20 リーダーと対面
“ダルク”の存在を知った次の日。
私は朝から図書館に来て、本を漁っていた。
「“遺跡の歴史”……違う。“遺跡の謎”……陰謀が過ぎる」
パラパラと中身を見てみるが、どれも私が求めている内容じゃない。
特に“遺跡の謎”はやばい。
人間は遺跡の一部であり、人の意識というものは遺跡につくられているに過ぎないとかなんとか書いている。とんでもない陰謀論の本を引いてしまったらしい。
結局、遺跡は誰が何のためにつくったのかがわからないということがわかった。
あと気になったのは、遺跡に関する文献が圧倒的に少ないことだ。
モンスターに関する文献の十分の一にも満たない量だった。
この世界の人々は、遺跡よりも狩りに対する関心の方が大きいらしい。
「あ、もう昼だ」
退屈しているであろうドラゴンのために、いいお肉を買おうと思ったのが悪かったのか。
肉屋で最悪の出会いをしてしまった。
「よお、久しぶりだな!」
「!」
懐かしい声に振り返りたくなる。
しかし、それはできない。
「は?!なんで逃げるんだよ!」
入り組んだ狭い道を駆ける。
地形をさっぱり把握していないため、がむしゃらに走る。
「おい!」
「……ッ」
腕を捕らえられた。
これ以上は逃げられない。
「ひ、人違いでは?」
「イアだろ、なんでしらばっくれるんだよ」
バレていた。
もう誤魔化すこともできない。
「……久しぶりですね、オーウェンさん」
振り返ると、オーウェンが立っていた。
“ダルク”の狩人である、彼が。
私の命運もここまでのようだ。
「ああ、久しぶりだな!」
「…………」
「……ん?」
「え、それだけですか?!」
「はあ?これ以上、何があるんだよ」
“ダルク”に所属している人たちは全員あの事を知っていると思っていた。
私が“ダルク”の建物に放火したのと、ドラゴンと一緒に逃げたことを。
しかし、彼の様子からどうやら違うことがわかった。
「オーウェンさん、頼みがあります」
「お?おお……」
こちらの気迫に押され、オーウェンが後ずさる。
大柄の男が壁際に追い込まれるという謎な構図が出来上がった。
「ほら、これが遺跡に詳しい奴らの一覧だ」
「ありがとうございます!」
人気のない路地裏で取引されているものは、ただの紙。
オーウェンは約束通りのものを持ってきてくれた。
「しっかしまあ、もう一つの頼みが“ダルク”の連中にお前のことを言うな……か」
「痴情のもつれで」
「……お前、それの一点張りだな」
「痴情のもつれで」
「わかった、わかったから!」
正直に言うわけにはいかないのだ。
言ったが最後、私は牢屋にぶち込まれてしまう。
(今、今だけしのげればいい)
真実を知る“ダルク”の人間が私の存在に気付いたとしても、行方をくらましていれば問題ない。彼らも、私を追うほどの暇を持て余しているはずがないのだ。
「じゃあ、またな」
「はい」
向けられたオーウェンの背に、少しの申し訳なさを感じる。
これから先、もう彼と会うこともないのだろう。
「ご苦労、オーウェン」
「はっ」
椅子に座らされた私は、現在絶体絶命の危機にあった。
「さて、お前さんはイアか?」
「チガイマス」
目の前に座っているのは、“ダルク”のリーダーであるゲイルだ。
非常に残念なことに、私はオーウェンに売られてしまった。
(いや、売られたというより気づかれたと言うべきか……)
まあ正直、オーウェンにこちらの存在がバレた時点で覚悟はしていた。
でも、捕まる覚悟はまだできてなかったよ……!
「こんなドラゴンに見覚えは?」
(うわあー、よく描けてるなぁ)
レオンがそのまま紙に映し出されているようだ。
でも、この顔のレオンはあまり見たことがないなぁ。
「怒ってるドラゴンですか?」
「そうかそうか、お前さんには怒っているように見えるのか」
ニッコリと笑いかけられ、自分の最期を悟る。
(ごめん、宿にいるレオン。私はもうダメみたいです)
「で、お前さんの名前は?」
彼の結論はすでに出ている。
これは質問ではなく、確認作業だ。
「……イアです」
脳内で監獄生活が繰り広げられる。
シュミレーション1で、私は病死した。
「すまない!」
「……え?」
想定外の言葉に、反応がワンテンポ遅れる。
このリーダーは、一体何を謝っているのだろうか。
「頼みがあるんだ」
「オーウェンさん、無理です!帰りましょう!」
「オレだって帰りてぇよ!」
現在、私たちはモンスターが蔓延っていた山を登っていた。
「モンスターがいないの、一周回ってコワいっ」
「……あいつが狩りつくしたんだろ」
そう実は、この山にモンスターはほぼいない。
なぜなら、彼の御仁がいらっしゃるから。
「ユラン……さんですよね?」
「そうだ。今は“赤い狩人”じゃなくて“ドラゴン狩り”って呼ばれてる」
(……レオンと絶対に会わせないようにしよう)
恐ろしい二つ名を聞き、ポケットの中に手をいれる。
すると、中にいたレオンが甘えるように指を舐めてきた。
(癒される)
「これから、あいつの回収に行くのか……」
「言葉にしないでください。気が滅入ります」
ユランという人物には、ここまで恐れられる理由がある。
一つ、モンスターというモンスターを狩りまくる戦闘狂だから。
これ昔から変わっていないらしい。
二つ、狩り以外に興味を示さないから。
言い換えると、それ以外どうでもいいと思っている非情さがある。
三つ、ある時から異様にドラゴンを狩りだしたから、ほんと異様に。
「……ドラゴンってモンスターの中でも強い方ですよね?」
「……強いなんてもんじゃねぇ、最強格だ」
「「…………」」
そんな恐ろしい人物のお迎えに来た理由はたった一つ。
“ダルク”のリーダーに頼まれたからだ。
このミッションを成功させたら、火事の件を不問にしてくれると言ったのだ。
裏を返せば、それほどに難しいミッションだというわけだ。
「お互い、生きて帰れるといいですね……」
「縁起でもないこと言うんじゃねぇ!」
血の臭いが漂う山の中を、私たちは死んだ顔で歩いていった。




