ、ドラゴンの存在はどうやって知ったんですか?」


 何かを言おうとしたリーダーを遮る。

 このことだけは、どうしても知りたかった。


「あのドラゴンが私を助けると確信したのはなぜですか」


「…………」


 今度はリーダーが沈黙する。

 それもそうだろう。

 彼にとってこの質問は都合が悪い。


「ユランさんが、あなたに教えたんですよね」


「…………」


 あの人は勘のいい人だ。

 あの集落でレオンの痕跡を見られた時から、こうなる運命だったのだ。


 あの人が今まで黙ってくれていたのも、ただの気まぐれだったのだろう。


「それとも、あなたも気づいていたんですか」


「……情報はユランからもらった」


 やはり、そうだったのか。

 あの人はあの時、私とレオンに見切りをつけたのか。


「そうですか」


「だが……!」


 言い募ろうするリーダーに笑いかける。


「大丈夫ですよ」


「………?」


 困惑する彼をそのままに、私は席を立つ。


「ちゃんと協力します」


「!」


 彼が驚いたのは、果たしてどちらの意味だろうか。

 彼の要求を先読みしたからか、それともあっさり協力すると言ったからか。


「私にしてほしいことがあるんですよね?」


 そう言いながら、私は窓の前に立った。


「……ああ」


 背後から聞こえてきた返事に、目をそっと閉じる。

 ……また、レオンに負担をかけることになるのか。


「……あいつの傍にいてくれないか」


「?」


 想定外の言葉に、思わず振り返る。


「なんだ?俺が、お前さんのドラゴンの血がほしいと言うとでも思ったか?」


 椅子の背に腕をかけ振り返っている男は、ニヤリと笑っている。

 バッチリと視線が合ったことに気まずくなり、私はそっと視線を逸らした。


「……正直、そうかと」


「ハハハ!」


 陽気に笑うリーダーに、バツが悪くなる。


 本当は、ドラゴンの毒について知っていた。

 伊達に図書館に通い詰めていない。

 ドラゴンについての文献だって手に取ったこともある。

 解毒のためにドラゴンの血が必要なことも知っていたのだ。


 だからてっきり、彼はレオンの血をよこせと言うだろうと思っていた。


「なら、どうしてあなたを恨めと言ってきたんですか」

 

 思わず、拗ねているように質問してしまった。

 こちらが主導を握っていたと思っていた話が、実は相手のものだったのだ。

 多少恥ずかしくなってしまうのも仕方ないと思う。


「そりゃあ、これから一緒に過ごす相手を恨むのは疲れるだろう?」


「……それは決定事項ですか」


「協力すると言っただろう」


「くっ……!」


 協力すると言わなければよかったと強く思った。

 レオンの血を分けてもらって、すぐに解毒して終わりだと思っていたのだ。

 

 まさか、あの人と一緒に過ごさないといけなくなるとは思いもしなかった。


「いや、どうして私があの人と一緒に過ごさないといけないんです」


 椅子を揺り籠のように揺らしてくつろいでいるリーダーを問い詰める。

 私がいても、あの人の状態異常が和らぐことはないのに。


「それはだな、お前さんが()()を纏ってるからだ」


「りゅうか?」


 一体なんなんだ、それは。


 目を丸くしていると、彼はしまったという顔で頬をかいた。


「……あー、これ、言ったらダメなやつだったわ」


「……え?ちょっ、巻き込まないでください!」


 不穏な言葉に、慌てて耳を塞ぐ。

 大丈夫、私は竜禍なんて言葉を聞いたことも見たこともない。


「まあお前さんは特異だし、いいか」


「よくない!」


 耳を塞ぐという足搔きも虚しく、私は竜禍について教えられた。




「―――つまり、竜禍はドラゴンと何らかの縁をもつと纏うことになると」


「そうだ」


 説明を聞くうちに、竜禍はドラゴンの祝福であり呪いでもあるんじゃないかと思った。


 竜禍によって、身体能力が格段に向上することもあれば著しく衰えることもある。

 これは、ドラゴンとの縁の結び方によって変わるらしい。

 

「私の場合はいい縁の結び方で」


「ユランの奴はヤバい縁の結び方だったってことだ」


「なるほど……」


 私とレオンの関係は、確かに良好だ。

 なにせあっちは、私を守るべき存在だと思っているようだし。

 これはいい縁と言える。


 一方、ユランは“ドラゴン狩り”という二つ名がつけられるほどドラゴンを狩っている。


「……あれ?じゃあ、今のユランさんの状態はドラゴンの毒のせいじゃなくて竜禍のせい?」

 

 竜禍という言葉を知った今、ひとつの疑問が浮かんでくる。

 ドラゴンの毒であれば、ドラゴンの血で解毒できる。

 ……でも、竜禍は?


「私にドラゴンの血を要求しなかったのは、毒じゃなくて竜禍が原因だったから……?」


「ゴホンッ、まあそれは置いといて」


「…………」


 ジトッとした目でリーダーを見る。

 不自然に咳をし始めた彼に、なるほどと納得する。


 彼がレオンの血を求めなかったのは、竜禍がドラゴンの血では治らないからだ。


「竜禍は大まかに祝福と怨念の二つがあるんだ」


 名前を聞くだけでわかる。

 ユランは、怨念の方の竜禍なのだろう。


「この二つは対で、互いに打ち消しあう関係にある」


「それで、私の祝福の竜禍が必要だと」


「まあ、そういうわけだ」


 どうやら、私は酸性にぶち込まれる塩基性要員らしい。

 中和剤として、これから働かないといけないようだ。


「はあ、わかりました……」


 港町で“ダルク”の建物の一部を爆破した負い目もある。

 彼の頼み通り、瀕死のあの人を看病することになった。


「ユランを頼む」


 そう言って、リーダーはこの宿を去った。







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