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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第2章 追うは狩人の性
19/48

19 小さくなったドラゴン


 深い森のなか。

 危険なモンスターが闊歩する「蒼の森」と呼ばれる場所。

 そこには、ある廃村があった。


「おい、聞いたか」

「何が」

「あの森にある廃村に……出るんだよ」

「モンスターが?」

「バッカ、ちげぇよ!……幽霊が、出るんだよ!」

「へえ~」

「本当なんだって!」


 「蒼の森」の近くにある集落では、その幽霊の噂で話がもちきりだった。 

 娯楽の少ないこの小さな集落では、この噂に対して大いに賑わっている。


 そんな話をしている人々とすれ違いながら、フードを深く被った者は思った。



(それ私だな)



 背中に汗が伝っている。

 そう、私は最近ここら辺にやって来た。


 集落に住むのは前回の経験上やめておいた方がいいと判断し、とった策が廃村に住むだったのだ。


(こんなにも早く、噂になるとは……)


 レオンが狩ってくれた獲物を売りにここまで来たが、まさかこんなことになっているとは思わなかった。やはり、人から離れて暮らしていると人に対して鈍感になるようだ。


 確かに、ちょくちょく廃村に来る人がいるなぁと思っていた。

 しかし、ここまで噂になるとは思いもしなかった。


(また引っ越しかな)


 集落の傍で待機しているであろうドラゴンと、また空の旅をしなければならないらしい。


(……レオンは喜ぶだろうなぁ)


 一つ所に居続けたい私とは真逆に、レオンは色々なところに行くのが好きだ。

 ドラゴンの習性で、世界を飛び回りたいというのがあるのだろうか?


 何度目か分からない引っ越しだが、嫌ではなかった。

 むしろ、少し楽しみだ。


(地図買おう)


 さっき獲物を換金してできたお金をもって、お店へ向かった。


 






























「れれれ、レオーン!」


『クル』


「なぜ、なぜこんなことにッ!」


『クルルー』


 呑気に鳴いているドラゴンに滂沱の涙を流す。


「こんなにちっちゃくなっちゃって!!」


『クル~ル』


 手のひらサイズになってしまったドラゴンが可愛らしく鳴いている。

 これでもうドラゴンじゃなくて、トカゲだ。


「私が遺跡に目がなかったばかりに……!」


 事の発端は、「蒼の森」を出発してからだった。


 絶叫しながら空を飛んでいると、下に遺跡のようなものが見えた。

 行先も特になく、時間も有り余っている私は、その遺跡に立ち寄りたいと思った。

 そう、それがこの大惨事を引き起こすトリガーだった。


 朽ち果てた遺跡に、何かの石板があった。

 トレジャーハンター気分だった私は不用意にそれに触れてしまったのだ。


 触れた瞬間、熱と光を放った石板から私を庇ったレオンは―――。


「トカゲに……!トカゲにーー!」


『グルルゥ』


「あ、トカゲはご不満ですか」

 

 トカゲという言葉に低い唸り声をあげるドラゴン。

 思わず背筋が伸びる。


「でも、ほんとにどうにかしないと……」


 手のひらの上でパタパタと飛んだり、寝転がったりしているドラゴンに頭を抱える。


 油断していたのだ。

 モンスターが闊歩する世界だから、魔法みたいなものはてっきりないのだと。


「……そっちは不便じゃなさそうだね」


『クルル~』


 こちらは頭を抱えているのに、レオンの方はとても楽し気だ。

 自分の体のサイズが小さくなって新鮮なのかもしれない。


 小さくなったドラゴンを指でつついていると―――。


 ゴアアアァアアッ


「え!?」


 バキバキバキィッ


 木々をなぎ倒して現れたのは、デカめの熊だった。

 頭に角が生えているその熊は、明らかに強そうだった。


「まっ、聞いてないーーーッ!」


 ガアアァアッ

 

『グルルァアッ』


「え?レオンッ!」


 手からするりと抜けたレオンは、熊の目の前に立ちはだかった。

 マズい、コバエと人間くらいの差がある。

 

「ちょ!レオ―――」


 ポっ


 レオンの口から小さな炎の玉が出てきた。

 ゆっくりとしたスピードで、ゆらゆらと熊へ飛んでいく。


「……ん?」


 熊の体にその火の玉が当たったと思った瞬間。


 ドゴォーーンッ


「うわあああ!」


 ビュオオオオーーー


 凄まじい風圧と共に、火の粉が飛び散る。

 そして、私の前に急いでレオンが飛んできた。

 ……なぜか、風圧が少し和らいだような気がした。

 

 風がおさまり、周囲を見渡す。


「……わあ、焼け野原」


 熊がいた場所を中心に、地面が真っ黒になっている。

 ……あの小さな火の玉に、どれほどのエネルギーが圧縮されていたのだろうか。

 

「いや、考えないでおこう……」


 こうして、小さくなっても安定して強いドラゴンと共に旅を続けることになった。





























「ようこそ、ユグドーレへ!」


 門番から歓迎の言葉を受け、私は大きな門をくぐった。


 大陸で最もモノが集まると言われている巨大な集落、ユグドーレ。

 なぜ頑なに都市とか言わないのか疑問だが、そんなことはどうでもいい。


 ここに来た目的はひとつ。

 今はポケットに入っているミニマムなドラゴンを元に戻す方法を探すことだ。


「……レオン、大丈夫そう?」


『クルー』


 ポケットからくぐもった鳴き声が聞こえてきた。

 どうやら、息はできているようだ。


「まずは図書館に行こう」


『クルル』


「あ、レオン。なるべく鳴くのは我慢しておいて」


『クル』


 物分かりのいいドラゴンで助かる。

 そして、私は門番に教えてもらった図書館へ向かった。









「ダメだ、載ってない……!」


 魔法の存在について調べてみたが、どの文献にも載っていなかったのだ。

 この世界でも、魔法はファンタジーである可能性が濃厚になってきた。


 これ以上の収穫はないだろうと思い、とっていた宿へ向かう。


 宿に残してきたレオンが心配だ。

 何もないといいけど。


「「「キャアアーーー!!!」」」


「ん?」


 遠くから黄色い悲鳴が聞こえてきた。

 どうやら、大通りの方でなにかあるようだ。


 イベントだろうか。


(道理でそこら辺に飾りがされているわけだ)


 大通りは避けておこうと、ユグドーレの地図を広げる。

 そして、帰りのルートを決めた時だった。


「“ダルク”の方々よ!」


「!?」


(“ダルク”!?)


 パサッ

 

 持っていた地図を地面の落とす。


 そんなの聞いてない。

 門番の人だって“ダルク”が来るとか言ってなかったのに……!












「え?ユグドーレって“ダルク”の本拠地なんですか?!」


「アンタ、知らなかったのかい?」


「え、ええ、まあ」


 急いで宿に帰り、そこの女将さんに“ダルク”について聞いた。

 まさか、ここが“ダルク”の巣窟だったとは予想だにしなかった。


 呆然としながら部屋に向かうと、可愛らしいトカ……ドラゴンが出迎えてくれた。


「レオン、大変なことになった」


『クルッ?』


 レオンが小さくなった手掛かりを掴むには、人と物が溢れかえり情報が満ちているこの場所が最適だ。


 しかし、“ダルク”の面々がいるとなっては話がかわってくる。


(早くここを出よう)


 図書館で遺跡に関することを調べたら、すぐにここを去ろうと決める。


「大丈夫、レオンは私がもとに戻すよ」


『クルル~』


 肩に乗っている小さなドラゴンを見て、少しだけ気分が良くなった。







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