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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第1章 ドラゴンと人
18/48

18 犯した罪



(うおおおーー!いくぞッ!)


 ……カチャ


 心の声とは真逆に、静かな行動を開始する。

 窓からスルスルとおろしているのは、部屋の布という布をかき集めてできたロープもどきだ。



 もうお分かりいただけただろうか。



 そう、私は今から一世一代の大脱走をしようとしている。


 言い方が大袈裟?

 ……奮起しないとやってられないこともある。







 


 道中、誰にも見つかることなく脱出した私は、厳重に鍵がかかっていた鉄の扉を開いた。


 ギイィィィ


「……っ」


 できる限り、息を忍ばせる。

 こんな場所に、ドラゴンが囚われているだなんて。


(……行こう)


 壁にかけられた篝火を頼りに前へ進む。

 気を抜けば、ごつごつとしたこの地面に顔面からダイブしてしまう恐れがある。


 ピチョンっ


 どこかで水がはねる音がする。


 どうやらここは、洞窟を改造してつくった牢獄らしい。

 鉄格子を堅い岩にめり込ませ、牢の役割を果たしている。


 どうやってこの鉄格子をめり込ませたのか想像もできないが、あの狩人たちならこんな離れ業もやってのけるだろう。


 ザリッ ザリッ


「!」


 誰もいないこの牢獄で、何かが地面をかいている音がした。


 音がする方へ、私は一目散に走った。


























「レオンっ」


『グッルゥ』


「え?鳴き方変わった……?」


『クルルル』


(気のせいか)


 意外と元気そうなドラゴンが牢の中に囚われていた。

 手足と口につけられた拘束器具がジャラジャラと音を立てる。


「大丈夫?動ける?」


『クル』


 ジャラッ ジャラッ


 鉄格子の傍まで来たドラゴンは、格子の升目から鼻先をだした。

 口についた拘束器具のせいで少ししか出ていない鼻先を、優しく撫でた。


「……出よう、ここから」


『クルル』


 ここに来るまで、多くのものを犠牲にした。

 残された道は、もうこれしかない。


「きっと見つかるよ!……私たちの帰る場所が」































「おいッ消火を急げッ!」


 人々が燃え盛る炎に水をかけている様子を、ある狩人がただ見ていた。


「ユラン、何をそんなに考えているんだ」


 一通りの指示を終えた“ダルク”のリーダーが、そんな彼に話しかけた。

 多くの狩人が、彼らの周りを駆け回っている。


「おい、黙ってないで―――」


「ユランは気になってるんだよね」


「デイル?なぜここに」


 二人に話に割り込んできたのは、ここにいないはずのデイルだった。

 

「お前、見張りは……」


 目を見開いているリーダーを無視し、彼はユランに顔を向ける。

 彼の顔は、笑っているようにも怒っているようにも見えた。


「あの子がどうしているか、気になってしょうがないんでしょ」


「見張りはどうした」


 リーダーと同じことを質問するユランを笑顔で黙殺する。

 そして、デイルはある方向を指差した。


 二人がその方向を向いた瞬間。


 ドゴォーーン


「なっ?!」


「………」


「派手にやったねぇ」


 三者三葉の反応を見せながら、皆が空を仰ぎ見る。


 

 天高く羽ばたいていく一頭のドラゴンを。



「なぜ、あのドラゴンが!」

 

 牢獄に捕らえていたはずのドラゴンの姿に、リーダーは目を見張る。


「お前か」


 しかし、ユランは違った。

 元凶を目でとらえ、真実を追求する。

 

「えー?何のこと?」


 半笑いで空のドラゴンを見ているデイルは、この状況に満足しているようだ。

 ドラゴンを追っていた目は、殺気がする方へ向けられた。


「僕があの子の脱走を手伝ったこと?」


「!」


 バッ

 

 ユランは目に入れてすらいなかったドラゴンを見る。

 よく見てみると、ドラゴンの背に何かがいた。


「お前……」


「残念だったね、逃げられて」


 ドラゴンの脱走は気にもしていなかったユランが、()()()の脱走には激怒している。


 まったく滑稽だ。

 デイルはそう思った。


「まあ、この火事は僕のせいじゃないけどね」


 双剣を抜き、空の方を見ているユラン。

 こちらの声はもう耳に入らないらしい。


 横を見てみると、リーダーはすでにいなかった。

 おそらく、ドラゴンの再捕縛にいったのだろう。


 ギャリイィィイッ


「相手してあげるよ」


「邪魔をするな」


 刃とナックルが交わる。 

 どこかへ向かおうとしたユランをデイルが止めたのだ。


「あの子には逃げてもらわないと」


 そうでもないと示しがつかない。

 デイルの、狩人としての示しが―――。


  


















「うひゃあああーー!」


 バサッ バサッ ドスン


「うへあ」


 着陸した安堵と、今までの浮遊感が一気に襲い掛かってくる。

 まったくもって、凶悪な空の旅だった……。


『クルル』


「うん、大丈夫……」


 ドラゴンの優しさが身に染みる。

 私はレオンの顔を優しく撫でた。

 

 レオンの口には、もう拘束器具はない。


(まさか自力で拘束器具をはずせるとは……)


 道中にあった小ぶりのハンマーを拝借したものの、レオンは自力で拘束器具をはずした。なんなら、あの牢獄の天井も自力でぶち破った。


(……私、必要なかったのでは?)


 申し訳なさが猛烈に沸き上がってくる。

 レオンだけであれば、あんな所に囚われていることはなかった。


 私というお荷物のせいで、このドラゴンはあそこに囚われていたのだ。


「……ごめん」


『クールル』


「うわわっ」


 はむはむと頭を食べられる。

 ……気にするなと言っているようだ。


「うん、ありがとう」


『クルックルルー』


 お礼を言ったのがわかったのだろう。

 ご機嫌に鳴きながら、尻尾を振っている。

 

 うん、地面の雑草たちが可哀想。

 尻尾は控えめに振ろうね。


「…………」


 この丘からは遠くがよく見える。

 太陽を反射している海は、本当に綺麗だ。


(私も犯罪者か……)


 海の向こうでは、もう火はおさまっただろうか。

 ……まさか粉塵爆発があそこまでとは思わなかった。

 ただ爆発させるつもりだったのに、大爆発した。


 そして、倉庫が燃えてしまった。


 これでもう、もとには戻れない。


(……放火は大罪だからね)


 人がいなくて周囲に何もない倉庫だったとは言え、あそこは“ダルク”所有の建物。

 指名手配犯にはされているだろう。


 ……正直、他に方法はなかっただろうかと自問自答する。


「でも、彼らが……狩人さんたちが悪い」


 ……私を海へ突き落した、狩人さんが悪いんだ。

 そう思うことで、私は自分の心を保った。



 あそこから逃げて逃げ続けて、数日がたった。



 レオンと共に海を越えて、やっとここまできたのだ。

 

「大丈夫、なんとかなるよ」


『クル』


 自分に言い聞かせた言葉に、ドラゴンは優しく頷いた。












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