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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
21/48

21 状態異常の再会


 木々がなぎ倒されたある山のなか。

 えぐれた地面が物語っているのは、ここで激しい戦闘が起こったこと。


 この爪痕はすべて、ユランという狩人が残したもので間違いない。


 そして、ユランという危険人物の回収にきた私たちはある問題に対峙していた。

 


「ユランさん、いないんですけど!?」


 そう、肝心の彼がいないのだ。

 この山のどこを探しても、全然見つかる気配がない。


「どっかに移動したか……?」


 冷静に場を分析しているオーウェンと、あわあわと周囲を歩き回る私。

 そして、足元も見ずに歩き回っていた私に悲劇が起こる。

 

 グチャッ


「…………」


「あー、その、足元は見ずにこっちに来い」


 彼の指示通りに動き、直立不動になる。

 チラッと見えた靴には、真っ赤な何かがついていた。

 そういえば、ここら一帯はなんだか生臭いと感じていたことを思い出す。


 ……ここで息をしているのは、私たち以外にいないのかもしれない。


「やっぱり帰りましょう!」


「いや、それは」


「これは戦略的撤退ですよ!」


「諦めろ」


「いやだー!」


 そんなやり取りをしている時だった。


 ブオン


「え、今なにか通ったような」


 ドシャアアアァァーーー


 周囲に大量の土煙が舞う。


「空からモンスター!?」


 凄まじい勢いで空から落ちてきたのは、翼をもったモンスターだった。

 一瞬ドラゴンかと思ったが、どうやらコウモリに近いモンスターのようだ。


 急な状況に目を白黒させていると、倒れているモンスターの上に何かいるのが見えた。


 土煙がおさまると、それが人だということがわかった。


「も、もしかして……」


「お出ましか、ユラン」


 苦々しくそう言ったオーウェンを見て、そういえば彼はユランという人物に憧れと嫉妬と憎しみを抱いていたなと思い出す。


 人間関係って難しいと思っていると、ユランという人物の顔を見て固まった。


(なんで、どうして)


「狩人さんがここに?」


「!」


 その言葉に反応したユランと呼ばれる人物は、一目散にこちらへやってきた。

 急な接近に恐れおののき、目を固く閉じる。


 ガシッ


「うぐッ」


 突然、上半身が圧迫感に襲われる。

 目を開けると、誰かの胸元が目に飛び込んできた。


「ユラン!そいつを放せ!」


 オーウェンが懸命にこちらを助けてくれようとしているが、目の前の人物にはその言葉が一切届いていない。


 彼は耳が聞こえていないのだろうか。


「…………」


「……え?……え?」


 なぜ、抱きしめられているのか。

 なぜ、無言なのか。

 彼は今、何を考えているのか。


 すべてのことが一切わからないなか、私は思った。


(うん、窒息しそう)


 薄れゆく意識のなか、噎せ返る血の臭いだけを感じていた。
























「視覚と聴覚を失った?」


 オーウェンが信じられない目でこちらを見てきた。


「はい」


 ベッドに横になっている狩人さん……いやユランは、静かな眠りについている。

 今、彼はモンスターの毒によって目が見えず、耳も聞こえない。


 医者は、解毒する方法はなく自然治癒を待つしかないと言っていた。

 そして、全治しない可能性もある、と。


「療養でここから暫く動けないと思います」


「チッ、面倒をかけやがって……」


 悪態をついたオーウェンの顔は、忌々しそうであり不安そうでもあった。


 オーウェンが“ダルク”へ連絡するために部屋から出ていく。

 この宿の部屋には、私とユランだけになった。


 例の山から麓にある村へ下りてきた私たちは、すぐに彼を医者へ連れて行った。

 そして、自然治癒しか方法がないことを知った私たちは宿で暫く過ごすことになった。


「……なぜこうなるまで、狩り続けたんですか」


 呟いた言葉に返事はない。

 弱り切った彼に、複雑な思いが湧きあがる。


「心配させないでください」


 ベッドの傍にある椅子に腰かけ、項垂れた。

 

「弱った所を見せないでください」


 額に手を当て、頭痛を抑える。


「お願いだから、完全に恨ませてください」


 レオンを捕らえるために私を海へ突き落とした張本人を前に、呪詛を吐く。

 レオンが助けてくれなければ、私は本当にクラーケンに喰われていた。

 あの時に感じた、果てしない絶望。

 

 その絶望を、恨みを、お願いだから奪わないで。


「こんな姿を見たら、恨むに恨めない……」


「………ッ」


 苦し気な顔をするユランに胸が苦しくなった。

 ざまあみろと思えない自分に、心底失望する。

 自分を殺しかけた相手を、なぜ看病しているのだろうか。

 

「……でも、仕方ないか」


 彼の額にあった布を手に取る

 そして、その温くなった布を水に浸し、絞る。


「これが人だから、仕方ない」


 冷たくなった額に安心したのだろう。

 彼はまた静かな眠りについた。
























「……えっと」


「…………」


「……おい、ユラン」


 私は今、身動きが取れない状況にある。

 なぜなら、ユランのぬいぐるみになっているからだ。


 胡坐をかいた彼の上に乗せられ、背後から腹部を拘束されている。

 

「オーウェンさん、昼になったら交代しましょう」


「するかッ!」


 オーウェンはそのまま怒って出ていってしまった。


「まじか、この状態の私を見捨てるとは……」 


「…………」


 無言の空間。

 耳が聞こえていない彼に話をするのは難しい上、目も見えていない。

 彼にとって触覚だけが人を感じられる唯一の感覚だと思うと、突き放せない。


(レオン、鞄の中で大人しくしてるかな……)


 ふと、鞄で留守番しているように言いつけたドラゴンが気にかかった。

 賢いから大丈夫だとは思うけど、なんだか心配になる。


 ギュ


「ぐえ」


 腹部の拘束がきつくなった。

 一体、彼はどんな意思表示をしているのかさっぱりわからない。


「……いや、違うか」


 彼は今、本能で動いていることを思い出す。


 様々なモンスターの毒を浴びすぎて、彼は状態異常のフェス状態なのだ。

 麻痺、猛毒、精神異常、魅了、火傷、凍傷などなど。


「この人、今までよく両足で立ててたな……」


 体の頑丈さに感心する一方で、ドン引きする。

 普通の人は、こんな状態になる前に治療するのに……。


 いくら狩人が頑丈だからといっても、限度がある。


(心配になる人だ……)


 この人には色々と思うところがあったが、どうでもよくなってきた。

 まずは、この状態異常フェスティバルな人をなんとかしないと。


「……この人、治るのかな」


 医者から匙を投げられてしまった患者を目の前に、拭いきれない不安を抱いた。











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